不人気の学者二人:グリムとリュドベリ


グリムの『チュートン神話』もリュドベリの『ゲルマン神話研究』も、英語訳は出ているものの、両者とも古い翻訳で、きよさんがお書きになっているようにグリムの英訳は [Grimm, Jacob. Teutonic Mythology. Tr James Steven Stallybrass. London: George Bell & Sons,]「1882-1888 年。(全四巻)」。リュドベリの英訳は1907年出版。もちろん今は絶版で、手にすることができる人はほんのわずか。


 グリムのドイツ語の原書は今でも出版されているそうですが、そのドイツ語は、ドイツ語の専門家でないとまず読めないと思われます。またラテン語、ギリシャ語はもちろん、古高ドイツ語、古英語、古アイスランド語もほとんど訳なしに出てくる。つまり難解です(爆)。


 これを英訳でもすらすら読める人は、英語の力はもちろん、ラテン語、アイスランド語、古高ドイツ語、ギリシャ語、おまけにゴート語などを読めなければならないっちゅう代物。

 19世紀の文献学者は博学。ロマン主義的な傾向はあるものの、注意して読めば、勉強にはなります。ただ、解釈の歴史を紐解く、という感もあり、現在まで彼らの説が説得力を持つかどうかは不確かです。一方、マッケンジーおじいさんの本は、趣味人の本という感が強いです。これはもしかしたらボクの偏見かも知れない。でも、おそらくあの当時の良き英国アマチュアリズムが生み出した本だと思います。若きC.S.ルイスが、彼の本から北欧神話のイメージを持ったのは有名な話ですね。

 ヴィクトール・リュドベリの原書 (Rydberg, Viktor. Undersökningar i germanisk mythology. Stockholm: Albert Bonniers)は1886-89年にイェーテボリで印刷されました(二巻本)。当然スウェーデン語で書かれたわけですが、英訳を20世紀初頭の英国の碩学ゴランツ博士が時々利用していたりして、jinnの影法師なんかは、リュドベリの説の、『詩のエッダ』「ヴァフスルーズニルの言葉」に出てくるイーミルの息子の巨人ベルゲルミルが「大地の形作られる遙か昔に「挽き臼」の横に横たわった」という解釈を敷衍して、海の砂はベルゲルミルの体から作られた、という神話があった可能性があるなどという荒唐無稽な仮説をたてたりして・・・(恥。


 jinnとしては、そのような説は面白いし、イメージを膨らませてくれるけれど、やはり、直接にテキストを理解する手引き書の一つでしかないと思う。反対に、リュドベリの説を毛嫌いする人がいるとしても、ではリュドベリの原書を読めるか、と言えば、恐らく多くの人はそうではないでしょう。まず、難しいし(笑)。だから拒否反応ももしかしたら偏見から生まれたのかも知れない、かな?

 一つだけ言えるのは、二人とも、ものすごく勉強している。二人の説を批判するには、二人に匹敵するだけの勉強量が必要だろう。それは同時に、安易に参照するのも危険だということを意味していると思う。だって、批判的に利用するには余りにも読者に要求する知識が大きいから。いつか、読み切りたい、とは思うし、自分に理解できるかもしれない、という部分については語ることができるけれど、グリムがこう言っている、だからこれはこう、とか、リュドベリはこう言っている、だからこれはそうじゃない、とか言うことは慎重にならざるを得ないんだ。でも、それは二人に限らず全ての学説について言えるはず。あとは、学者ならば謙虚に先人の教えに耳を傾け、なおかつ、自分の研鑽を積めばいいし、そうでなく自分のスタンスを持っている人は、自分が理解したいと思えば読めばいいし、そうでなければ読まなくてもいいのではないかな?
一方で、お二人の説を紹介したいのであれば、それは慎重に、仮説の一つとして考えれば良いと思う。でも、そういうのは学者の勉強の途中経過であって、普通はそれだけを目標にする人はいないと思う。つまり、考えをまとめる前の混沌とした知識の中の一つ、ということですね。ちょうど↑でゴランツ博士がやっているような感じです。そして、神話の不思議な記述を記した当時の人々が何を考えていたのか、どのように感じていたかを知る手がかりの一つに過ぎない、とする方がボクはスキです。

 いずれにしても、日本国内で、ほとんどの人が読めない本を参考書として挙げられても、もしかしたら困る人がほとんでないかしら。

ということは、このスレッドも意味がないということで、やっぱり不人気の学者は不人気なのだから、とりあえず、そういう人がいるらしいと名前を挙げるだけにして、あまり深く考えず、どっかでそういう人の名前を聞いたな〜、というくらいに留めて、あとはそれこそどこかにうごめく魑魅魍魎(つまりは「jinn」ってそういう意味か?)が遠くでワイワイ言うがママにさせておくというのは如何でしょうか?

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