週刊墨教組1233号 1999.3.18

チマ・チョゴリを着て

   堂々と歩け 

朝鮮語が

   堂々と話せる社会を


苦渋の決定
 朝日新聞3月6日付日刊1面に、次のような記事が掲載されました。


  チマ・チョゴリ制服
  通学時やめ校内用
 全国各地の朝鮮中高級学校で女子生徒の通学用制服をチマ・チョゴリとする制度が、新年度から廃止されることになった。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「核疑惑」や「ミサイル発射」などが報道されるたびに、民族服姿の女生徒に対する脅迫や暴力、嫌がらせが増加。心配した父母らからの要望も強く、在日朝鮮人総連合(朝鮮総連)教育局が、「チマ・チョゴリは校内用とし、通学事にはブレザー、ブラウスなどを着用させる」方針を決めた。

信義に厚い友
 墨田教組と東京朝鮮第五初中級学校とは、親しい友として、おつきあいを重ねてきました。信義に厚い朝鮮の人たちのふるまいに、私たちは何度も胸を打たれました。深い敬愛の念すら覚えます。
 今回の「苦渋の決定」について、東京朝鮮第五初中級学校の林桂 校長にお聞きしました。
 林校長は、今回の決定を、保護者や同胞に、正確に知らせるために、日夜、心をくだいて奔走されています。そんなお忙しい中、わざわざ組合事務所まできて、2時間ほど、いつもの熱情のこもった語り口で、丁寧に説明してくださいました。相変わらず颯爽としていましたが、端整な顔には、濃い疲労感がにじんでいました。

チマ・チョゴリこそ民族の誇り
 林校長のお話の用紙は次の通りです。
 「今回の総連教育局の決定は、苦しみに満ちたものです。
チマ・チョゴリ(第一制服)が<民族教育の象徴>であり、本来の制服であることにかわりありません。
 しかし、一部の心無い日本人による、弱い女子生徒に対する暴言・暴力・脅迫におびやかされることが続き、その被害は激しくなるばかりです。生命すら奪われかねない恐怖があります。危険は限界に達しています。
 総連は、犠牲者が出ることを案じて、事前に、今回の決定を行ったと思います。
 基本的には、女生徒たちが、<朝鮮民族の誇り>であるチマ・チョゴリを着て、登下校してほしいと願います。だが、登下校する女生徒が一人だけになったとき、身に危険があるとしたら、「着なさい」とは指導することはできません。とてもつらい立場です。
 あくまでも危険を感じる生徒は、ブレザー・ブラウス・スカート(第二制服)を着用してもよい。チマ・チョゴリを着るかどうかは、保護者の希望による選択にまかせるしかないと考えます。

言葉まで奪われる
 「たとえ、ブレザー・ブラウス・スカートを着用したとしても、電車の中などで、朝鮮語で話していれば、朝鮮人ということで、また狙われることになります。
 今度は、チマ・チョゴリにかわって、朝鮮語が攻撃の標的になるのです。
 そして、朝鮮語を使うなということになるのは、はっきりしています。
 言葉まで奪おうというのです。
 日本統治下の植民地朝鮮では、朝鮮語が奪われ、日本語使用が強制されました。
 今、またしても、朝鮮人を日本人に同化させようと、戦前と同じようなことが起ころうとしています。
 チマ・チョゴリを着て堂々と歩け、朝鮮語が堂々と話せる、それを自然と認め合える社会。日本の社会が、ぜひ、そうあってほしいと願っています。
 そのために、私たちは、多くの日本の方々と交流をし、互いの理解を深め、認め合う心を育んできました。」

よこしまな思惑
 北朝鮮が昨年8月31日に発射した「人工衛星」をミサイルと決めつけ、俗情を煽りつづけたこの国のメディアの狂弄ぶりは正気の沙汰ではありませんでした。まさに、「メディア・ファッショ」でした。
 世間をおおった俗情と結託して、理不尽な朝鮮学校・児童生徒へのたちの悪いいやがらせや暴行や脅迫が横行したのでした。
 まったく同じ手法で、臆面もなく、「メディア・ファッショ」がくりかえされています。
 昨年末には、「地下核施設」査察拒否を契機に、米国が北朝鮮を爆撃すると、まことしやかに噂されました。また、ペリー北朝鮮政策調整官の報告がでる3月に戦争が勃発するという馬鹿馬鹿しい3月危機説も流布したのでした。
 いずれも、俗情を煽りつづける、よこしまな思惑による、世論操作としか考えられません(第4次米朝協議は大筋で合意したと伝えられ、北朝鮮側代表団メンバーも、「一部意味のある進展があった」と述べています)。

新ガイドライン関連法案
 一方、いよいよ、新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案の国会審議が始まりました。
 このところ、「朝鮮有事」や「第二次朝鮮戦争」がとりたてて声高に叫ばれています。
 またしても、「メディア・ファッショ」。
 ことさらに、北朝鮮の脅威を強調することによって、「周辺事態」とか「後方支援」(軍事行動と連動する「兵站」の言い換え)とかの詐術の言葉に飾られた「周辺事態法」の成立が目論まれています。
 私たちは、信義に厚い大切な隣人のために、静かな洞察力と幅広く熱い心で、力を奮いおこして、ひるまずに行動しつづけます。

墨田区教育委員会 

区内学校在学の外国人児童・生徒教育指針を発表

 墨田区教育委員会は、区内各校に「区立学校に在学する在日外国人(主として、在日韓国・朝鮮人)児童・生徒にかかわる教育指導について」の通知を出しました。教職員に周知徹底するため、校長会で説明、三月一日の人権尊重教育推進実践報告会でも発表し、墨田の重大な教育課題として提起しました。
在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育指針は、東京都が一昨年、事務手続き上の取り扱いを中心に出していますが、区 教委独自に在日韓国・朝鮮人の歴史や差別の現状にふれ、さらに本名就学を進めていく内容で「教育指針」を出したことは画期的なことです。私たちの進める反差別・人権の教育を深める上でも活用できるものとなっています。この指針にも基づき反差別・人権の教育への取り組みをさらに強めていきたいものです。

区立学校に在学する在日外国人(主として、在日韓国・朝鮮人)

児童・生徒にかかわる教育指導について

  墨田区教育委員会


 このことにつきましては、東京都教育委員会からの事務連絡(平成四年二月十三日付)の趣旨を日常の指導にいかしていただいている所ですが、本区において、外国籍の児童・生徒の中でも在日韓国・朝鮮人児童・生徒の在籍率が高いことを考え、在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育指導を重要な教育の課題の一つとして、一層の充実、徹底に努めることが大切であります。
また、本区には、現在多くの外国人が居住していますが、在日韓国・朝鮮人とその他の外国人とは我が国とのかかわりの上で、歴史的な背景が異なります。日本の朝鮮に対する三十六年に及ぶ植民地支配という歴史的な背景を持ち、今日なお日常生活においてさまざまな差別があります。学校教育においては、こうした事実の持つ意味を厳しく受け止め、十分配慮しながら、それぞれ適切に指導することがが大切であります。つきましては、この通知の趣旨と資料の内容について教職員に周知徹底し、在日外国人児童・生徒が安定した学校生活を送ることができるよう配慮するとともに、総ての児童・生徒が広く国際社会において信頼と尊厳を得る資質が身につけられるよう、よろしくご指導をお願いいたします。

 本区の公立学校に在籍する在日外国人児童・生徒の人数
 本区の公立小・中学校に在籍する在日外国人児童・生徒数は、左記のとおりである。(平成五年九月調)

(総計一七九名)

この数値から、在籍する韓国・朝鮮人児童・生徒数は、合計一〇一名であることがわかる。

 在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育指導の趣旨
 各学校(園)は、本区に在籍する在日韓国・朝鮮人児童・生徒の外国人としての立場を尊重し、韓国、朝鮮文化に対する理解や正しい歴史認識が重要であることを認識して、その指導について考えていく必要がある。
基本的には、東京都教育委員会の教育目標、学校教育の課題「人権尊重の教育の推進」並びに、墨田区学校教育の指導の重点■人権尊重の教育の推進<…人種、民族、性別等を異にすることによって、児童・生徒の人権が損なわれることのないよう十分配慮することが大切である。>や<あらゆる偏見や差別をなくす教育の推進>とし、その推進にあたっては、東京都教育委員会による「公立学校に在学する在日外国人指導・生徒にかかわる教育指導について「(平成四年二月一三日付 事務連絡 東京都教育庁指導部長名)の文書に基づき、東京都教育委員会および墨田区教育委員会の教育目標を具現化する立場から、人権尊重の教育、国際理解教育の視点にたって「在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育」を推進することが大切である。

 本名就学についての見解
 墨田区教育委員会は、氏名は個人を象徴するものであり、本名使用を自然なことと考えている。しかし、在日韓国・朝鮮人児童・生徒の場合には日本による植民地支配という歴史的な関係から、今なお多くの差別の現実があり、そのため学校や地域社会において、本名を名乗れず民族としての自らの存在を明らかにできない場合もある。したがって、このような実態を克服し、相互の立場を尊重しつつ、共に生きることのできる社会を目指すための教育を進めていくことは重要なことと考える。
なお、東京都教育委員会の示している「公立学校に在学する在日外国人児童・生徒にかかわる教育指導について」の中の、本名就学についての文言にあるように、学校は「日常の学校生活の中で本名を用いるかどうかについて、保護者及び児童・生徒の意思を確かめ」ながら本名就学を進めていくことが大切であると考える。

在日外国人児童・生徒にかかわる事務手続き上の取り扱いやその他指導上の具体的な事項について
 東京都教育委員会の事務連絡(平成四年二月十三日付)の三〜六ページをご参照ください。

第1014号
一九九四・三・三