勉強不足の弁護士に辞めてもらいたい、着手金を返して欲しい
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2023.8.31 mf
相談:弁護士に辞めてもらいたい
私は、2年前、相手の100%の過失(センターラインオーバー)の交通事故により、後遺症を負いました(1眼の視力が低下)しました。
昨年、弁護士に依頼し、訴えを提起しましたが、資料集めとか、調査とか、弁護士は、何もやってくれません。この1年間に準備書面を2回出しただけです。
時間がかかったのは、
後遺症認定に3ヶ月ほどかかったことも原因ですが、弁護士の怠慢もあります。
私に対する弁護士の説明も、極めてそっけないのです。加害者に対しては4200万円を請求し、弁護士に着手金195万円を支払っています。
弁護士は、私に対し、「裁判に来るな」といいます。先日、私が、傍聴した法廷で、裁判官から、色々指摘されていましたが、私の弁護士は、答えられないのです。
私は、弁護士さんの勉強不足、研究不足などが見受けられ、このままでは、先の見通しも定かではありません。そこで、今の弁護士さんにお辞め頂いて、他の弁護士に相談に行きましたら、今相談している弁護士は、「引受けてもいいが、前の弁護士にやめてもらうこと、着手金は150万円」と言われました。
- 私は、今の弁護士に辞めてもらうつもりですが、着手金を一部返してもらうことはできますか。
- 慰謝料請求できますか。
- 手続きは、どのようにしたら、よいですか。
お答え:いつでも解任できる
4200万円の請求ですので、
弁護士費用計算機 で計算すると、標準着手金は195万円です。ですので、この弁護士の着手金は適正です。ところで、
弁護士と依頼者間の紛争として、弁護士会に苦情があるケースのうち、多くは、依頼者の無理解ですが、稀に、弁護士に責任があるものがあります。
後遺症認定に3か月かかることは、普通のことで、弁護士の責任ではありません。法廷で裁判官から指摘されて、弁護士が即答できないことも、一概に弁護士の責任とはいえません。後で、調べて、後に回答してもいい場合も多いです。即答せず、調査してから書面で答えることの方が正確で、適切である場合も多いです。
ただ、弁護士が、「裁判(法廷)に来るな」と言うのは、おかしいですね。普通、弁護士は、依頼者に事件の進行につき理解してもらい、事件処理に協力してもらうことを歓迎するはずです。
さらに、依頼人が弁護士を代えることは自由です。でも、弁護士に責任がないのに、弁護士を代えると、着手金を返してもらうことは難しいです。あなたのケースでも、支払い済の着手金が無駄になる可能性があります。そこで、もう一度、弁護士と話し合ってみたら、いかがですか。その結果、本当に、弁護士に誠意がなかったら、辞めてもらいましょう。
- 弁護士に辞めてもらうこと(解任、辞任)は、いつでもできます(民法651条1項)が、弁護士に責任がない場合には、着手金の返還は難しく、弁護士は、着手金の
返還を拒否し、報酬を請求するでしょう。
着手金の返還は、中々、例としてないですが、弁護士に責任がある場合には、返還請求できます。そのような判例もあります。
- 弁護士に慰謝料まで支払い責任があることは、普通、ありません。しかし、弁護士の仕事の処理の怠慢がひどいので、依頼者に慰謝料を認めた例(下記判決)があります。
- 着手金の返還については、まず、話合いです。
話し合いでうまくいかない場合は、その弁護士が所属する弁護士会に対する 紛議調停 の申立手続きをすると、よいでしょう。紛議調停で 弁護士から着手金の返還を受けた 例は多くあります。
紛議調停で解決できない場合は、最後は、訴訟です。
下に、弁護士の責任が認められた判例を挙げておきます。
判決:弁護士の責任による委任契約の解約
- 和歌山地方裁判所平成22年9月29日判決
民法648条の趣旨に照らせば,受任者が,その責めに帰すべき事由によって,委任事務を履行しないまま,委任契約を解除した場合,既に受けた報酬があるとき,委任契約上,その報酬を返還する債務を負うと解するのが相当である。
*本件の場合、返還すべき報酬200万円とは、着手金です。
- 東京地方裁判所平成17年3月23日判決(出典:判例時報1912号30頁)
イ 第二の二の争いのない事実等に加え、前記一で認定した事実によれば、被告(*弁護士)は、本件事故に隠された真相があるとの原告の見解に基づき、一定の事実調査や証拠収集の活動を行ない、別件訴訟の弁論準備手続期日に出頭し、裁判所に若干の書面を提出したことは認められる。
しかしながら、被告が行ったと主張する事実調査や証拠収集の活動の具体的な目的、内容やその結果を、被告は原告に対して説明しておらず、また、本件各証拠によって必ずしも明らかなものとはいえないこと、被告は、本件委任の後の約1年半の間に、陳述が許されなかった準備書面二通を除き、全く準備書面を提出しておらず、また、この間に被告が裁判所に提出した書面も極めて簡単な内容に止まっており、被告が行ったと主張する事実調査や証拠収集の活動の成果がこれに反映しているとは到底考えられないこと、被告は、担当裁判官が原告に不利な心証を抱いていることを口実に、具体的な主張立証活動をほとんど行っていないこと、被告は、原告に対して、別件訴訟の進行状況について十分な説明をしなかったのみならず、原告や支援者が裁判所に出頭し、期日に同席するのを阻止しようとしていたこと、被告は、原告から、平成12年3月1日、原告作成の書面を受領し、裁判所への提出を依頼されたものの、何らの理由も説明しないまま裁判所に提出しなかったため、原告の不信感を強めたことが認められる。
原告は、別件訴訟において、被告が、裁判所から指示された書面等を約束の期限に提出せず、また、期日に遅刻を繰り返したと主張するところ、本件訴訟における被告の訴訟活動も同様であって、別件訴訟での訴訟活動も同様であったものと推認されるのであり、原告が、被告の訴訟活動、訴訟に取り組む姿勢や態度に不満を抱いたことは十分に肯けるところである。
したがって、被告の本件委任の事後処理の内容は、原告の権利及び利益を擁護するには程遠いものであり、また、法律の専門家である弁護士として、依頼者に対する説明責任も十分に果たしていないところ、これにより、原告は、被告に対する不信感を強めて、ついには、本件委任を解約するに至ったものであり、被告の事後処理には、委任解約における善良な管理者としての注意義務に反する債務不履行があったというべきであるから、本件委任は、被告の責めに帰すべき事由により解約されたものと判断するのが相当である。
*この事件では、原告は、弁護士である被告に対し、委任契約の終了に基づき、既払の着手金250万円のうち150万円の返還と慰謝料を求め、裁判所は、150万円の返還と慰謝料50万円を認めました。
- 東京地方裁判所平成15年3月14日判決
2 原告の着手金返還請求について検討する。
(1)着手金は,委任事務処理の対価の前払いの性質を有していると考えられるところ,当該委任事務が終了する前に,弁護士及び依頼者の双方に帰責事由がないにもかかわらず,委任契約が解消された場合には,既に履行された委任事務処理に鑑み相当な範囲において,弁護士がそれを取得できるものと解するのが相当である。
(2)これを本件について見ると,前記のとおり,本件委任契約が解消されたのは,原被告間で反論書(4)の記載や本件不服申立手続に関する原告の希望と被告の判断が齟齬し,両者が調整不可能となったためであることが認められるのであるから,本件委任契約の解消に弁護士である被告と依頼者である原告のいずれにも帰責事由がないというべきである。
(3)そして,前記事実によれば,被告は本件不服申立手続に関する事務処理を平成9年12月11日に受任し,本件委任契約が解消されるまで,同手続に関し,反論書3通を提出し,また,反論書(4)を作成していたことが認められ,その準備として,原告との打合せや聞き取り調査を行ったことが推認される。このことと,前記のとおり,@原告が不服申立手続によって得る経済的利益は500万円とされていたこと,A原告は,被告との委任契約解消後,同手続に関し,反論書3通及び最終陳述書を提出したこと,B原告が本件不服申立手続に関して提出したその余の書面は,いずれも本件不服申立手続の審理に関する原告自身の意見を述べ,相手方の応訴態度を非難し,また,これらの意見に基づき審査員及び審査補佐員の忌避を申し立てるものであることに照らすと,本件委任契約が解消された時点における被告の報酬としては既に支払われた31万5000円が相当であるというべきである。