2024.08.23

朝のラジオでちょっと前に武田鉄矢の話が面白そうだったので、『サルタヒコのゆくえ』戸谷学(河出書房新社)を読んだ。いろいろと神社の話が出てきてややこしかったので、適当に飛ばして読んだ。大筋は以下のような感じだろうと思う。

第1章 像鼻:天狗に変化したサルタヒコ

    古事記で登場し、日本書紀で詳細に記述されたサルタヒコの異形が、後の世にインパクトを与えて、天狗になったり、各地の祭りにおける外来神になったり、ヒンドゥー教の像鼻神ガネーシャと習合もしたが、サルタヒコの物語りが書かれた本来の意図は、ただ一つである。それはニニギ(ヤマト)が在来の有力豪族サルタヒコに自らの巫女アメノウズメを差し出した、ということである。だから、サルタヒコの異形は男根を意味してる。アメノウズメは最高位の巫女であり、アマテラスが岩戸の後ろに隠れたときにはストリップを演じたし、サルタヒコに対しては性的誘惑をして取り込んだ。サルタヒコは伊勢に移り住み、アメノウズメもサルタヒコを祭る為に伊勢に移り住んだ。

第2章 性神:アメノウズメ神話が示唆する生殖器信仰

    淫乱は一般的にはいかなる宗教でも禁止されてきたが、実のところ宗教の根源でもある。人々が祭りに集うのは神を祭るためではなく、淫乱が目的なのである。儒教が持ち込まれる前の日本の一般民衆の間では「家」の概念は薄く、一族や集落の概念の方が強かった。夫婦という決まり事が薄く、子供は集落の子供であった。

    縄文時代には土偶が女性、石棒が男根を象徴していた。宗教の源泉である。性器信仰は各地で見られる。またガルーシャに由来する聖天信仰もそうである。

第3章 血脈:サルタヒコは何者か、何処から来たのか。

    現在、サルタヒコには「猿」の字が宛てられて「サル」と読んでいるのだが、万葉文字では一般的には漢字を一つの音に宛てるので、本来は「サタヒコ」と読むべきで、本来は漢字も「佐太比古」だろうと思われる。須佐之男や佐太比古のように万葉仮名表記の神は当時から信じられていたと思われるが、天照や月読のように後世の漢字の意味が宛てられた神は創作されたものと思われる。サルタヒコに蔑称である「猿」の字を宛てたのは記録者の支配者へのおもねりであった。

    古事記は征服された出雲国、オオクニヌシ、コトシロヌシ、タケミナカタの鎮魂の書である。サルタヒコは渡来の海人族の統括者であって、彼もまたニニギ(ヤマト)に降伏したのである。サルタヒコの総本営は出雲にある「佐太神社」である。加賀の潜戸が生誕地で、母はキサカヒメ、叔父にスナヒコメが居る。医学・薬学を携えて大陸からやってきた一族。

第4章 常世:天孫降臨の正当化と渡来伝説

    日本列島の南岸の照葉樹林帯に上陸して栄えた海人族は内陸の縄文人とは共存していた。

    征服者は被征服者が強力であればあるほど、殺した後で祟りを恐れて讃え祀る。伝えられているサルタヒコは西洋人の特徴を誇張したものになっている。海人族の出自の一つが江南の呉である。

第5章 怨霊:祟り神・サルタヒコの封印と鎮魂

    日本の神社には2種類あって、祖先信仰と怨霊閉じ込めである。怨霊は直進しかできないと信じられていたので、閉じ込めるために、怨霊神社の設計には4つの特徴が生じる。1.本殿の拝殿と参道の横ずらし、2.拝殿を通過しても川があって越えられない、3.拝殿を出ると真正面に蕃塀が建てられていて直進できない、4.参道が直角に曲がっている。サルタヒコは出雲の佐太神社に封じ込められている。

    アマテラス神は八咫鏡を分身としている。勾玉や剣は天皇に付き従うが、八咫鏡は滅多に動かない。動くときも3種の神器の先頭を取る。しかし、崇神天皇は八咫鏡を祟ると考えて宮中外に出した。アマテラスは実は皇祖ではないのかもしれない。八咫鏡は各地を放浪して伊勢に落ち着いた。当時、伊勢は地の果て、この世の最果てであった。

    伊勢には既にサルタヒコが居たのであるが、サルタヒコは内宮をアマテラスに譲り、自らは外宮に移った。人々はアマテラスを封印する役割をサルタヒコに与えたということである。

    伊勢志摩は海人族の拠点であり、その援護を得るために、天武天皇は伊勢に皇祖神(アマテラス)を配した。

    古事記神話は北極星から始まって、太陽(アマテラス)と月(ツクヨミ)に至る天文神話であるが、日本書紀は日本の国土は自然の造山活動として発したように描いている。海人族にとっては大海原と北極星が原点であるが、ヤマトにとっては、大海原は常世(死の国)であり、北極星は高天原より以前の神である。

    ヤマト朝廷は、サルタヒコの真相を隠すのに必死であったが、図らずもこの国の人々は、天狗と聖天によって、みごとに隠しおおしてしまった。

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