音楽を聴いて

涙がでることがある。唐突に。
わが事ながら、自分の涙腺がゆるむポイントは
今もってわからない。

よく覚えている涙のひとつは、
京都のジャズバー クエスト で
アビーリンカーンの Come Sundayを聴いたとき。
もうひとつは
大衆演劇の舞踊ショーでかかった
美空ひばりの 悲しい酒 を聴いた時。
どちらもその後、その曲を求めて聴いてみたけれど
その時は涙が出なかった。
きっといろんな要素がからみあっているのだろう。

アビーリンカーンは、
クエストで初めて聴いた日から、
私の大好きな歌手になった。
そして、その人が日本に、大阪のブルーノートにやってくるというので
大枚をはたいて一人で観にいった。
ドキドキしながらおとずれた会場ではあれあれ?
ステージ前のテーブルで
ホステスさんを連れた背広姿の人たちが談笑…。
こんな風にお客さんを確保しているのか、
でも私は演奏に集中、と思ったらあれあれ、
アビーとバックの息があっていない。
どうも納得いくメンバーで来たような感じではないのだった。

それでもわたしは、
ずっとずっと聴きたかった会いたかった人なので
若気の至りもあって
楽屋まで行って
「自分の歌がわからなくなるとき、あなたの歌をきくのです」
ということをどうしてもアビーに言いたくて、そう伝えた。

ライブを終えたアビーリンカーンは、泣いていた。
そう、とだけ言ったあと、また構わず涙ぐんで
「わかるでしょ。」と言った。

このライブも、
その後人前で歌うことを重ねる自分にとって
とても大切なライブとなった。