人生90年時代、自立したシニアに向けて 


 シニア・ライフ・プランナー 川上 健二 氏 記 
(日経新聞197/2/28夕刊から抜粋)


 老人から朗人へ変身を 



 いきいきシニアライフの創ープランニングと実践法 



 シニアライフに対する考え方が進んでいる国はアメリカです。「オールダー・
アメリカンズ・アクト」という高齢者法の第一章の中に、シニアライフを考える上で
実現すべき目標が掲げられています。
 まず「適切な収入があること」、それから「可能な限り優れた身体的・精神的な
健康」、そして「健康で名誉ある尊厳な老後」。我々がシニアライフを考える際に
もこうした点が重要な気がします。
 またアメリカには「ジェントロンジー(加齢学)」という学問さえある。いかに上手
に歳(とし)を加えていくかを学問のレベルで考えようというわけです。残念ながら
日本にはまだありません。



 昨年、私は「シニア・ライフ・プラン読本」(近代セールス社)を出版し、その中で、
既に「人生90年時代になって来て、それなりのライフプランを立てることをかんが
えなくてはいけない、言い続けています。現代の三大死因(がん・心疾患・脳血管
疾患)を除去した場合の平均寿命の延びは8−9年と言われています。
 今年、私は「人生二十五年ステージ説」を唱えて行こうと思っています。それは
二十五歳位までが「学びの期間」、次の五十歳までが「会社人の期間」、次の七十
五歳までが「社会人の期間」。シニアとして何らかの形で行動し、社会にその存在
を誇る期間です。そして本格的に余生を楽しむのは、七十五歳以降。この期間に
初めて自分自身も生きがいを追求していく。



 中国の宋の時代に朱新仲という人が、人生いかなる計画をもって生きていくべき
かを説いています。
 「生計」ー親から授かったこの身体をどう健やかに養っていくべきか、養生法です
ね。「身計」ーどう
社会人、職業人として社会生活を送っていくべきか計画を立てる。「家計」ー家庭を
いかにキチンと維持していくかです。最近はこの計画についての自覚を持たない夫
婦が多すぎる気がします。
 そして「老計」ーいかに美しく年を重ねていくかの計画。「ジェントロジー」という学
問がまさにこれに当たります。最後が「死計」です。人間の尊厳を保ちつついかに死
んでいくか。人間の総括と言ってもよい。
 今から八百年前も前の時代に、こうした「五計」が大切だと説かれているんです。
現代の日本人が人生を考える際に、経済や出世のみに関心が向けられているのは、
非常に残念でたまりません。この「老計」「死計」については、シニアライフをある程度
意識する年齢になれば、真剣に考えていみることが必要だと思います。



 多くのサラリーマンは、様々な勘違い、誤解を持って生きているのではないでしょう
か。その一つが「ポジション(地位)」に対する誤解です。地位を人間の「偉さの象徴」
だと勘違いしている人が結構います。「会社人」の方ほどその傾向が強い。地位・肩書
は組織内での責任範囲を示したもので、人格や人間性とは何も関係ないことを知るべ
きです。
 シニアライフを楽しく送るためには「BEism(肩書・所属主義)」から「DOism(行動
主義)」へ変えていかなければいけません。現役時代の地位にこだわりそれをいつま
でも引きずっていたのでは、真の社会人への変身は不可能です。
 誤解の二つ目は、会社生活こそが人生のすべてといった、生き方に対する誤解です。
仕事が生きが
いとか、仕事がすべてといった勘違いから早く脱皮して下さい。こういう人に限って「定
年イコール人生の終焉(えん)という考え方をしがちで、生きがいをなくしてしまいます。



 家庭の仕事は何もしなくてよいと思っている人も多い。これも大いなる誤解です。人生
九十年時代には、身の回りの事(食事・掃除・洗濯)くらい自分で出来るようでなくては
いけません。
 いつまでもすべてを奥さん任せでは、長いシニアライフをお互いが納得しながら生きて
いくのはむずかしいのです。「男子厨房に入らず」なんていうのは、平均寿命六十年のこ
ろの感覚です。
 サミュエル・ウルマンの詩に「わかさ・青春」というのがあります。その冒頭に「若さとは
人生のある時期のことではなく、心の状態のことである」とうたっている。私はこの言葉が
好きです。



 いきいきシニアライフのためには、まず心が元気でなくてはならない。我が国では「老い」
に対するマイナスイメージを持つ人が多すぎます。「老」すなわち弱であり衰であり、醜で
あるとイメージしている人さえいる。まずこうしたイメージを捨て去ることから始めてもらい
たいでのす。
 心が元気であるためには、好奇心を失わず、積極的に自分の身体を動かすこと、そして
もう一つ、加齢するほど素直になることです。簡単なようでこの三つを行動に移すことは難
しい。
 自分を年齢によって「老人」:扱いせず、経験豊富な練れた明るい「朗人」として、いきい
きシニアライフを過ごしていただきたいと思います。



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