「不将 不迎 応而 不蔵」  
(荘子)



  好きな言葉  

 古賀憲介氏(元新日本製鐵副社長)[日経新聞より]



不将=オクラズ=過ぎ去った事を悔やまない

不迎=ムカエズ=先の事をあれこれ取り越し苦労をしない


応而=オウジテ=事態のの変化に対応して

不蔵=ゾウセズ=心に何もとどめない




  私がこの言葉に出会ったのは50歳前後、公私共に事の多いころであった。 たまたま、先輩の宇野哲人先生が遺著「一筋の道百年」の中で、自分の処世の 信条として後輩にも推奨されているののを拝見して、早速「座右の銘」として 頂戴ちょうだい)する事にした。

 白寿(九十九歳)を迎えた先師が、 五十=天命ヲ知ル、 六十=耳順、 七十=心ノ欲スル所ニ従イ矩(のり)ヲ踰(こ)エズ、 の域を経て、最後に到達されたのがこの心境ということになる。 某日、三菱商事の諸橋晋六社長から、厳父諸橋轍次先生から、 「不将、不迎」を人生の教訓として授かったことを伺った。

中国哲学の泰斗で、それぞれ長寿を全うされた両先生が、 この荘子の言葉を重用されたことは、誠に示唆に富む話である。



  不将(オクラズ)、不迎(ムカエズ)、どちらもやや消極的な感触を与えるが、
応而(オウジテ)、不蔵(ゾウセズ)、眼前の歴史的現実に全力を挙げて正しく対 応して事あれば心に残すところ無しというのは実に積極的な力強い生き方を示唆し ている。                         

        宇野先生は白寿祝賀会の席上「私の長生きした原因は、つまりいろんなことにクヨ
       クヨいつまでもしない、取り越し苦労をしない、そして、事が済んだらさっと
       忘れちまう」とさとされている。まさに人生の達人の心境であろう。
 思い煩うことの多い時、この言葉をくちずさむと、清涼の風が一瞬、胸中に吹き渡       
る心地がする。


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