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ジョルジュ・デュメジル著神話からフィクションへ:ハディングスのサガデレク・コルトマン訳 シカゴ:シカゴ大学出版局、1973. 抜粋訳

ハディングスのサガ:(『デンマーク人の事跡』第五章第六章第七章第八章|)

第一章 ハディングスはヴァイキングのハスティングではない

1202年から1216年にかけてサクソ・グラマティクスは『デンマーク人の事跡』のなかの、非常に文飾を施したラテン語のためにほとんど混沌とした印象を与えるしかないパートをほとんど書き上げていた。つまり歴史的な部分と呼ばれ、われわれの多くにとって10巻から16巻と認められている部分である。そこで彼は新しい計画をたてた。時間を、まさに最初期の時代にまでさかのぼり、彼は1巻から9巻までを著した。それは古代の北欧についての神話と叙事詩のできごとを含んだ、まことに貴重な情報源であった。信ずべき基準に照らし合わせてみて得られた結論は、第一巻は最も遅く書かれたであろうということだ。

サクソの心の中では、いまだに(というかすでに)それは歴史として認められていた。しかもその歴史は、後から振り返って眺めた歴史ではない。最初のデンマークの王たちは、その後継者たちよりも多くのめざましい冒険を経験したのは確かだったが、後継者たちの冒険と意義に於いて異なったものというわけではなかった。王たちはみな、例外なく、ヴァイキング時代のリーダーたちで、戦をこなし、皆に知られている法に従って支配をし、ヴァイキングたちにとっては慣れ親しんだ航路を渡った。それは北ロシアの「ビャルメンセス」から大西洋のブリテン諸島やアイルランドであった。彼らの性格も、彼らが尊んだ名誉も、彼らのとったやり方も全て同じだった。サクソあるいは彼の典拠とした者たちに、さらにいえば、おそらくサクソ自身が典拠に手を加えて、描かれた王たちの人生や時代は、中世のスカンディナヴィアの戦う王たちの姿に同化させられたものだった。それはちょうど、サクソの同時代の南や西のヨーロッパの作者たちが、新訳旧約の殿方や奥方を、中世風の装いを着させて描いたのと同じである。

以上のような状況によって、第一巻の最後の部分である第五章から第八章にかけてはハディングス王の興味深い話は次に要約するように語られているのだ:戻る

デンマークの王グラムは殺され、デンマークはノルウェー王スイブダゲルスによって併合される。グラム王の二人の息子は、彼らの家庭教師によって逃がされ、彼は二人を二人の巨人の手にゆだねる。巨人たちは彼らを育て守るようにされる(五章一節)。この二人のうち一人は、あきらめ、デンマークに戻るが、そのときスウェーデンをも併合していたスイブダゲルス王に追放されるように見える。というのも、彼はその後この物語には登場しないのである。もう一人の息子であるハディングスは、養父の巨人ヴァグノフズスのもとですくすくと育ち、父の敵を討つことを決意する(五章七節)。

しかし、この二つの出来事の間に、サクソは驚いたことに神話的位階について論理的な説明を挿入する(五章二節から六節)。北欧のおとぎばなしによれば、超人的な存在が三つ、続けて生まれることになっている。初めは巨人である。その次は魔法使いである。魔法使いは身体的には巨人より劣っているが、知性と魔法の技に於いては長けていて、巨人たちを征服し、自分たち自身を神々としてたてる。最後に現れたのは、巨人族と魔法使いたちとの間に生まれた者たちで、彼らは巨人族よりも力では劣っており、魔法に於いては自分たちより先にいた魔法使いたちよりも劣っていた。しかし、いずれにせよ、何も知らない人間たちの目には、神々と崇めるには十分なほど魔法が使えたのである。戻る

この挿入部の後、サクソはハディングスの話に戻り、その頃には巨人ヴァグノフズスのもとでハディングスは大きくなり、大人となっている。復讐の想いにあまりにもとらえられていたので、彼は女性と性交渉をもつことなど念頭にはなかった(六章一節)。しかし巨人の娘のハルズグレパは、ハディングスの乳母でもあったが、彼の欲望を高めるためにあらゆる手を尽くす。そして自分の願いをはっきりと表した小さな詩をよむのであるが、今日のわれわれの目には全くすじの通らない理由を述べるのである:「私はあなたにおしゃぶりをあたえ、ほとんどあなたの母親のようだった。それゆえにあなたは私を妻とするべき唯一の女なのです」(六章二節)。ハディングスはその主張の言い分は認め、反対はしないのだが、唯一彼女の体の大きさを理由に彼女を拒む。しかし彼女は第二の詩を詠み、そもそも体の大きさなどは彼女の力によってどうにでもなるのだという(六章三節)。そういうわけで、それからまもなく、彼らは夫婦となる。

ハディングスはデンマークに戻ることが望みだったので、ハルズグレパは男の身なりをして彼と共に行く。その旅の途中、彼らは一軒の家に入るが、そこには一人の男の死体が横たわっていた。ハルズグレパはハディングスにルーンを彫った一本の棒を渡し、死体の舌の上に置かせる。それによって未来を知ることができるのだという(六章四節)。そのように魂を起こされて怒った死人は、一編の詩を詠む(この物語で三番目の詩である)。それはハルズグレパがまもなく体をバラバラに引きちぎられる、というものだった(六章五節)。最初の危険をぎりぎりで乗り越えたすぐ後で、事実このようなことが起こってしまう。ある森の中、枝でできた小屋の中にこの愛情あふれる夫婦がいると、そのとき長い爪をもった大きな手がうえから二人に襲いかかってくる。ハルズグレパはその手をつかみ、抑えている間に、ハディングスがその手を切り落とす。しかし、それで危難が去ったと思っていると、さらに怒りを増したその目に見えぬ相手は、まもなくもどってハルズグレパをつかむと、彼女をバラバラにしてしまった(六章六節)。

自分の乳母によってやもめになったハディングスは(という記述がふさわしければの話だが)、すぐそのあとに隻眼の老人(という記述からオゥジン神だとすぐにわかるのだが)がやって来て、彼を哀れに思い、リセルスという名のヴァイキングと義兄弟の誓いをするのをとりもつ。二人は一緒にコウルランドのロケルス王と闘うために出発する。しかし旗色は悪くなり、ハディングスは逃げねばならなくなる。再び隻眼の老人が現れ、魔法の馬に彼を乗せて空を駆け、彼を自分の家に伴い、力の薬酒を飲ませる。そして彼がいまや何をしなければならないか、詩で詠み歌う(六章七節)。その詩によれば、老人は彼を見つけたところまで再び空を駆けてもどし、ロケルスはハディングスをとらえ、牢に入れ、猛る獅子の前に投げ捨てようとする。しかし守護者の守りによってハディングスは自由になり、ロケルスが逃げ出す前に、ハディングスはライオンに立ち向かい、これを殺し、その血を飲むと、さらにいっそう猛々しくなる、というのだ(六章八節)。そしてそのようになる(六章九-十節)。血を飲み、無敵になった彼は、ヘレスポントの王ハンドワヌスの町を、なかばずる賢く、責め立てそれを手に入れる(六章十節)。その後、ハディングスは自分の究極の敵であり、自分の父の敵のスイブダゲルスに立ち向かうために出ていく。そしてゴトランド島の近くの戦いで、敵討ちを果たす。戻る

自分の主人公も、さらには人間族をここで捨て置き、サクソは突然全く神話的なエピソードを挿入する。はじまりは「それと同じ時期・・・」というもので、ここでオゥジンが、今回は名前もまた地位も明言される形で、登場する。彼はビザンチウムの王で、ウプサラに住むことを望み、また自分が神々の王であろうとする。北方の王たちからの貢ぎ物として、彼は自分の黄金の像を受け取る。彼の妻フリッガは(スカンディナヴィアの古典的神話の中でも実際女神フリッグは彼の妻となっているのだ)、オゥジンが護衛をつけて守っているこの黄金によって欲望をかき立てられて、少々考えられないような所業に出る。つまり、彼女は夫に対して不貞を働いたわけで、夫の方はいたく傷つき、家出をして、しばらく放浪の旅に出てしまう(七章一節)。

この王不在の間に、ミゾジュンという魔法使いが権力を握り、これまでの生け贄を捧げる儀式を様変わりさせてしまう。そして自分の国からつれてきた魔法使いたちをあらゆる場所で支配者として任ずるのである(七章二節)。自分の威厳を取り戻し、輝きを復活させたオゥジンが戻ってきたため、ミゾジュンは逃げ、外国でみじめに果てる。一方王は、王国を以前の状態に戻す(七章三節)。そして、サクソはふたたびハディングスの話にもどり、話を最後まで続けるのである。戻る

我らが主人公はアスムンドゥスとの激しい戦いに勝利する。アスムンドゥスはさきにハディングスが殺したスウェーデン王の息子であった。アスムンドゥスは、狂ったようになりながら反撃をしつつ、二つの詩を詠む。しかし、養父の思いもしない助力によって、ハディングスは勝利を得るが、その前に、彼は足に傷を負い、以後片足を引きずることになる。彼は敵を荘厳に埋葬することで充分敬意を表すが、敵の奥方は自ら命を絶つ(八章一-四節)。ハディングスはその後すぐデンマークに急いで戻らねばならなくなる。アスムンドゥスの息子ウッフォが陽動作戦を展開していたからである。こうして、われわれは話のはじまりの地点にもどり、ハディングスはデンマークを治め、復讐に燃えるウッフォが逃れたスウェーデンを掃討しなければならなくなる(八章五節)。

この戦争の続く語りの中で、ちょっとした、我々にとっても親しみのある挿話が入る。デンマークに於いて、ハディングスの宝物が盗まれ、この所業が誰によるのかを見つけるためにハディングスは一計を案じる:ハディングスは盗んだ者たちが自ら明らかにすれば、大きな名誉を与え、そればかりか、宝の番人にとりたててやるというおふれを出す。盗人たちは、はじめは一人、続いてみんなが自分がやったと言って出てくる。ハディングスは約束を守り、彼らにおふれの通りの報いを与える。しかしその後すぐ彼らを処刑する(八章六節)。

スウェーデンとの戦争は再び始まる。ハディングスはウッフォの捜索に乗り出す。しかしスウェーデンでひどい飢饉があり、人々は、馬や犬、はては人間までも食べるまでになり、デンマーク軍は難儀する(八章七節)。戦いの前夜、二つの声が続けて聞こえてくる。それぞれが一つの詩を詠い、七番目と八番目の詩であるが、目に見えぬ口からの二つの挑み合いであった(八章八-九節)。そして戦いが行われている間、星々の下で、二人の見知らぬ、恐ろしい姿の勇敢な老人が、決闘をしているのが見られる(八章十節)。ハディングスは、ひどい負け方ではなかったが、戦いに敗れ、近くの浜辺で水浴をし、体を清めていた。そこで気味の悪い怪物を殺し、自分の陣営にそれを持ち帰る。そこへ一人の女が現れ、九つめの詩によって、このように彼に告げる。その怪物は神聖な生き物で、この殺しの罪の贖いをしない限り、彼はどこへ行こうとも、それが陸地であれ、海であれ、恐ろしい嵐が起こり、難破から大竜巻に巻き込まれるかと思えば、家が倒れ、吹き飛ばされまた船の遭難に巻き込まれるであろう、と(八章十一節)。そしてそのように展開され、ついにハディングスはフロェー神に黒い生け贄を捧げて助かる。この生け贄は、サクソによれば、スウェーデン人が毎年フロェーブロット(フロェーへの生け贄)と呼んでいたのものである。

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