穀物と野菜の機能を持つ「サツマ芋」 


 女子栄養大学教授 五 明 紀 春 氏 記 
(日経新聞平成10年3月2日夕刊から抜粋)



 サツマ芋には二つの顔がある。まず「穀物の顔」。焼き芋の百グラムあたりのエネルギー
は百四十八キロカロリーで米と全く同じ。エネルギーでは焼き芋は完ぺきにコメの代役が務
まる。ビタミンB1、B2、ナイアシンなどのB群およびビタミンEは玄米に匹適する。サ
ツマ芋の微量栄養素は白米よりはるかにい豊富だ。戦後の食料不足時代、基幹食料の重責を
果たした根拠はここにある。
 



 つぎに「野菜の顔」。サツマ芋にはミネラルのカリウムが多く、まさに野菜の特徴を備え
る。カリウムはナトリウムと体内でバランスして、血圧を正常に保つ働きがある。黄肉種の
サツマ芋にはベータカロチンが多く、緑黄色野菜の機能も期待できる。

 それにビタミンCが極めて豊富で、野菜に比べて芋のCは加熱調理によっても壊れにくい。
その点で焼き芋は生野菜と同じ機能を持っている。食物繊維が多いことも野菜的である。
「野菜を濃縮すれば芋になる」といえよう。焼き芋を食べることは効果的な野菜摂取法とい
える。

 

 サツマ芋のデンプン分子はちょっと風変わりである。普通のデンプンはアルハータイプの
ぶどう糖だけでできているのに、サツマ芋ではベータータイプが一部混じっている。ベータ
タイプのぶどう糖は消化酵素で消化できない。このためデンプン分子は完全消化できず、未
消化の小断片が残る。

 未消化物は大腸に下り、腸内菌の栄養源になって発酵活動が盛んにする。炭酸ガス、水素
ガスを発生、同時に乳酸、酢酸などの酸もできて腸管壁を刺激して便秘を予防解消する。お
ならが出やすくなるという困った点はあるが、これこそ野菜の効果である。

 「飢餓時代」の救世主であったサツマ芋だが、今度は野菜摂取不足の「飽食時代」への出
番が増えることを期待したい。



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