秋尾敏の俳句


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第5句集『ふりみだす』
第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2026年


「軸」6月号 アウディの鼻
少年を空へえんどう豆の蔓
草の名を忘れて母の日が遠い
アウディの鼻に緑雨が垂れて夜
薔薇いくつ崩れて隣町に住む
青々と水に誤読のある植田
声域は緑蔭アンソニー・パーキンス
夏の蝶荒い呼吸をして谷へ
かすむ眼の抽象となる麦の秋
明滅の蛍光灯に最後の夏

「軸」5月号 窓を拭く
濃い雲が来て有終のライラック
春光のバイクに新たなる羽音
入学を跳ね三つ編みを大空へ 
行く春のブルース懐を深く
漣や浅蜊の愛の変拍子
うねる蛇口よ春光を鏤めて
鳥ぐもり瀕死の街の窓を拭く
花冷の項にマネキンの殺気
金色の蛇の門出を雲が病む

「円虹」五句「笛太鼓」
春なれや利根の中洲の角取れて
類型のほむらとなって若木の芽
春寒し雨滴は窓を労える
認識が存在となる春の山
笛太鼓男雛はすでに戦場へ

「俳句四季」5月号 地球の棘
海峡の春の寒さを鉄の処女
空爆やこんなに暖かい星を
何方も移民の国ぞはだれ雪
戦乱の浜に寄り合う桜貝
八十年前の掃海雛飾る
霞濃くなる人類は地球の棘
身に潜むつらみいかほど桜の芽
戦争の世紀に出くわした花よ
源五郎虫援軍が来ない
花茨うしろに立たれるのは嫌い

「軸」4月号 オープンリール
青春のオープンリール竹の秋
幸福の信管として桜の芽
病室は山の底なり氷解く
雌しべから始まる神話春の山
草萌に自分が見えるまでの距離
下京の水音低き菜飯粥
縄文の深鉢春光が重い
       千葉現俳総会句会
海峡狭し囀は昨日を語り
  千葉県俳句作家協会稲毛海浜公園吟行
防風の松を斜めに春の波

「軸」3月号 諭せば雪
陽を呑んでおり紅梅の地平線
春浅し筑波の底が光りだす
山稜の輪郭として春の雲
空にたましい芽吹く木がそよぐ
残されたVのアンテナ春の雪
春塵へ銀のリボンが紛れ込む
直線となり曲線となり水温む
人生一度と詐欺の電話を諭せば雪

「軸」2月号 鬼も来ている
閉鉱や連絡船に裂く氷下魚
冬山のうなじに雲が蹲る
難民の咳き谺とはならず
青の倒壊暖冬の氷壁は
鬼も来ている寒芹を湯にほぐす
排他的自己実現や厚氷
大寒の乾燥機にんにんと呻く
空っ風何の力もなく集う

角川書店「俳句」1月号  同じ高さに
シリコンの基板まばゆき初日の出
去年今年同じ高さに空が澄む
諍いは国の尊厳氷の様(ためし)
外交という混沌の四方拝
初夢に角川書店勤め上ぐ
真言は思考にあらず初暦
隣国へ動画で送る福笑い
マイセンの皿に田づくり睨みあう
鳥追の声ジーンズをほつれさせ
傀儡師を操る傀儡オンライン

「軸」1月号 夢の濃淡
老いらくの夢の濃淡福寿草
天空の網目に戻る星仏
一月や銀河に揺らぐ神の指
ほうじ茶は琥珀を眠り雪の雲
冬の霧小学校に隠れ棲む
細波にランプが滲む冬至風呂
世は浮き難し歳晩の雲が病む
隠れ棲む冬将軍の段ボール
さらさらになって木枯山に消ゆ

「西日本新聞」 1月1日 螺旋に追って
太陽を螺旋に追って年新た
わが始祖は騎馬の武者なり稲挙ぐる
農業はもっと自由に御代の春

角川書店「俳句」12月号 君をポップに
行くいかぬ止まるとまらぬ秋の蝶
Cのブルース野分の雲をちりぢりに
冷ややかに宇多田ヒカルの足占かな
鍵盤の影はみな過去神の旅
稲妻に撃たれて逝くわ藤井風
夜寒のキヨスク哲学がポップ
カラオケがなかったころの青木の実
濡れた寒月五度を♯にしてサビへ
枯蓮の老いて軽みという虚飾
詩に飢えた踵を熊が咥えにくる
咳きにホルン嘶く純喫茶
君をポップに石炭を焼べる
寒星の夢から曲がりだす隘路
枯れ芒靡くではなくなびかせる
歯の疼き齲蝕にあらず開戦日
コンバイン雪を見つめて痩せ細る