著作権・大阪東ティモール協会
East Timor Quarterly No. 8, July 2002

統計から見た東ティモール

文珠幹夫



 東ティモール政府の経済・統計課が出した「消費者物価指数、2000年4月〜2002年4月」(Economic Affairs and Statistics Division, Index Consumer Price: April 2000 To April 2002, East Timor)、および東ティモール政府がドナー会議用に作成した資料「東ティモールの貧困」(Poverty in East Timor)から、2000年4月からの経済・物価状況と東ティモールの現状を見てみたい。
 経済に関し、既にIMF等の調査報告書は出ているが、具体的数値にはあまり触れられていなかった。また、東ティモールに滞在した時、物価などを少し調査したが、標本数があまり多くないため統計的には信頼性が劣った。今回、経済・統計課が2年間継続した調査の報告を行った。また、独立式典前に開かれたドナー会議のための統計も発表された。

1.経済統計

 まず、この2年間の消費者物価指数を見てみよう。

                  表1.消費者物価指数(2000年4月を100)

時間(年/月) 2000/4 2000/8 2000/11 2001/2 2001/5 2001/9 2002/1 2002/4
指数 100 112 105 107 110 110 110 112


 2000年8月に大きな物価上昇が見られる。しかし、1999年8月以前に比べての急激な物価上昇は、この統計が取り始められる前(1999年10月〜2000年3月)にあったと思われる。一方、2001年10月から、UNTAETが東ティモールへ行政を手渡し始めUNTAET職員数が減少した。高給取りのUNTAET職員がいなくなったので、ディリなどで需要の急減があったが、物価の下落は起こっていない。
 では、個々の物価を見てみよう。

表2.物価の推移
(単位:米ドル)     

  2000/4 2000/8 2000/11 2001/2 2001/5 2001/9 2002/1 2002/4
国内米(1kg) 0.35 0.35
輸入米(1kg) 0.42 0.44 0.35 0.35 0.35 0.35 0.36 0.36
キャッサバ(1kg) 0.16 0.23 0.17 0.17 0.18 0.18 0.21 0.23
青野菜(1kg) 0.30 0.49 0.43 0.45 0.46 0.45 0.42 0.45
鶏肉(1羽) 3.50 3.50 3.50 3.70 3.46 3.50 3.38 3.46
牛肉(1kg) 2.10 2.17 1.98 2.17 2.13 2.20 2.55 2.64
食用油(700cc) 0.50 0.43 0.46 0.43 0.44 0.47 0.53 0.55
ガソリン(1L) 0.30 0.47 0.44 0.42 0.63 0.56 0.55 0.52
缶ビール(375cc) 0.50 0.90 1.00 1.00 1.00 1.15 1.23 1.23


 まず食料で、東ティモール人の主食である米、キャッサバ、青野菜。東ティモール人にとってはちょっと贅沢な鶏肉、牛肉。そして料理に必要な食用油の値段の推移である。米は輸入米と国内米を示す。国内米の価格は2002年からしか示されていない。生産が元に戻り、自家消費以外の余剰米が市場に出てきたのが2002年からと思われる。キャッサバ、青野菜、肉類は東ティモール内で生産されている。食用油は国内品である。輸入品として典型的なガソリンとビールも見ておこう。ビールを消費するのはほとんどが外国人である。
 2001年半ばまで、東ティモールの使用通貨は米ドル、豪ドル、インドネシア・ルピアが混在した状態であった。UNTAETが米ドルの使用を義務づけていたが、公的部門以外、特に庶民はインドネシア・ルピアを使用していた。オーストラリア人商人らは豪ドルを用いていたが、巷の経済はルピア経済であった。2001年後半UNTAETが厳しく米ドルの使用を義務づけたため、2002年に入ってルピアと豪ドルの使用は影を潜めた。しかし、為替レートの認識が今ひとつであったので、為替の変動を無視したレートが蔓延していた。換算しやすいのか1米ドル=10,000ルピアが東ティモール内での「レート」であった。恐らく現在もその「レート」で換算していると考えられる。利に聡い外国商人らは東ティモール内のルーズな為替「レート」を利用して儲けていたかもしれない。
 国内産品と輸入品をもう少し詳しく見てみると(表には示していないが)野菜類が2000年8月と2001年5月、9月に高騰している。乾季のため品薄になったと思われる。季節変動を除くと輸入品が(対米ドルで、ルピアと豪ドルが下落してるにもかかわらず)2000年8月と2001年9月に上昇している。外国人が増えたことによると思われる。2001年8月30日には制憲議会選挙もあった。
 各県ごとの価格はどうであろうか。2002年4月の価格で比較すると、次のようになる。

表3.各県別の物価
(単位は米ドル)   

ディリ バウカウ リキサ アイナロ マリアナ ラウテン スアイ アンベノ
国内米(1kg) 0.35 0.35 0.35 0.40 0.35 0.35 0.35 0.40
輸入米(1kg) 0.35 0.35 0.35 0.37 0.35 0.35 0.36 0.40
魚(赤笛鯛一匹) 2.17 1.00 2.00 2.00
鶏(1羽) 3.50 3.50 3.50 3.50 3.50 3.50 3.00 3.50
マッチ(1箱) 0.20 0.20 0.20 0.20 0.15 0.20 0.20 0.20
灯油(1L) 0.43 0.50 0.60 0.50 0.35 0.50 0.50 0.50


 輸入米は飛び地のアンベノが0.40ドルと高いが、他の地域はほぼ0.35ドルでほぼ同じである。国内米も同様でアンベノが0.40ドル、山岳地のアイナロが0.40ドルと高い以外、他は0.35ドルである。この価格差は輸送コストによると思われる。しかし、国内米の価格が輸入米と変わらないのは不思議である。品質(籾や小石が混っている国内米に対し、輸入米はそれがない)が劣る国内米が同じでは、消費者の購買欲が国内米に向かわないと思われる。恐らくこの価格決定のメカニズムには市場原理が働いていないと思われる。流通機構が破壊されたことで価格決定は首都ディリの価格が基準となり、生産地と消費地で価格差が生じなくなり、価格の硬直性が現れていると考えられる。これは米に限らない。野菜や芋類も同様である。唯一価格差があるのが魚である。冷蔵・冷凍設備が無いため漁港のある町以外、魚の販売がない。とれる魚の種類も量も異なるため、地域での市場原理が働いていると思われる。
 輸入品価格でおもしろいのは、国境の町マリアナではインドネシアから入ってくると思われる物品(マッチや灯油)の価格が他地域より安い。恐らく「密貿易」によると思われる。

2.ドナー会議で示されたデータ各種(グラフは省略。数値だけをあげます)

(1) 東ティモールの困窮者の割合

グラフ1.困窮者の割合
困窮している  58.90%
困窮していない 41.10%

 困窮者の割合が意外と低いと感じられる。物価が上がったことと、失業率が高止まりしている状況から見て、意外な感じを受ける。しかし、東ティモールで暮らしていると、誰もが落ち着いて生活している様子をうかがうことができる。寡婦や孤児も数多くいる。しかし、地域社会や教会関係者が彼(女)らを保護しているのを見受ける。

(2)就学率(11才)

グラフ2.就学率
就学者  54%
未就学者 46%

 都市で見ると就学率は高いように見受ける。しかし、地方の村落に行くと就学率はかなり落ちると思われる。村落部では子どもは貴重な労働力のようである。教会関係者の話によると、現金収入の乏しい村落部では、学校に支払う教育費が出せない家庭も多いとのころである。
 なお、識字率は少し読める人(9%)を含め54%である。

(3)使用言語(人口比)

グラフ3.各言語理解者の割合
テトゥン語    82%
インドネシア語  43%
ポルトガル語   5%
英語       2%

 東ティモールでは公用語がポルトガル語とテトゥン語と定められた。東ティモールの人は自分の住んでいる地域の言葉とテトゥン語を話すと言われているが、それが裏付けられている。一方、ポルトガル語を理解できる人は予想より少ない。今後の言語政策に影響が出るかもしれない。

(4)自己評価(騒乱以後、活力が増したか)

グラフ4.自己評価
良くなった 84%
変わらない 10%
悪くなった 6%

 東ティモールがインドネシア支配をうち破った後、人びとの活力は大きく増進した。当然の事実が示されている。


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