ライン随想録 1997年8月26日 井浦幸雄

歯の健康維持について

明眸皓歯とは美しい眸と、白い歯で美人の一つの条件であったらしい。高齢化社会を迎えて、歯の健康維持がますます大切になって来ているようだ。アラブのらくだ売買でも買手はらくだの歯の状態をまっさきにチェックするらしい。丈夫ならくだは、歯の状態が良好なものに多いと、経験で知っているからであろう。

今日の話は、わたしの経験から日本の歯科医療に疑問を投げかけるものである。とくに、歯石の除去は診療報酬の点数が低いためか、日本の歯科医はどこでもかなりおざなりである。また、患者はこれが歯周病の大きな原因になっているのに気がつかないで、気がついたときにはもう手後れということが多いようだ。

子供のころ終戦直後で甘いものが少なかったためか、わたしは小さいときから、幸いな事にいままで虫歯が一本もない。ただし、歯の健康維持と歯石の除去のため、日本の歯医者に6か月に一度、定期点検にいっていた。日本の歯医者では、良い歯並びですね、虫歯はありませんね、軽く歯石をとりますと、簡単に除去作業をするだけだった。また朝晩の歯磨きは励行していた。

1985年に第二回目のワシントンDC勤務となり、人に紹介され、DR.シフレという市中心部の歯科医に歯の定期点検に出かけた。2−3回目の検診のときだったと思うが、軽い歯周病のきらいがあり、手術をすすめるといわれた。歯茎のポケットを削除し、歯茎を歯にしっかりと、結びつけ歯周病の進行をとどめるものであった。近くのDR.ミラーというひとのところに通い、3か月ほど掛けて4回にわたり、前後左右数本の歯茎を切開・縫合する手術を実施してもらった。幸い経過は順調で、その後歯周部分を含め、何ら問題は起こっていない。1989年からのスイス・バーゼル居住では、スイス人の歯医者・シュッツにかかっているが、ワシントンでの手術のあとはうまくいっているとの評価であった。

それにしても釈然としないのは、日本で定期的に歯科医に通っていたのに、歯周病の警告がまったくなかったことである。スイスにいく前、若干東京で時間があり、DR.ミラーの紹介してくれた、青山の川崎歯科という、保険が利かないという歯周病の専門医を訪問した事がある。日本の医療保険制度のもとでは、相当歯周病が進行しないと手術とはならない、開業医の歯石の除去もおざなりである、との話であった。

確かに、歯の矯正、治療ではコストがかさみ、歯科医療保険のカバーも日本ではグループごとにばらつきがあるようだ。ただ、アメリカでは歯並びの矯正や歯周病の予防にかなりの努力と資金が使われているのに対し、日本ではかなりいい加減にされているような気がしてならない。女性の歯のやいばも日本では「かわいらしい」とポジティブに評価されているが、アメリカではドラキュラの歯のようだとして、ただちに矯正の対象になるらしい。一方で、歯周病のために歯が抜けてしまった人に対しては、顎骨などに、金属ないし、シリコンのネジを埋め込み、新たなさし歯をする技術などは日本は進んでいると聞いている。

国により、歯科医療の力点の置き方がことなり、一概に比べる事はできないだろうが、日本に住んでいる人は、40歳台ころから歯周病には細心の注意が必要のようだ。歯が抜け落ちるのを好まない人は、保険でカバーされていない、歯周病の専門医に年に一度くらいは相談にいき、歯の手入れの仕方、歯の健康維持の仕方を良くおしえてもらったほうが良いように思う。(以上)
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