私は幸福、昔も今もこれからも 
(宇野千代著 生きる幸福老いる幸福より)



 人の生きるということは思いがすべてである。人間は、心がその存在のすべてである。
私は老齢になって、この思いがいっそう深くなったのを感じている。
 毎日の、この一瞬、一瞬こそが、生きることなのである。私は、この一瞬、一瞬、意識を
明瞭にして生きなければならない。
 
平成4年の4月2日から1週間、日本橋の高島屋東京店で「宇野千代展」が開かれるこ
とになった。年が明けて、大よそのわく組みが出来た。題名は「私は幸福、昔も今もこれ
からも」と決まった。会場には中央に、あの淡墨のさくらを造花でつくってしつらえるとい
う。私の机や箪笥を持ちこんで、書斎を模した広間も出来るという。

 私は18歳の時、生まれ故郷の岩国で小学校の代用教員をして以来、95歳の現在ま
で、1日も働かない日はなかった。小説を書き始めてからは大よそ、75年になる。その
間、雑誌の刊行にもたずさわったりもした。着物の仕事を始めてからでも40年。これは
、今でも続けている。

 恋もした。結婚もした。そして4度の結婚。働いて愛して書いて、生きてきた。この私の
95年の人生を展示しようと言うのである。

 この95年の人生を貫いたものは何であったか。それはひたすらに幸福に向かって生
きることであった。行動することであった。この展示会が「私は幸福、昔も今もこれからも」
という題に決まったとき、私には、これ以外の言葉はないと思えたものである。


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