2024.12.25

『NHKスペシャル 闇からの飛翔~ウクライナ国立バレエ』

    ウクライナ国立バレー団が来日公演を行っている。寺田宜弘という日本人が芸術監督をしている。この間ドキュメンタリーがあった。ドネツク州生まれのプリンシパル、ニキータ・スハルコフが中心。両親は避難してきた。ここはロシアと結びつきが強く、父親もその関係の仕事だった。2014年マイダン革命の後、ロシア系の人達が反抗すると、ウクライナ政府が弾圧、武力衝突になった。父親にはその記憶が強くて、ウクライナ政府に対して必ずしも良い印象を持っていないが、息子の住むキーウに移住して一緒に住んでいる。やはりウクライナ生まれの振付家ラトマンスキーがロシアで活躍していて、ウクライナ侵攻を聞いて亡命した。その人の振り付けで戦争の中での団結と希望を表現したバレー作品「ウォータイムエレジー」を演じる、という話。

    キーウでの公演の録画がNHKBSのプレミアムシアターで放送されたので、録画して観た。3幕で比較的短い。男女4人づつ。第一幕は平穏な生活か?第二幕は民族舞踊で、第三幕ではやや悲劇的な調子だから、戦争中を表しているのだろう。最後は手を伸ばしていて希望を表しているのだろう。振り付け者やダンサー達の語りから彼らの思いを要約すると、戦争という災害の中で試されたのは民族の長い歴史と伝統と助け合いの精神であった、ということである。バレエ公演はそれを確かめるためのものである。確かにこの趣旨に沿った構成である。観た印象としては、全体に音楽的というか、それぞれのダンサーの動きがうまく組合わさっていて、それが音楽の各声部を思わせるので、音楽よりも音楽的という感じがする。身体運動の線による旋律、とでも言えるか?もう一つは観客との一体感が素晴らしい。ダンスはそれほどアクロバティックという感じではないが、身体の動き方が普段と逆になっていて、実に表現的という感じである。そこに観客が拍手を送る。

    ところで来日公演の方ではこういうのではなくて、古典中の古典「ジゼル」をやるようである。日本での公演だから、まあそうなるのだろうと思う。ジゼルは僕にとっては思い出のある演目なので、観に行こうかと思っている。

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