隊員報告書5号


6.続×3:私の住む町百色市

 百色には当面隊員がいなくなる(それはつまり日本人がいなくなるということでもある)ので誰の役にも立たないかもしれないが、この町で生活するための諸々を一応書いておこう。5年後か10年後かにまた誰か来るかもしれないし。まあ、そんなに経ったら街の状況も変わってしまって参考にならないかもしれないけど。
 とにかく、私の百色在住1年10か月の総決算である。

6-1 

6-1-1 服を買う

 汽車站正面に突き当たる向陽路、及び中山一路に服を扱う店が散在している。ここで売られているのは割と高めの物だが、それでも下は50元以下から。
 金都批発市場では、ワイシャツ1枚10元などといった安物衣料が手に入る。惜しげ無く汚せる作業衣と割り切れば、これはこれで悪くない。
 中百超市や金都超市でも衣料品を扱っているが、単価100元以上の高級品ばかり。

6-1-2 繕う

 学校の農業経済科が、食堂の脇で営業している。自分でやってもいい。
 安い服は往々にして何らかの手入れをしてからでないと着られない場合が多い。ボタンホールは当然のように開いてないし、ボタンの位置もずれていることが珍しくない。ポケットがあるように見えるだけで、口が開いてないこともよくある。それなら多少高くても作りのしっかりした物を買えと……ごもっとも。

6-1-3 クリーニングする

 市内にクリーニング屋が何軒かある。
 中山二路の郵便局の向かいに一軒あったのだが、いつの間にか無くなっていたので、中山二路の西の方の師範学校横が一番近い。城郷路か桂林街あたりに開店しないかな。


東風市場入口

写真 東風市場入口。
夜になると、このやや右に、炒粉を食べに行く店が開く。


6-2 

6-2-1 外食

6-2-1-1 朝食

 百色で朝食と言えば米粉(米で作った麺)と豆漿(豆乳)である。米粉は基本的に塩とトリガラのスープで食べる。普通の日本人の胃袋なら二両(両は重さの単位)でよいだろう(私は三両食べることが多いが)。唐辛子や薬味は自分で好みの量を入れる。
 学校の飯堂(食堂)は、あきれるほど混雑する上に碗を持参しないといけないため、私は行かなくなった。安いことは安いのだが。で、私が行くのが、農業学校の裏門から城郷路に出たところの店と、医学院正門脇の店である。
 私の部屋は裏門に近いので、裏門の店の近さは嬉しい。麺は丸いもの(スパゲティ型)と扁平のもの(うどん型)がある。麺の種類と分量を言えば、駅の立ち食いそばの如く直ちにホーローの碗に入った米粉ができる。これにニンニク、唐辛子、香菜、落花生などの薬味をのせ、横の鍋に煮立っているスープをかけて食べるのだ。値段は3両で1.5元、先払い。この類の店は町中にあるが、わざわざ遠くまで行くこともあるまい。
 医学院正門脇は「桂林米粉」と看板を出している。他の店とはひと味違うので、行く価値あり。麺は丸型だけで、スープは醤油味。食券制で、のせる具(叉焼とか牛[月南]とか)と麺の量を言って買った食券を調理場に出すと、ホーローの碗に麺と主要な具がのって出てくる。これに薬味をのせ、スープをかけて食べる。この店は麺にタレをかけて出してくるので、それをトリガラスープでのばすことになる。ここはセルフサービスの豆漿が飲み放題。牛[月南]三両で1.8元、叉焼(チャーシュー)だと1.6元。叉焼を[ヽ乂](義の簡体字)焼と読んでも何故か通じたり、牛[月南]が辞書では「サーロイン」となっているのにとてもそうは思えない部分だったり。

 ついでに米粉以外のメニューもいくつか紹介しておく。

 「小籠包」は小さな肉まんである。こう言うと「美味しんぼ」という漫画の主人公の山岡氏に叱られるのだが、私が百色で食べた小龍包は「小さな肉まん」以外の何物でもなかった。ということは、山岡氏の言う本当の小籠包ではないらしい。
 「油条」は揚げパンのようなものである。北京では朝食の定番のようで、百色でもあちこちで売っている。豆漿やワンタンのスープにつけて食べたりするようだ。私は時々、これを買って帰ってきて、自室で蜂蜜をつけて食べる。油をたっぷり吸った油条に蜂蜜……すごく高カロリーだ。
 「巻筒粉」は蒸し春巻きとでも言おうか。蒸した皮で具を包み、甘辛のタレをつけて食べる。
 「包子」は肉まんやあんまんの類である。脂身を甘く煮込んだものが入った「水晶包」というのは、日本にはない味だ。

6-2-1-2 快餐

 至る所にある。作り置きのおかずを何種類か選ぶ場合と、材料を指定してその場で炒めてもらう場合とある。両方やっている店も多い。
 前者は値段によって取れる品数が変わる。3元で肉二品と野菜二品が一般的な値段か。料理は保温されているものの、作りたてというわけではないのが欠点だが、一人で行っても複数種類の料理を食べられる。
 後者は店先に並んでいる材料から「これとこれ」などと選ぶと、それを炒めてくれる。あるいは、おまかせということも可能。3元で一人前が一般的な値段か。一人で行くと一種類しか食べられないのが欠点だが、作りたてを食べられる。
 いずれにしても、ご飯とスープはおかわり自由の店がほとんどである。
 代金は帰るときに老板(店主)に払う店が多いが、先払いの店や先に食券のような物を買う店もある。

6-2-1-3 夜市

 夜になると営業する露店で、簡単な物が食べられる。百色高中周辺、東風市場周辺、中華街、人民公園北側などに集まっていて、店によっては深夜0時過ぎまで営業している。主なメニューを紹介しておこう。なお、料金は普通後払いで、帰るときに老板に渡す。

 炒粉:米粉(米の粉で作った麺)の焼きそば。たいてい一皿3元。百色の夜市の定番メニューであり、私のお気に入りである。油たっぷりなので、苦手な人は下記の煮粉にした方がよいだろう。
 炒粉は料理人の腕が如実に現れる料理で、上手に作らないと油でべとべとな割に一本一本の麺がほぐれていない塊になってしまう。「美味しんぼ」の山岡氏は炒飯で料理人の腕を見ていたが、炒粉でも可能である。私は東風市場入口横の兄さんが作る炒粉が好きで、よく食べに行ったものだ(これから百色を離れるまでの間にも何度か行くだろう)。

 煮粉:具といっしょに軽く煮込んだ米粉。具はトマト・豚肉・タケノコなど。ほのかに酸味のあるスープになっている。南寧名物の老友粉から唐辛子を抜くとこうなるのかもしれない。たいてい一杯1.5元。

 砂鍋粉・砂鍋飯:小さい土鍋で一人前ずつ作る鍋焼き米粉、または雑炊。3・4元から具によって値段が変わる。

 瓦堡飯:炊き込みご飯。3・4元から具によって値段が変わる。

6-2-1-4 料理店

 立派な店は人民公園の北側に集中している。このあたりの店だと、酒無しで一人当たり20元〜30元くらいかかるだろう。冬には一人16元の自助火鍋(鍋バイキング)をやっている店もあった。
 農業学校から近いのは、医学院の門の脇である。「朝食」の項で書いた「桂林米粉」の並びに、昼・夜に営業している店がある。客席のほとんどは屋外。照明がほとんど無いので、夜になると闇鍋気分である。一人当たり10元程度か。

6-2-2 自炊

6-2-2-1 市場で買う

 野菜・卵・肉(豚・鶏・アヒル・牛)・魚(鯉・鮒・鯰・泥鰌)といった普通の食材なら東風市場で一通り揃う。市場の中で売っている包子など(1つ5角)をかじりながら、野菜を見て回るのも面白い。私は焼き包子(具は主にニラ)が気に入っている。右江寄りに隣接して、生きた鶏・アヒルを売っている部分、米や豆などを売っている部分もある。
 農業学校から城郷路を東へ行くと、桂林街との交差点でも野菜を少し売っている。また、新興路との交差点まで行くと果物を売っている。その少し先に東風市場があり、これ以上遠くへ行く必要は無いだろう。
 あえて先に進んで人民市場まで行くと、東風では売っていない物も手に入る。山羊肉、犬肉、兎、猫、蛇、ナドナド。私は自分で買ってまで食べようとは思わないが。

6-2-2-2 スーパーで買う

 ……といっても、百色のスーパーでは野菜や肉を売っていないので、買えるのは調味料と冷凍食品とインスタントラーメンと乾麺と飲料くらいである。
 醤油と酢は、一応どこでも売っている。中百と金都のスーパーでは 練りわさび や日本そばのような乾麺も売っていることがある。
 金都のスーパーでは東北米も売っていた。価格は地元産の米の倍ほどするが、日本の米とそっくりな短粒種である。地元産でも短粒種はある(長粒よりむしろ安い)し、もち米(糯米)もあるので、わざわざ金都で買ってくる必要もないか。

6-2-3 学校飯堂(食堂)

 ピーク時はとても混んでいて、その時間を過ぎるとさっさと閉めてしまうので、ちょっと不便。
 碗を持参して米飯と好きなおかずをとる。米飯もおかずも全て1つの碗に積み重ねるというのは、行儀が悪く見えるかもしれない。
 米飯とおかずの量によって料金が決まり、ICカードで支払う……はずだが、私はなぜか定額(2元)の現金払いになっている。
 これを書いている今、学校が冬休みで学生がいないため、新学期まで休業中。


東風市場の中

写真 東風市場の中。
朝夕は通路にも野菜売りが並び、客でごった返す。


6-3 

 自分の住居については特に考える必要もないので、お客様の宿について。といっても場所が場所なので、客なんか滅多に来ないが。この2年間、私のところへ来た外国人(中国人以外)は、調整員1人・同期隊員1人・両親祖父母4人の合計6人である。

6-3-1 供銷大厦

 城北路の二つ星ホテル。農業学校へ来た客は例外なくここに泊まっている。学校からはあまり近くないのだが、学校の近くにはいい宿が無いのだからしょうがない。バスターミナルには割と近いので、交通面は悪くない。
 風呂桶はないが、便所・シャワー・エアコン・テレビのあるツインの部屋が120元/泊である。

6-3-2 百色飯店

 中山一路、星は取っていないが百色で一番格式があるホテルらしい。私は食事や夜茶で何度か行ったが、宿として使ったことはない。

6-3-3 桂西大酒店

 中山一路の二つ星ホテル。宿として使ったことはないが、学校の宴会が何度かここで開かれた。宴会といえば酒、というわけで、酒嫌いの私にはロクな思い出がない。このホテルに入っている旅行社が頼りにならなかった(項目「6-4-3-1 飛行機」参照)のも印象を悪くしている。

6-3-4 百色大酒店

 中山二路。中国銀行と同じ建物なので時々行くが、宿として使ったことはない。星は取っていないが、建物はきれいだし航空券の取り次ぎもできるし、実質三ツ星クラスではなかろうか。
 ボウリング場やビアホールも持っている。

6-3-5 金都大酒店

 バスターミナルに併設というか、このホテルにバスターミナルが併設されているというか。2001年秋に改装工事が終わり、ぴかぴかの高級そうなホテルになった。将来、三ツ星くらいを取ろうと狙っているに違いない……と私はにらんでいる。

6-3-6 四川大酒店

 三ツ星ホテル。学校からも市街からも遠いし、かといって鉄道の駅にもそれほど近くないので、農業学校で生活する分には使い道はなさそう。その名の通り、本場四川料理を出すらしいが。

6-3-7 その他

 比較的大きな物だけでも「銀都大酒店」「桂安大酒店」「東亜大酒店」「百色賓館」などとまだあるが、中に入ったことがない。私は「銀都の隣の店」とか「桂安の向かいの店」などという、場所の目印にしか使っていない。


百色市街

写真 百色市街。
桂西大酒店前から西方向を望む。地区公安局の入口が見えている。


牛乳販売店

写真 学校特約牛乳販売店。
中山二路、中国銀行やや東にある、農業学校の牛乳販売店。屋号は「百農乳品」。


6-4 交通

6-4-1 市内

6-4-1-1 路線バス

 1路から9路まであり、いずれも1元均一(車掌が運賃を集めて回るので、1元ちょうどを払えなくてもお釣りがもらえる)。このうち農業学校で暮らしていて使うのは1・3・4路である。といっても、私はあまり使わない。歩くよりはバスの方が速いが、自転車の方がもっと速いからである。
 1路は地区政府前から汽車站(バスターミナル)・記念碑・記念館と通って火車站(鉄道の駅)へ行く。農業学校の前は通らないので、火車站へ行くときは3路か4路で記念碑へ行き、1路に乗り換える。
 3路は城郷路を走り、農業学校・百色高中・東風市場から愛新街を少し東進した後北上、百色飯店近くで中山一路に出て記念碑まで再び東進、ここから北上して城北路をひた走り、汽車站・気象台などを通って百林橋までという、市街を一周するコースを走る。東風市場、人民市場、中山一路の郵電局、記念碑などへ行くときに使う。
 4路も城郷路を走り、農業学校・百色高中を通り、東風市場から新興路を北上、城北路に出て汽車站前を通り、記念碑・記念館・火車站入口を通ってさらに先まで行く。汽車站や記念碑へ行くときに使う。火車站入口は、火車站までまだ1kmほどあるので、火車站へ行くときはさらに1路に乗り換えるべし。
 記念碑から農業学校へ帰る場合、3路で帰るなら澄碧河岸側から乗るが、4路なら反対の記念碑側から乗らなければならない点に注意が必要。

6-4-1-2 タクシー

 2kmまで3元、以後1.2元/kmで加算。必ず料金メーターを使うので明朗会計……と思いきや、角の単位の端数を切り上げるか切り捨てるか細かく払うかが運転手によって違う(基本料金の距離内なら端数がないから問題無いが)。
 市内の主な道ならたいてい、1分と待たずに流しているのを捕まえられる。また、右江民族医学院の門前に停まっていることが多い(農業学校の前に停まっていることは滅多にない)ので、待つとか探すとかいうことはほとんど無い。
 農業学校や医学院前から乗ると、汽車站(バスターミナル)や百色飯店あたりで2kmになる。火車站(鉄道の駅)まで行くと8kmあるので、10元くらいになる。
 三輪車より速いし、価格も大差ないのでありがたい。

6-4-1-3 三輪車

 町中にあふれているので、タクシー以上にすぐ捕まる。特に医学院前には常に数台が客待ちをしている。
 基本的に2元で、大人数(といっても3人が限界だが)で乗ったり遠くまで乗ったりすると高くなる。一人か二人で乗って2kmくらいまでなら、だいたい2元でいいだろう。
 元が125ccかそれ以下のオートバイを改造して客席や屋根を付けているので、客を乗せると重くてスピードはでない。が、歩きやバスよりは速く、いつでもどこでもつかまる便利な乗り物である。タクシーと違って扉が無い分、意外と大きな物(故障した自転車など)まで持ち込めるのも時にありがたい。

6-4-1-4 自転車

 なんのかんの言って、これが一番便利。
 自室の前から乗れるし、市街地内なら三輪車とスピードは変わらない。どこまで乗ってもタダだが、人民市場や病院などに駐輪するときは保管料2角が必要。
 電動コンプレッサーを使ったタイヤの空気入れ料金は一輪1角、前後輪合計で2角。

6-4-1-5 徒歩

 街の西にある農業学校から東の中山橋まででも2kmちょっと、片道30分歩けばたいていのところには行ける。
 歩きだと周りをゆっくり見回せるので、乗り物に乗っていたのでは気付かない発見があって面白い。

6-4-1-6 学校の自動車

 現在学校には、乗用車とワゴン車が1台ずつあり、それぞれの運転手もいる。先約がなければ運転手付きで使わせてもらえるだろう。2001年夏に両親祖父母が百色へ来たときは、ワゴン車を使わせてもらった。私を含めると合計5人になり、タクシーでは1台に乗り切れなかったためである。
 また、学校の牛乳配達用に軽ワゴンが1台ある。これも、朝夕の配達時間以外なら乗せてもらえるだろう。この軽ワゴンに関して、某氏と以下のような会話が最近交わされたことを付記しておく。

某氏:古田、この車を運転できるか?
古田:運転する技術はあるが、中国では免許がないから運転できない。
某氏:免許か、気にするな。事故さえ起こさなきゃ問題ない。
古田:いやあ、警察にばれたら怒られるだろう。
某氏:だいじょうぶ。現におれは免許を持ってないけど、もう半年もこの車を運転している。
古田:ナヌッちょっと待て、それは本当か。
某氏:来月には免許をもらえる予定だがな。
古田:そういうモンなのか。
某氏:そういうモンなんだ。
6-4-1-7 バイタク

 南寧にはたくさんいるバイタク(客を後ろに乗せて二人乗りで走るオートバイ)だが、百色には少ない。汽車站や記念碑前で客を待っているだけで流しをしていないし、私が汽車站に着いたときはいつも荷物があるので三輪かタクシーで学校まで帰る。というわけで2年間、乗る機会はなかった。

6-4-2 南寧へ

6-4-2-1 快班

 快班というのは、出発したら目的地まで客の乗り降りが無く一気に走るバスである。車両の性能も高く、座席も原則としてリクライニングシート。乗客にはパンと水が配られ、車載テレビで映画などを流すことも多い。南寧までの料金は45元。隊員が南寧へ行くときの足はこれが基本だろう。
 荷物は床下のトランクに入れる(空いていれば車内に持ち込んでもいいが)ので、車内空間が広く使える。トランクは発車までは乗務員が監視していて、発車後は終点まで客の乗り降りがない。そして終点に着いたら、全乗客が降りてから衆人環視の下でトランクを開ける。というわけで、簡単には他人の荷物を盗めないようになっている。
 百色・南寧間の所要時間は、順調に走れば片道約4時間、平均すると4時間15分くらいか。この2年で本数も増え、ますます便利になった。2年前は1〜2時間に1本で1日7本だったのが、今やほとんど30分に1本で1日20本以上。その割に利用者は少ないようで、定員40人程度の大型バスに10人前後の客という事が多い。この2年間に行き帰り合わせて10回乗り、満員だったことも2回あるが客数が1ケタだったことも3回ある。運転手二人に客室乗務員の女性一人の3人が常に乗務しているのに、乗客が4人だけだったこともある。従って、切符は汽車站に行ったその場で十分買える。
 百色から乗ると、ほぼ40分ごとに田陽、田東の県城を通過、さらに40分で平果近くのガソリンスタンド兼ドライブインに着いて10分休憩。そこから30分ほどで隆安を通過。道路は平果、隆安の県城をバイパスするので、この2県城は横に見るだけである。さらに1時間ほど走り、道路脇の街路樹が生い茂って緑のトンネルのようになるともう南寧は目の前。間もなく西郷塘の料金所を通り、その横にある広西農業学校前を通り、20分ほどで南寧のバスターミナルに着く。鉄道駅の前にある総站に着くか西へ500mほどずれた二運站に着くかは、便によって異なる。
 車窓に見える景色は、田陽〜田東あたりだとマンゴー畑とバナナ畑とサトウキビ畑と水田。平果〜隆安あたりはタケノコのような形をした石灰岩の山とサトウキビ畑。南寧市に入るとアヒルを飼う池。そして全行程を通して見られる水牛。田陽と田東の間で油井が見えるところもある。

6-4-2-2 普通班

 普通班というのは、出発地から目的地まで常に客が乗り降りできるバスである。車両の性能は低い場合が多く、座席は原則として2階建て。以前は二人×二列×二段の寝台が多かったが、席を一人分ずつ独立させるべしというお達しが出て一人×三列×二段となった。これに伴う定員減を抑えるためか、シートピッチが短くなり、完全には横たわれなくなった。南寧までの料金は25元。
 所要時間は順調に走っても片道約5時間と、快班より1時間ほど余計にかかる。車両の性能のばらつきも大きく、7時間ほどかかることも。発車間隔は20分に一本らしく快班より本数は多いが、安いせいか混雑していることが多い。それでも快班と違って定員制ではないから、汽車站に行けばその場で必ず乗れると考えていいだろう。
 私が南寧へ行けば、南寧市中心から8kmほど百色寄りにある広西農業学校の同期隊員宅へ泊まることが多い。途中で乗り降りできない快班では、広西農業学校・南寧市中心間を余計に往復することになるが、普通班なら広西農業学校の門の前で乗り降りできる。従って南寧での目的地が広西農業学校であれば快班と普通班の所要時間の差は実質的に無いと言える。
 このように(目的地によっては)所要時間が同じで安い普通班だが、乗り心地や安心感が全く違うので、やはり快班の方がお勧めである。

6-4-2-3 鉄道

 南寧方向へはあまり便利でない。鉄道の駅が遠いこともあるが、深夜早朝に発車する列車が多く、使いやすい時間帯の本数が少ないのが大きい。料金は列車によって異なるが、いずれにしても座席なら快班のバスより安い。安い列車の硬座(普通車)なら普通班のバスよりも安い。
 所要時間は4時間程度だが、百色駅まで行くのに時間がかかることを考えると、実質的に普通班のバスと同じくらいと言える。
 車内で動けるし便洗面所もあるので、硬座でも満員の普通班バスよりは楽だろう。軟座(優等車)や臥舗(寝台)なら快班のバスと同等かそれ以上に快適な旅となる。ただ、繰り返しになるが、いかんせん百色の駅が遠くて本数が少ない。

6-4-3 北京へ

6-4-3-1 飛行機

 飛行機を利用する場合、原則として南寧機場(空港、簡体字だと「字魁」)へ行く。南寧空港は街から30km以上離れているので、南寧駅前、バスターミナル横の民航售票処発着の民航班車(リムジンバス)を利用する。1時間〜30分に1本で空港までの所要時間約40分、料金は一人15元である。タクシーだと高いが、急ぐ時や3〜4人集まったときなら悪くない。
 南寧空港から北京へは、1日に概ね直行2便+侮框乗り継ぎ1便が飛んでいる。侮框乗り継ぎは早朝発で、昼には北京に着く。直行は昼発夕方着と、夕方発夜着である。乗り継ぎ便も含めて、料金は1770元(2002年1月現在)。夕方発の便なら当日朝に百色を出ても間に合う……が、バスが遅れてハラハラしたこともある。

 百色市内で航空券を取り次いでくれるところは何カ所かあるが、その場で発券できるところは見つけていない。南寧で発券して送ってもらう(快班バスで託送)事になるので、受け取れるのは早くても発注の半日後、または翌日になる。  参考までに、今までに利用した業者を列挙しておく。

 中山二路、郵便局向かいのポケベル屋:どちらが本業かわからないが、航空券の取り次ぎもしている。2000年末に利用。時刻・料金は南寧・桂林・北海空港発着便の分しかわからず、それも一覧表のコピーがあるだけなので、変更や臨時便への対応は遅れるだろう。
 航空券は注文の翌々日、学校まで届けてくれた。手数料は取られなかった。

 百之旅:中山二路、電信大厦より東、供水大厦傍。2001年夏に利用しようとしたが……。基本的には旅行の企画や主催の会社らしく、航空券や鉄道切符の取り次ぎでは頼りにならない。時刻や料金は上記ポケベル屋と同じで表のコピーがあるだけ。3日通って結局「希望の便は運行休止中らしい」事がわかっただけだった。他の便の有無を調べてくれるわけでもなく、それでいて「ガイドは必要ないか?」という売り込みだけは何度もしてきた。結局ここに頼むのはやめた。手数料は20元と言っていたように思うが、記憶に自信がない。

 鉄道旅行社:中山一路、地区公安局向かいの桂西大酒店内。2001年秋に利用しようとしたが……。ここも時刻などは表のコピーのみ。切符は社員が南寧まで出向いて買って来るつもりだったらしいが、私が南寧で受け取れるようにしてもらった。ところが、出発前日になって「航空券は本人でないと買えないので、南寧へ行ってから自分で買ってくれ。金は返す」と言ってきた。代理人でも航空券を買えることは実証済みだが、この時は結局当日南寧に行ってから自分で民航窓口で買った。手数料は100元だったか50元だったか、とにかく高かったが、それも含めて全額返って来たので良しとしよう。旅行社は骨折り損だったわけで気の毒だが、まあ、二度と利用すまい。

 百色大酒店:中山二路、中国銀行と同じビル。2002年1月に利用。時刻などが一覧表のコピーなのはここも同じ。しかし「その場で」電話で南寧に問い合わせてくれるなど、比較的頼りになるという印象を受けた。航空券は注文の翌日に取りに行った。手数料20元。

 北京・南寧の飛行機の切符自体はいつも余裕があるようだ。最初の上京時こそ南寧の隊員に頼んで2週間前に確保した私だが、その後はいつも2〜3日前や前日で買えている。

 北京を含めて飛行機でどこかへ行くには、南寧空港より路線網が充実している昆明から飛ぶという手もある。昆明空港は市街に近いし、昆明市内には多数の航空券取次店が価格競争をしている。が、私はこれを実行する機会がなかった。帰路に昆明を使う機会は2回あったが。
 百色にも軍用空港があり、近々民間機も使えるようにするらしいが、隣の田陽県との境あたりで街からは距離があるようだ。

6-4-3-2 鉄道

 南寧から北京へ行く列車は毎日1本。2002年2月現在のダイヤでは、11時に南寧を発車して約30時間後の翌日17時少し前に北京西駅に到着する。運賃は硬臥(開放三段寝台)で約500元と、飛行機の30%程度の安さ。
 私は一度鉄道で上京してみようと思い、2001年7月、北京行きの列車に乗り込みはした(4号報告書14ページに関連記述)のだが、その列車は最初の停車駅に着く前に運転打ち切りで南寧へ引き返してしまった。その後は機会を作れず、結局鉄道での上京はしたことがないまま今に至る。

6-4-4 昆明へ

 広西自治区の北西隣の雲南省の首府、昆明へ行く機会もあるだろう。昆明は南寧より航空路線が充実しているし、また雲南省自体に多くの観光地がある。
 行き方だが、これは鉄道以外を選ぶ余地はほとんど無い。百色からでも昆明からでも、夕方か夜に発車して朝に着く列車2本ずつを含む3本があってありがたい。
 南寧へ行ってから飛行機で飛ぶより安いし、夜発朝着なので時間面でも悪くない。百色は始発駅ではないため、寝台券は列車に乗ってから車掌から買うことになる可能性が高いのはやむを得ない。
 南寧や広州などから昆明へ行く長距離バスも百色を通っているらしいが、いつ来ていつ着くのかよくわからない。確実性・安全性から見て、鉄道の方がいいだろう。

6-4-5 地区内の他県などへ

 田林・田陽・田東・平果の各県へは鉄道でも行けるが、これらの各県も含めてバスの方が便利だと思う。汽車站からは普通班の他、各県行きの快班のバスも出ている。


快班バス

写真 快班のバス。床下のトランクに荷物を入れる。


普通班バス

写真 普通班のバス。屋根の上は水タンク。


通行止め

写真 工事と事故で通行止め。
2002年1月19日。この日の夕方の飛行機で北京へ飛ぶべく南寧へ向かっている途中、平果県の手前で事故による通行止めに会う。工事で片側交互通行の所で無理な追い越しをしようとしたバスが横転したらしい。


6-5 その他

6-5-1 銀行口座

 中山二路の中国銀行へ行く。以前は大きく遠回りをしないと行けなかったが、学校の裏門から出た所の近くに道が通って近くなった(2002年2月現在、まだ自動車は通れない)。
 銀行口座には種類があり、「hui4 hu4([シ匚]戸?)」という物にしないと不便だ。私が最初に開設した口座は「chao1 hu4(鈔戸?)」という物らしく、現金そのものしか出し入れできないらしい。つまり、日本から為替で送られる現地生活費は現金ではないから、銀行の百色支店までは届いても口座には入らないのである。それを口座に入金するためには、本人が銀行へ行かねばならない。また人民元が欲しいときも、一度ドルで引き出してそのドルで元を買う事になるらしく、手数料が高い。
 [シ匚]戸の方は、ドルが自動的に口座に振り込まれているし、それを元に換算して引き出すときのレートも良い。現金で元を買う場合との差は1%くらいだろうか。結局私は[シ匚]戸を改めて開設した。
 もし今後の隊員が中国で銀行口座を作る場合には、最初から[シ匚]戸を開設するよう強く強くお勧めする。

 また、私は元で貯金してキャッシュカードで引き出せる口座も作った。中国銀行の営業時間は日本の銀行より長くて便利ではあるが、ATMが使えた方がもっと便利である。この口座に元を入れておけば他の土地でも引き出せるので、持ち歩く現金を減らせるのもありがたい。全国どこでもというわけではないし、他都市での引き出しには手数料がかかるが。
 このカードで現金を引き出せるかどうか、いくつかの都市で自分で試してみた。結果は以下の通り。同じ町でも別の支店の別の機械では結果が違うかもしれないが。
 成功:百色、南寧、北京、昆明、開遠(雲南省)、廈門。
 失敗(案内書では使えると書いてあったが):福州、海口、香港。

6-5-2 医療機関

 この町にある比較的大きな総合病院として、百色地区人民医院と右江民族医学院附属医院がある。農業学校からの距離はどちらも同じくらい。
 医学院の方はアメリカ人医師を呼んだり、ベトナム人留学生が来たりと、外国とのつきあいがあるようだ。日本からも臨時講師を呼んだことがあったらしい。協力隊(看護婦)の要請も出そうとしていた。

 いずれにしても受付で受付料を払ってから診察を受けるのだが、診察する医師のランクによってこの料金が違う。全く、金が全ての世の中だ。が、医学院勤務の知り合いに紹介を頼むと、受付を飛ばして最高ランクの医師に会えたりする。ということは金だけが全てではなく、コネもまた重要なわけだ。ここはそういう国である。まあ、金もコネも重要でない国よりは、この国の方が普通なんだろう。善し悪しはともかく。

6-5-3 郵便

 中山一路と二路に、それぞれ郵便局がある。比較的近い中山二路の郵便局を主に使うことになる。医学院の中にも郵便局があるようだが使ったことがない。
 中山二路の郵便局は、かつて中国電信と同居していたのだが、電信が拡大して追い出される形で横の小さな貸間に移ってしまった。業務は変わらずやっているし、農業学校から見れば、100mくらい近くなったとも言える。夜20時頃まで開いている。
 中山一路は改装して広くなり、記念切手売場などができた。学校から少々遠いのが難点だが、写真屋へ行くついでや、きれいな切手が欲しいときなどに使う。また、中山二路より営業時間が少し長いので、二路の郵便局が閉まった後に行くことがある。
 航空便用の封筒は1枚2角で売っているが、普通の封筒でも「航空」というハンコを押してもらえば航空便に使えるようなので、わざわざ高い物を買う必要は無いかも知れない。
 国外への航空便は5.4元だが、10gを越えると6.4元になってしまう。郵便局で売っている航空便用の封筒は重さが5g以上あり、写真を2枚も入れると10gを越えてしまう。国内なら20gまで8角なので、国際との料金格差は非常に大きい。また、国外へ手紙を出すとき「5.4元の切手は無いから、5元と6角の切手を1枚ずつ貼れ。だから5.6元払え」などと言われたことも含めて、郵便局は商売上手だ。
 ハガキは国外航空4.2元、国内6角。

6-5-4 電信

 電話の加入、インターネットの加入申込、及び料金の支払いなどは、中山二路の電信局でできる。料金は銀行でも振り込めるらしいが、私はいつも電信局まで行っている。

 インターネットについては、加入申込をしなくても使えるサービスがある。電話番号「96163」にユーザー名「guest」、パスワード「guest」で接続するだけだ。電子メールのアカウントはもらえないが、それはインターネット上に無料で使えるサービスもあるので問題にはならないだろう。
 加入申込をして中国電信からもらったメールアカウントは、送信したメールが中国国内の特定の相手に届かない場合がある。例えば百色からだと、同じ広西の防城港に50%ほどの確率で届かない。北京には21世紀に入って以降一度も届かない。湖南省にも届きにくい。
 そんなわけで、入会金を払って加入手続きをする意味はそれほどないように思う。

6-5-5 写真の現像

 中山一路にある「中国郵政」の写真屋へ行こう。ネガを切り分けてネガ保存用のビニール袋に入れてくれるのは、私が知る限りここだけである。他の店では、ネガはただ丸められただけの裸の状態で返ってくる。良くてもフィルムケースに入れるだけだ。これだと長い一本のフィルムのままで、しかも巻き癖がつくので、焼き増しの指定や写真の順番確認に不便。
 そこで、中国郵政へ行くのだ。ここもフィルムは丸めただけで返ってくるが、言えば切り分けてくれる。郵政の写真屋は町の東端にあって遠いのだが、やむを得ない。

 人にあげる写真はラミネート加工をするのが一般的のようだ。中国語では過塑と言われる。写真屋で多少の追加料金を払えばやってくれる。

6-5-6 観光

 百色の観光の目玉は「百色起義」関連の物である。「百色起義」は、元中国の最高実力者で現在に続く改革開放政策を進めたトウ小平氏が若い頃に指導した。当時の司令部跡や記念碑、記念館がある。記念碑、記念館からは百色の町を一望できて悪くないのだが、そこまで登るのが少々疲れる。
 もう一つの目玉として、澄碧河を少し遡ったところのダム湖がある。
 いずれも、百色人ならば行っておかねばなるまい。記念館の、現代の百色の地勢や産業を紹介する部分は、興味深い物がある。

6-5-6 散髪

 美容室も理髪店も、町のあちこちにある。路上で営業している人は少なくなったが。
 城郷路から桂林街へ入ってすぐに理髪店が数軒並んでいる。散髪だけなら2元で、手際よくやってくれるので気に入っている。桂林街が拡幅されると、この店は立ち退かされるのだろうか。


記念碑を見上げる

写真 中山一路郵電局付近から記念碑を見る。


記念碑からの眺め

写真 記念碑から百色市街を見る。
農業学校は遠くてよくわからないが。


6-6 続:百色の言葉

 「r」−>「y」
 この発音変化は、一部の人に限られる。その出身地の調査まではしていない。肉が「ヨウ」などとなる。

 「和」と「跟」
 「〜と」という意味を表す語としては、圧倒的に「跟(gen1)」が使われ、「和」はほとんど聞かない。

 「不客気」と「不用謝」
 お礼を言ったときに返ってくる言葉。日本語の「どういたしまして」は、二本松訓練所では「不客気」と習ったが、百色では聞いたことがない。たいていは「不用謝」で、時々「没関係」である。

 白話(広東語)
 結局、市場と佳鷹(酒の席で行われる遊び。二人で片手を出し合うと同時に数をいい、言った数が出した指の本数の合計と同じなら勝ち。負けた方は酒を飲む)でよく聞く言葉しか覚えなかった。つまり、1ケタの数字とお金の単位だけである。
 1〜10は、ヤッ、イ、サン、シ、ウン、ロッ、チェッ、ベッ、ゴゥ、ソッ。元の単位の金は「マン」、角は「ゴッ」。
 実際の発音はカナで表せる通りでないし声調もあるが、聞くときの参考にはなるかもしれないと書いてみた。
 香港や広州のいわゆる広東語とはやや違ってますな。

 まさか越えることはないと思っていた4号報告書の分量(付録を除く)を、文字数で7%ほど上回った5号報告書、これにて完結であります。この長文を全部読んだ方、本当にお疲れ様でした。残念ながら次の隊員報告書はありませんが、縁があったらどこかでまたお目にかかるかもしれません。

 2002年3月7日
  マンゴーの花咲く百色より


夜空を見上げる

写真 2001年11月。
寮の前で布団を着て獅子座流星群を見上げる学生たち。