中国出土資料研究会97年度第3回例会発表 (於学習院大学)      1998.3.14 

       
                           工藤元男(早稲田大学)
                     小澤正人(成城大学) 
                           岩本篤志(早稲田大学)


1.目的と意義

・包山楚簡は1987年、湖北省荊沙地方の戦国中晩期の墓(包山2号墓)より出土した竹簡群で、湖北省荊沙鉄路考古隊によって釈読がなされた。しかし、包山楚簡の文字(楚系文字)を解釈する作業は困難であり、従来の釈文にも、多くの問題点がある。

・この問題を解決するために、本システムはこの楚系文字一字一字がどのような文脈で 用いられ、それをどのような意味として読むのかという基礎作業をコンピューターの 利用によって補助するものである。そのために文字・単語の検索および原簡と釈文と が対比できるということに重点をおいてシステム・データを構築した。



2.システムの概要

・楚系文字フォント
  MCT<Modern Character Transcription>・DT<Direct Transcription>(文字の扱いについては後述)
 トレース字

・文字情報データベース
・竹簡データベース(画像・テキストデータ)

 特徴、利点

・フォントはWINDOWS 95のほとんどのソフトで使用できる
・文字情報データベースは楚系文字を部首(もしくは部品)で検索できる。
・画像・テキストデータベースは簡ごとに画像とテキストを対照できる。
・テキスト部分の検索によってそれに対応する原簡をみることができる。
・本システムのデータ自体はWINDOWS95のユーザーであれば、容易にカスタマイズが可能である。


竹簡データベース画面-1

竹簡データベース画面-2

 文字情報データベース

 

ここで利用したデータベースソフトはH.Furuichi氏作成のVisual Cardfileです。


3.楚系文字データベースに関する今後の諸問題

 (1)MCT・DT

・松丸道雄氏提唱の「文字域」について


・松丸道雄氏が『甲骨文字字釈綜覧』凡例および「漢字形成期の字形」のなかで
 「文字域」という概念を用いて出土文字資料の扱いを検討*1。

・『甲骨文字字釈綜覧』の作成に携わった鈴木敦氏は松丸氏の概念規定であるとしたうえで、MCT<Modern Character Transcription>、DT<Direct Transcription>という言葉を用い、資料そのものに記された文字を、ある特定の字として認識・整理する方法を考察。*2

・これら成果をふまえ楚系文字を整理し、ある特定の意味を持つ1字と認知するまでの 過程を次のような段階にわけ、それを反映させる形でフォント作成。

トレース字 例:
原簡の字体を極力活かし、模写した字   


D.T.<Direct Transcription> 例:
トレース字を極力、忠実に楷書体で書写した字(主に『包山楚簡文字編』による*3)
「(当該資料の)字形に基づき、(資料の文字を)楷書化する約束に従って−(元来の)字義と現行文字の字義との相違を無視して−比定する方法」(前掲鈴木論文)


M.C.T.<Modern Character Transcription>  例:

現在の通行字体。
「(当該時代における)字義を究明し、それに相当する現行文字に−字形の相違を無視して−比定する方法」(前掲鈴木論文)

問題点

・今後の研究においては、従来の釈文を参考にしつつも、データベース化による用例研究によって、一字一字の意味を厳密に解釈し、釈文をより正確にしていく必要がある


 (2)文字コードおよび外字処理

・コンピューターで漢籍を扱うことの利点は、漢籍を縦横に検索して利用することができることである。これを可能にしているのは、文字コードである。コンピューター上の文字は基本的に、内部で文字コードによって固有の番号を与えられており、それによって検索や異機種間のデータ交換が可能になっている。

・現在の文字コードの主流はShift-JISコード。
 第一、第二水準の漢字合計6355字。

・Unicode 漢字数20992字。

 WINDOWS NT
 MS Song(Windows95で利用可)

・「今昔文字鏡」8万字

・ 本システムはWindows95の外字を利用。
(利点)
 ・Windows95ユーザーには馴染みやすい方法
 ・現在のところ、研究者間でJISコード外の字を共有する有効な方法
 ・検索の便を図るため、楚系文字の情報データベースを作成。
(問題点)
 ・95の外字は1880字しか使えないので、将来的に楚系文字資料が増加した際に対処困難になる。
 ・将来的には外字領域が無くなる(?)。
 →今後のOSの変化に伴い、データベースのシステムを改変する予定。


4.今後の課題と展望

・本報告のデータベースは、利用希望者に頒布。(次回出土研の7月の予定)
・また、ホームページおよび包山楚簡データベースを中心とした戦国秦漢の文字に関するメーリングリストをつくる予定。


このデータベースは1997年度三菱財団の研究助成金の成果の一部であり、工藤元男、小澤正人、岩本篤志によって企画、制作されたものです。データベース自体の著作権は工藤元男が有します。
 また、データベース作成にあたり、菅野篤司、水間大輔、森 和(早稲田大学大学院)の協力を得ました


*1松丸道雄・高嶋謙一『甲骨文字字釈綜覧』(東京大学出版会、1994)、松丸道雄「漢字形成期の字形」(『しにか』1995-5)
*2鈴木 敦「甲骨文字における”文字域”の設定-『甲骨文編』の検討を通じて-」茨城大学人文学部紀要(コミュニケーション学科論集)1 1997)
*3張光裕主編・袁国華合編『包山楚簡文字編』(藝文印書館、民国八一年)


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