2025.03.14
109シネマで『名もなき者(completely unknown)』を観た。ボブ・ディランが1960年にニューヨークに出てから、一躍有名になり、1965年のニューポートフォークフェスティバルでエレキギーターを使って大騒ぎになるまでの話。病床のウディー・ガスリーと彼に付き添っているピート・シーガーを訪ねて、それが切っ掛けでデビューして、当時人気のあったジョーン・バエズともデュエットを行う。ベトナム戦争、キューバ危機、ケネディー暗殺という時代。突然注目されて、いつまでも昔のヒット曲を期待されるのにイライラしている様子が描かれる。画家の恋人シルヴィーは創作であるが、似たような恋人は居たらしい。最後にはボブが自分の独占物ではないということに失望して別れる。「私は皿回しの皿みたいなもの、あなたは面白いだろうけれど、私は耐えられない」と。ボブにとっては孤独を癒す母親のような感じだったんだろう。僕はこのころ高校生だったから、この映画の登場人物ではジョーン・バエズ位しか知らなかった。「風に吹かれて」も彼女の歌で知った。日本がフォークブームになったころ、ボブ・ディランを目指した人たちが多かったのだろう。ピート・シーガーがカントリー音楽の伝統の上に反戦と自由を歌い上げるフォーク運動を推進していて、ボブ・ディランがそれに貢献したのだが、彼は自分の作った歌詞を音楽にするために、伝統的なアコースティック楽器だけでは物足りなくなったのだろう。ただ、それには当時のファンは反発した。同じようなことは中島みゆきがロックを取り入れたときにも一部であったらしい。フォークもロックもすっ飛ばして専らジャズを聴いていた僕にはこの辺の感覚がよく判らない。彼の鋭い感性によってつかみ取られた詩とそれを演技するような独特の歌い方(語り口)は魅力的であって、背景で鳴る器楽などはどうでもよいという感じはする。そういう意味では確かに吉田拓郎や中島みゆきもその系統ではある。ただ、米語なので、真似も出来ないし、意味を聞き取るのに時間がかかる。でもこの映画では、字幕付きなので、どの曲も楽しめた。何よりも俳優の歌が素晴らしい。本物の再現みたいだった。
なお、ストーリーとしては2018年に観たドキュメンタリー映画で知っていた。