デジタル電子負荷 2/5 |
3.回路内容 ブロック図を図1に示します。負荷電流を制御する回路、電圧・電流計、CPU、電源から構成されております。
図1 デジタル電子負荷 構成図
3-1.負荷電流制御回路 1)全体動作 電流検出抵抗R1,R2にかかる電圧が一定になるような制御回路となっております。電流検出抵抗によって得られた電圧は誤差増幅器により基準電圧と比較され、VS=VRとなるよう制御が働きます。誤差増幅出力は、ドライバTR2を通じてアクティブ負荷素子であるFET,TR1を駆動しJETます。
2)レンジ切り替え 本器は、2A/12Aの2レンジ構成となっております。大きな負荷電流を流す場合、電流検出抵抗での損失および電圧降下が増えますから、電流検出抵抗を小さくしなければなりません。ところが電流検出抵抗を小さくすると、微小電流の設定ができなくなってしまうという問題が出ます。そこでレンジを2つにわけることにしました。電流検出抵抗は2A用と、12A用の2つを用意し、その切り替えはFETにて行います。そして、電流検出抵抗出力はU11のアナログスイッチにて切り替えられます。2A用には0.5Ω、12A用には0.05Ωを用いますから、この抵抗にかかる電圧および消費電力は、それぞれ2Aレンジでは最大2W/1V,12Aレンジでは7.2W,0.6Vとなります。この抵抗の温度安定性が電子負荷装置の温度安定性を決める大きな要因となっておりますが、温度特性がよく、しかも数Wクラスの定格を持つ抵抗器は大変高価であり、入手も難しいです。そこでここでは性能をあきらめて、一般に入手しやすいセメント抵抗を用いました。この抵抗の温度特性は500ppm/℃(1000ppm=0.1%)もありますから、どうしても電流計や電子負荷の設定確度が悪くなってしまいます。たとえば、負荷電流を流して、電流検出抵抗の温度が10℃上昇したとします(電流検出抵抗は数Wもの電力を消費するわけですから、10℃くらい簡単に上昇してしまいます)。すると電流検出抵抗は5000ppm、すなわち0.5%もずれることになります。この値はそのまま電流計や電流設定の確度に結びつきますから、どうあがいても0.5%以上の確度を求めることはできないということになるのです。実際には、電流計においては周囲温度や電流計回路の各部誤差、電流制御系においては制御系自身の持つ誤差、DACの設定誤差などが加味されさらに確度は悪くなります。
3)負荷電流の設定電圧 負荷電流を決める電圧VRは、12bitDAコンバータLTC1257により作成されます。このDACは、500uV/LSBの分解能を持ちます。12Aモードのときは、VR=1Vで10Aとなり、2AレンジのときはVR=1Vで1Aとなるよう制御が働きます。DACの分解能は500uV/LSBですから、負荷電流の制御分解能は12Aレンジのときは5mA/LSB、2Aレンジのときは0.5mA/LSBとなるわけです。 なおLTC1257は積分直線性として±2LSBもちますから、これも当然誤差として出てきます。つまり、12Aレンジのときは設定値よりも最大±10mA誤差がでるということです。
4)スルーレート調整回路 過渡応答試験のとき、急激に電流を変化させるわけですが、そのときどの程度急峻に電流を変動させるかを決めるものです。抵抗とコンデンサによるCRフィルタをDA出力にいれることで、スルーレートを決定します。
5)電源投入時におけるシーケンス回路 電源投入直後は、CPUも働いていないわけですから、本器に電源などをつなぎっぱなしで本器の電源をONにしてしまいますと、CPUの設定が終了するまでの間、たとえばDACから出力電圧が出てしまうなど意に反して負荷電流を流してしまう可能性があります。そこで、電源投入からCPUのセットアップが終了するまで、負荷電流を流さないようにする回路が必要となります。それがU17とU15で、電源投入から少しの間、U17の信号によりU15のSW4をOFFにしておくことで、アクティブ負荷であるFETのゲートに電圧が加わらないようにしてあげます。このSW4は、保護回路動作にも用いております。
6)絶縁回路 負電源の負荷としても使えるよう、この回路は入力を電気的に絶縁する必要があります。そこで、信号ラインはフォトカプラにより絶縁をし、電源は絶縁タイプを用いることで、負荷入力端子の絶縁を実現しております。
7)CC/CR切り替え 定電流モード(CC),定抵抗モード(CR)の切り替えは、U11のSW3,SW1にて行います。CCモードのときはSW1をONにし、SW3をOFFにすることで、制御が働くようにします。CRモードのときは、SW1をOFFに、SW3をONにし、アクティブ負荷素子の制御を制御回路から切り離します。
8)キャリブレーションデータ 実際に負荷電流制御を行うとき、例えば2Aレンジのとき、VR=1Vとしたら必ず負荷電流は1Aになるわけでなく、どうしても誤差が出てしまいます。これは、負荷電流により制御のループ利得がかわることと、定常誤差を持つためです。そこで、これら誤差をなくすために、負荷電流を設定するためのキャリブレーションを行います。 具体的には、2Aレンジのときの、20mA,200mA,2Aの負荷電流を流すためのDACの値、そして10Aレンジのときの、200mA,2A,10Aの電流を流すためのDACの値がキャリブレーションデータとしてEEPROMに格納されます。任意の負荷電流が設定されたときは、これらキャリブレーションデータを元に設定値の負荷電流に対するDACの値を計算にて得ます。なお、回路に使用した電流センス抵抗の温度係数が500ppm/℃と悪いため、たとえば23℃の環境において得たキャリブレーションデータを、周囲温度40℃の環境で用いた場合、かなりの誤差が発生してしまいます。ここではこの誤差はあきらめることにします。 |