老後は海外で永住より長期滞在 
(日経新聞 経済解説部 杉崎仁美氏記)


 生活費安く「摩擦」少ない・コメ恋しくなると戻る 
(日本経済新聞1997年3月29日夕刊より抜粋)



 年金で旅費も 

 ロングステイ計画で黒地捜査官の相談に乗った野間輝一さん(67)に早速、話を聞いた。野 間さんは96年7月から9月まで、夫婦でオーストラリアに滞在した。現役時代、海外経験はな かった。「だから、退職後はどうしても海外に住んでみたかった」。  台所付きモーテルに滞在。地元の人と同じように食料品を買って自炊し、たまに近所の人を呼 んで一緒に食事をした。友達もできた。生活費が安いので、3カ月滞在すれば年金から旅費が楽 に出たという。 今年の夏も二回目を計画中という。  現役引退後のロングステイは増えているのかしら?外務省に問い合わせた。退職後の長期滞在 という分類はないが、海外在留邦人のうち三カ月以上の長期滞在の割合は、83年の47.4% が95年には63.2%に高まった。ただ長期滞在者には企業の従業員も含まれるから、正確な 数字は調べようがない。
 
  でもこんな”証言”を得た。 通産省の外郭団体、ロングステイ財団事務局長の室崎一郎さん(45)は「季刊情報誌 [LONG STAY] の購読会員は約7千人。予想を大きく上回っています」という。財団が主催する ロングステイセミナーはいつも盛況だ。  長期滞在好きが集まったワールドステイクラブは95年に発足、ホームステイなどを組み込ん だプランを企画している。「パック旅行では味わえない体験が魅力」。会長の吉武恭一郎さん (68)は楽しそうだ。最近同じような集まりが各地でできているらしい。  「人生設計の選択肢の一つとして金銭面からロングステイを勧めるフィナンシャルプランナー もいる」と探偵が教えてくれた。  プラザ21(東京・中央)常務の武田米生さん(57)は、「退職後は収入が固定するから、 生活費の安い土地で過ごすのは得な選択。異文化も吸収できる」と話す。武田さん自身も老後は ロングステイを計画中だ。    「増えているのは間違いなさそうだな。でもなぜロングステイなんだ?永住ではないんだ」と いう所長の疑問に、黒地捜査官が答えた、「永久ビザの取得が難しくなっているんだ」。
  福祉財政を圧迫
 オーストラリアの事情に詳しい慶応義塾大学教授の関根政美さん(46)は、「あくまでも オーストラリアの場合」と前置きしたうえで、教えてくれた。  オーストラリア政府は十年ほど前まで、日本の老人を積極的に受け入れようとしていた。日 本人はお金を使うし、健康に不安のある人は看護婦を雇うだろうと考えたからだ。    ところが、政府のもくろみは見事に外れた。豪州は手厚い福祉政策で知られるが、日本人を 除外するわけにはいかず、政府の福祉財政を圧迫するという声が高まって、結局、年金受給者 向けビザの発給が厳しく制限され始めたらしい。  「シルバー・コロンビア計画のとん挫と似ているな」と探偵がつぶやいた。計画は86年、 退職金と年金で老後を海外で過ごそうと発案されたが、「老人まで輸出するのか」と猛反発に 遭った。
 拠点は移さず 
 言葉だって、習慣だって違う。年を取って現地に合わせるのは大変だ。永住はいいことばかり じゃないと考える人が結構多いのも、ロングステイが受ける理由じゃないかしら?  日本が恋しくならない程度に異文化を体験し、リフレッシュする。これがロングステイの極意。 日本や家族を捨てる気ははないし、日本に拠点を置いておけば健康保険も使える。  「パック旅行では満足できない。でも永住はしたくない。コメが恋しくなったら戻れる海外体 験」がロングステイというわけか。  所長が再び待ったをかけた。「どうして海外に出たがるんだ。日本人なんだから、老後も日本 が最も暮らしやすいはずだろう」。
「日本は老後生活をおくりにくい気がします」。調査で出会ったロングステイ経験者で元小学 校長の奥山和宏さん(67)はいう。  奥山さんは政府派遣でアテネの日本人学校長を務めた経験がある。ギリシャに恩返ししようと、 退職後にアテネ郊外に滞在した。「経済水準は日本の方が高いけれど、生活の質はあちらの方が 豊かです」。  特別な金持ちでなくても別荘でのんびりできる余裕がある。時間はゆったり流れ、リラックス できる。若い人はせかせかせず、年寄りに自然に優しく接してくれる。一方、日本じゃ年金だけ では普通の生活でも足が出る。  海外旅行急増で96年の海外渡航者は千六百万人を超えた。「異文化に触れることに抵抗のな い人や前向きな人が増え、ロングステイの門戸が広くなった」と海外生活コンサルタントの福永 佳津子さん(49)は見る。  高齢化社会は目の前に迫っている。「どうして海外に目が向く人が増えているのか、日本で老 後を過ごさないのか。若いからこそ、二人でじっくり考えてみるんだな」。そう言い残して、黒 地捜査官はスペインへ旅だった。
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