7716  三結 シングル






 省エネ版打消し方式の第三弾で、前章の

ミニワッターアンプは本格的な出力管であ

る14GW8にとっては役不足だったので

一回り小型の7716で組み直す事にしま

した。この聴き慣れない球は三極五極の複

合管で、三極管ユニットはブラウン管テレ

ビの垂直発振用で、五極管ユニットは同じ

くテレビの映像増幅管として設計されたよ

うです。

 ぺるけさんの元祖ミニワッターは、ほとんどが双三極管を使っていましたが、それは出力段を三極

管か多極管の三結動作とする方が音質的に好ましいからです。しかしシングルアンプとして使う場合

は、動作点を適切に選ばなければ出力が取れないのですが、出力的にミニワッターアンプに丁度良い

テレビ用の五極管は、三結特性がほとんど公表されてないので使い辛いのです。という訳で、本章の

ミニワッターでも三結時のプレート特性図が必要になるので、五極管特性を元に簡易的に三結特性を

描いてみて、後は実機でのカットアンドトライで動作点を決めようと思います。

 ところが7716のデータシートは何処にも公表されてなくて、現時点で判る情報と言ったら以下

のようなページです。https://www.radiomuseum.org/tubes/tube_7716.html

さらに判っているのは五極管ユニットのgm10000、プレート損失5W、三極管ユニットのgm3200、

μ100、rp31.5kΩという位で、五極管ユニットの類似管は6CX8の五極管部で、三極管ユニットの

類似管は6JT8の三極管部という事でした。

 そこで、まずは三極管ユニットの特性を見ると12AX7や6GW8三極管ユニットの特性に近く

ただgmが倍になってrpが半分になっているようなので、電流値を倍にすれば6GW8の特性図が

使えるのではないかと考えました。これが以下の図です。



前章の回路を踏襲するので、B電圧250Vから33kΩのロードラインを引くと、動作点は2mA付近が

良さそうです。この時のRKは図では1kΩ弱になりますが、これは近い値を入れておいて最終的に

は現物合わせで決めようと思います。

 次に出力段の特性図を導き出す為に、6CX8の特性図からEc1電圧別のグラフで以下のように

Ep=Ec2地点の各電流値を読み取ります。



 さらに同じく6CX8の特性図からEc2電圧別のグラフで、Ep=Ec2の値をつないでいくと

Ec1=0Vの三結特性曲線が描けるので、そこに先に読み取ったバイアス電圧別の電流値をポイント

して、0Vの特性曲線に並行するように主な曲線を描きます。


 ここまで描いてみて、これは6GW8三結の特性図に似ているように思ったので、縮尺を合わせて

見比べてみると、以下のように非常に似ている事が判りました。


 6GW8のgmも10000ですから考えて見れば納得で、これならプレート損失を5W以下にすれば

6GW8の特性図がそのまま使えると思ったので、この図に今回の動作点を描いてみたのが以下の図

です。


 前章の14GW8ミニワッターとほとんど変わらない動作点なので、出力段はそのまま変更せずに

行けるようです。ただヒーター電圧が違うのでヒーター回路のSBDを一般整流用にして、あとは前

段周りとNF周りを変更しました。なお、回路図に載りませんがソケット周りの配線も変更が必要で

すので念の為。という事で、以下のような回路図になりました。




 製作のポイントとしては

 ポイントといっても、真空管が入手出来なければ追試出来ないのですが、今回採用した7716は

あまり出回ってないようです。しかしテレビの発振映像増幅の複合管は、6AW8を始めとして様々

な球が出ていたので、これらを上手く料理すればミニワッターに活用出来ると思います。本章で三結

特性図の導き方をくどくどと説明したのも、類似球の活用を考えていたからで、これらの埋もれた球

を生かす事が出来たら、それこそが真空管アンプビルダーの本領発揮ではないかと思います。

 本来ならカーブトレーサー等で三結特性を測定出来れば完璧なのですが、生憎と私も周囲の友人知

人も持っていないので、そこは上記のような創意工夫で乗り切りたいところです。

 その他の製作のポイントは前章の記述を参考にして下さい。


     諸 特 性

  一回り小型の出力管になったの

 ですが、やはり出力段の特性が似

 ているようで、前章とよく似た歪

 率特性になっています。

  ただ、前段球のgmが上がった

 所為で全体の利得も大きくなり、

 連動してNFが増えたので、歪は

 やや少なくなっています。


 利得 15.1 dB (5.7倍)

 NFB 11.6 dB (3.8倍)

 DF= 9.1 on-off法1kHz 1V

 無歪出力0.91W THD1.4%

 残留ノイズ 0.11mV



 次に周波数特性ですが、高域のアバレ対策で補正を多めに入れているので広帯域とまではいきません

が必要十分な特性は確保していて、最終的に10〜65kHz/−3dBの特性が得られました。




 さらに高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でもまったく安定していま

す。僅かにリギングが見られますがOPT高域端の特性が出たもので安定度に影響はないでしょう。


 ここまで諸特性を見てきたのですが、前章と遜色ない特性が得られていると思います。一方で本機

に採用した真空管は前章同様に特殊なヒーター電圧だったので、ヒーター巻線を倍圧整流して供給し

ていて、結果的に傍熱管のDC点火という事になり非常にノイズの少ないアンプとなりました。さら

に小出力という事でもあり、このセットならヘッドフォンアンプとしても便利に使えるのではないか

と思います。


 後   記

 前章の14GW8/PCL86三結アンプはOPTに小型のT−1200を使っていたので、本格的な出力

管である14GW8と組ませるのには荷が重く、逆に14GW8にとっては先にも書いたようにミニ

ワッターで使っているOPTも電源も役不足でした。そこで完成直後には出力管の載せ換えを考えて

いたのですが、当初から映像増幅管が良さそうだと思っていました。そんな時にオフ会で7716を

頂戴する機会があって、これは使えそうだとは思ったのですが肝心の特性が判らず手付かずになって

いました。しかし今回試行錯誤しながら何とか動かしてみると、ミニワッターに最適な出力管である

事が判りました。こうなると他の映像増幅管でも試して見たいと思うのですが、映像増幅管は各社の

テレビに使用されていたので非常に種類が多く、また特性も微妙に違うので一義的に定数を出す事も

出来ません。なのでいきなり常用機ではなく、まずはバラックセットで実験する事になると思うので

すが、いつか機会があったら是非とも再挑戦して見たいと思います。



前章のアンプ  

14GW8/PCL86 三結 シングル
広帯域アンプ



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