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21.絵で見る十字軍物語 22.十字軍物語1 (文庫:第1巻−神がそれを望んでおられる−) 23.十字軍物語2 (文庫:第2巻−イスラムの反撃−) 24.十字軍物語3 (文庫:第3巻−獅子心王リチャード、第4巻−十字軍の黄昏−) 25.想いの軌跡 27.ギリシア人の物語1−民主政のはじまり− 28.ギリシア人の物語2−民主政の成熟と崩壊− 29.ギリシア人の物語3−新しき力− (※文庫化:分冊) |
【著者歴】、海の都の物語・続海の都の物語、マキアヴェッリ語録、ローマは一日にして成らず、ハンニバル戦記、勝者の混迷、ユリウス・カエサル−ルビコン以前、ユリウス・カエサル−ルビコン以後、パクス・ロマーナ、悪名高き皇帝たち、危機と克服 |
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小説イタリア・ルネサンス(1〜4) |
●「絵で見る十字軍物語」●(絵:ジュスターヴ・ドレ) ★★ |
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新たな<十字軍物語>シリーズの皮切りとなる一冊。 このハッチング絵なるもの、私は叙情があって好きです。その具体的例が、私の蔵書ではミルトン「失楽園」。 十字軍、もちろん西欧においては大きな歴史的事件でしょうけれど、本書はドレの絵によって、歴史的事実というより、歴史の中の“物語”としての印象が強い。 |
●「十字軍物語1」● ★★☆ |
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2019年01月
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いよいよ刊行なった<十字軍物語>シリーズの第1巻。 古典的名著として名高いギボン「ローマ帝国衰亡史」、現代の名著である塩野七生「ローマ人の物語」。その2名著の大きな違いは、そのまま題名が表しているように後者では“人”に力点が置かれていること。 歴史的状況、歴史の必然性といったことはともかくとして、十字軍を提唱したのも(ローマ法王)、賛同して小アジアに赴いたのも(西欧諸侯)も、救援を依頼したのも(ビザンチン皇帝)、皆「人」なのです。それも、法王と皇帝においては個人的な思惑を隠していて、ひどく人間臭い。でも、そうした人間臭さがあるからこそ、塩野さんの歴史作品は面白いのです。 まず本書第1巻は、第一次十字軍によるイェルサレムを中心とした連邦国家=十字軍国家成立までの西欧諸侯奮戦史。 1.「神がそれを望んでおられる」/2.まずはコンスタンティノープルへ/3.アンティオキアへの長き道のり/4.アンティオキアの攻防/5.イェルサレムへの道/6.聖都イェルサレム/7.十字軍国家の成立 |
●「十字軍物語2」● ★★☆ |
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2019年01月
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第1巻で十字軍国家を設立したものの、新たな統率者・応援勢力を得られず兵力不足の中、イスラム側の攻勢の前にジリ貧ながら何とか十字軍国家を維持していた、というのがこの第2巻。 波乱万丈の戦闘も目を惹く人物も見当たらず、膠着状態が続く時期。本来だったらそう面白くはない十字軍時代の一幕だったかもしれませんが、塩野さんが語るからこそ面白い。何故なら、細部の事象も見逃さないその眼力が見事であり、そこに深く魅せられてしまうから。 冒頭、人材の輩出について語る一文にまず惹きつけられます。また、「半世紀もの間の経験には少しも学ばず、バカの一つ覚え」という一文にも痺れてしまう。 達観した批評、思い切った言いっぷりが、塩野さんの手になる歴史書の魅力。 だからこそ、歴史上の出来事というにとどまらず、現代の政治状況とつい引き比べてしまうのです。そしてそれは決して間違いではない筈。時代を、年月を超えて語るからこそ歴史は面白く、また歴史を読む意味がある、と読み甲斐を感じてつい身震いしてしまう程。 本巻では、膠着状況だからこそ描かれる、様々な事象の対比が面白い。 ・城塞の効力と、西欧側・イスラム側における城塞の位置づけの差。 ・同じ十字軍の産物である“宗教騎士団”でありながら、聖堂(テンプル)騎士団と聖ヨハネ病院騎士団はあらゆる面において対照的。現代の経営感覚からすると、聖ヨハネ騎士団の在り方は理に適ったものと私には思えるのですが、どうでしょうか。 本巻で唯一英雄像に近く感じられるのが、後半に登場するボードワン四世。若くして癩を患ったイェルサレム王ですが、聡明にして果敢、ローマ帝国後期に登場する背教帝ユリアヌスをふと思い出させる人物です。 そして最後を飾る、十字軍側領主イベリンと、スルタン=サラディンのひとコマにも惹き付けられます。 これら人物の登場があるからこそ、破れたりといえども本書の読後感は清々しい、と感じられるのです 1.守りの時代/2.イスラムの反撃始まる/3.サラディン、登場/4.「聖戦」(ジハード)の年 |
●「十字軍物語3」● ★★☆ |
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2019年02月
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“十字軍”シリーズ最終巻。このシリーズ、最後の最後まで、シッポの先まで面白かったです。 本巻で描かれるのは、変化の多い第三次十字軍から最後の第八次十字軍まで。 約500頁の内約200頁が英国王であるリチャード一世が実質率いた第三次十字軍のこと、約70頁が神聖ローマ帝国皇帝であるフリードリッヒ二世が率いた第六次十字軍のことに費やされています。つまり、この2人の部分で約半分。 実際この2人の部分がとても面白いのです。その理由は、2人の英雄としての魅力に尽きます。 まずリチャード一世、私にとってはスコット「アイヴァンホー」の最後に登場した獅子心王の姿(やっと十字軍から帰国)が忘れ難いのですが、実のところその獅子心王ぶりを何も知らなかった訳です。それをようやく知ることができたのが本書。真に見事な統率者像です。 次いでフリードリッヒ二世。この人の独特な人物像は、アラビア語を読むことも話すことも十分できた、ということだけでも少し判っていただけるのではないでしょうか。そして戦わず、時間をかけて講和成立。 リチャードとフリードリッヒ、この2人の見事さは、イスラム側の統率者であるサラディン、その後を継いでサルタンとなった実弟アラディール、そしてその息子アル・カミールと、お互いにその力量を認め合い、人間として信頼し合うことが出来た、ということにあると思います。 両世界のリーダーがお互いに信頼し合うことが継続できていれば、現代においてもキリスト教世界とイスラム教世界がこんなにも対立構図にならずに済んだのではないか、と思う程です。 その2人のお陰で、パレスティナでキリスト教徒とイスラム教徒の共存が安定的に可能となった訳で、イェルサレムへ向かうキリスト教巡礼者にとっても幸いとなった他、現地のキリスト教都市が得た利益も大きかったという。 ところがローマ法王とその周辺には「異教徒と講和した」ということで評判が悪かったのだとか。このローマ法王とその組織、上記の経過を知るにつき、頑迷にして独善的、現実を直視しない等々、真に困った存在としか思えません。号令、脅しをかけるだけで戦闘を行う訳でなし、十字軍が失敗に終わっても責任は負わずと、リスクをまるで抱えないのですからこんな困った存在はないと言えます。 現地に利益をもたらす講和を行ったリチャード、フリードリッヒが批判され、2度とも十字軍を失敗してパレスティナのキリスト教都市に危機をもたらしたフランス国王=ルイ9世が聖人に列せられるのですから、もう処置なし。 キリスト教世界とイスラム教世界の対立、奥が深くてとても面白く、それ故に“ローマ人の物語”に全く引けを取らない面白さ、という次第です。 1.獅子心王リチャードと、第三次十字軍/2.ヴェネツィア共和国と、第四次十字軍/3.ローマ法王庁と、第五次十字軍/4.皇帝フリードリッヒと、第六次十字軍/5.フランス王ルイと、第七次十字軍/6.最後の半世紀/7.十字軍後遺症 |
25. | |
「想いの軌跡 1975-2012 」 ★★ |
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2018年02月
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「折々に綴られた単行本未収録エッセイ集」と紹介されていますが、出版に至ったエピソードが嬉しい。 若い担当編集者が誰にも相談することなく国会図書館に通って塩野さんの単行本未収録エッセイを勝手に探し出し、それをゲラにしたうえで塩野さんに出版しましょう、と突きつけてきたそうです。 その編集者の心意気が嬉しい。このエピソードを聞いただけで、ワクワクするような楽しさを本書に感じてしまいます。 ・冒頭の<地中海に生きる>は、地中海世界、ローマに対する塩野さんの溢れる興味、愛情が感じられるエッセイの数々で、ファンとしてはとても楽しい編。 ・<ローマ、わが愛>は、ローマ帝国に想いを馳せるエッセイの数々。「ローマ人の物語」とは違って思うままの角度から、好きなように語っている風なので、これまた楽しい。その中でも私が特に楽しく読んだのは「ティベリウス帝の肖像」、ローマ帝国が巨大な消費市場だったからこそシルク・ロードも誕生し得たと語る「"シルク・ロード"を西から見れば・・・」。 ・<忘れ得ぬ人々>の中で私も忘れ難く思うのは高坂正尭さんのこと。高坂さんの「文明が衰亡するとき」、そしてギボンの「ローマ帝国衰亡史」と自著の「ローマ人の物語」を比べてポツリと漏らした一言は、中々注目に値します。 ・<仕事の周辺>では塩野さんの著作活動における方向性が語られているので、ファンとしては見逃せない編。その中でも極め付けに楽しいのは、塩野さんの初期著述における奮闘ぶりを語った「偽物づくりの告白」。ファンには見逃せないエッセイです。 総じて、塩野さんのこれまでの足跡を辿り、そして肌で感じることができる一冊。塩野ファンには是非お薦めです。 地中海に生きる/日本人を外から見ると/ローマ、わが愛/忘れ得ぬ人々/仕事の周辺 |
26. | |
「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」 ★★★ De Imperatoris Friderici Secundi Vita |
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2020年01月
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フリードリッヒ二世とはどういう人物か。 12世紀末に生まれ幼くして両親を失ったものの、14歳で勝手に成人宣言。それから見事に勢力を拡大し、神聖ローマ帝国皇帝兼シチリア王国の王。 そしてその生涯を特色付けるのは、“皇帝のものは皇帝に、神のものは神に”という政教分離を目指し、幾度もの破門に屈することなく徹底的にローマ法王と対立して一歩も退かず、広くヨーロッパの覇権を握ったこと。 「ローマ人の物語」が完結して以降、塩野さんは場当たり的に書いているのかなぁと思っていたのですが、それは私の余りな浅慮でした。このフリードリッヒ二世に関しては、処女作「ルネサンスの女たち」を執筆した当時からいずれ書いてみたいと思っていた人物なのだそうです。 そして本作品の位置づけは、ローマ帝国とフネサンスの間に横たわる一千年、即ち“中世”がターゲットにして、「ローマ亡き後の地中海世界」「十字軍物語」に続いてその最後を締める作品であるとのこと。 このフリードリッヒ二世という人物の物語を読んでいると、その魅力に圧倒されるばかりです。 創造力と行動力、そして人に対する公平さ。何しろイスラム教徒とも虚心坦懐に対したそうなのですから。そこから生じる人間的魅力は比類ないもののように感じられます。 フリードリッヒ二世が目標とした人物はローマ帝国初代皇帝アウグストゥスのようなのですが、日本人である私からすると織田信長と比べる方が自然です。 近世的な発想に基づいて凝り固まった既成価値観に挑戦し、出自に捉われず能力次第で人材を登用、酷使した点でも信長と共通するところを感じます。ただし、信長のような革命児ではなく、政治家だった故に左程残虐な行為はしていないようです。 また、ローマ法王への対し方の中に、現代感覚からして辛辣なユーモア精神の持ち主、と感じる箇所が多々あり、です。 フリードリッヒ二世と頑迷に対立し続けた代々のローマ法王、何やら信長に追放された足利将軍=義昭に似ているようにも見えました。 とにかくフリードリッヒ二世という人物の魅力が圧巻。 その見事さは、ローマ帝国の名皇帝たちに比肩しうると言って誤りではないでしょう。そして本作品もまた「ローマ人の物語」に比肩しうる面白さです。 西欧において中世という時代が何故暗黒だったのか。フリードリッヒ二世とローマ法王の対立を見ていると、その理由が透けて見える気がします。 フリードリッヒ二世という傑出した人物の評伝として読み応えある作品であると同時に、ヨーロッパ中世という時代を浮き彫りにした傑作歴史巨編。お薦めです! 1.幼少時代/2.十七歳にして起つ/3.皇帝として/4.無血十字軍/5.もはやきっぱりと、法治国家へ/6.「フリードリッヒによる平和」/7.すべては大帝コンスタンティヌスから始まる/間奏曲/8.激突再開/9.その後 |
「ギリシア人の物語T−民主政のはじまり−」 ★★☆ | |
2023年08月
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「ローマ人の物語」完結後、スポット的にローマ後の世界〜西欧中世を描いてきた塩野さんだけに、まさかローマ以前に戻って“古代ギリシア”を改めて執筆しようとは思いもしませんでした。 今更に古代ギリシア?と思う気持ちと、果たして面白いのだろうか?という疑問が半々に浮かんだのは本書刊行を知った直後のこと。 しかし、読み始めて見れば面白いのです。それはやはり、塩野さんの語りがあってのことか。 「ローマ人」でもそうでしたが、歴史的事実を描くことにおいて塩野さんは、その国民性、歴史を左右したその個人を描くことによって行うのが常。だからこそ歴史が生き生きと実像を伴って伝わって来ます。それに加え、彼らを語る塩野さんの寸評の言葉がなんと独創的で、かつまたズバリ的を射ぬいていることか。 だから「ギリシア人」を描く本三部作も、読み物として十分すぎる程面白いのです。 冒頭「読者への手紙」で本書を執筆することになった動機を塩野さんが語っていますが、そのひとつは、昨今民主主義とは何か、民主政下のリーダーはどうあるべきかについて論じられることが多くなり、そこで民主政治の創始者であったギリシア人に戻ってみようと思った、とのことです。 第T巻の中心は、同じギリシア人の都市国家でありながらスパルタとアテネの相違、その2ヶ国を含んだギリシア都市国家連合とペルシア帝国との2度にわたる戦役。ペルシア戦争という歴史事実に絡めて、民主政がどのように確立され、どう効果を上げたのかが描かれます。 どうしても「ローマ人」と比べてしまうのですが、ローマ人たちが行った戦役と比べるとスケールが小さいなぁとついつい感じざるを得ず。 また、議論好きというギリシア人、好き嫌い等々個人感情が強すぎるのではないか。その点ローマ人は、合理的な思考、行動が徹底していたなぁと思います。 なお、ギリシア人が創始者だという“民主政”、平時は良いのかもしれませんが、場合によっては衆愚政治ともなり、危機時には即応力を欠くと多分に考えさせられるストーリィ。 理想の政治体制とは、賢者による独裁体制である、という言葉を改めて思い起こさせられます。 さて、第2巻はどのような内容になるのでしょうか。 読者への手紙/1.ギリシア人て、誰?/2.それぞれの国づくり/3.侵略者ペルシアに抗して/4.ペルシア戦役以降 |
「ギリシア人の物語U−民主政の成熟と崩壊−」 ★★☆ | |
2023年09月
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塩野七生著・歴史書の面白さ、魅力は、現代の視点を以て語られている、というところに尽きます。 本書はペルシア戦役後の、都市国家アテネの繁栄と没落を描いた巻ですが、その中で特筆すべきことは“デマゴーグ(扇動者)”の登場。結局そのデマゴーグの存在が、海洋国家として繁栄を誇っていたアテネを没落させたと言っても差支えない状況を作り出したのですから、恐いものです。 そして、そのデマゴーグに関する部分、現在の国際情勢に照らしてリアリティが有り過ぎ、思わず笑ってしまった程です。 本書の副題は「民主政の成熟と崩壊」、それはすなわち海運都市国家アテネの繁栄と没落と言い換えることもできます。 歴史家ツキディデスをして「形は民主政体だが、実際はただ一人が支配した」と言わしめたペリクレス時代(繁栄)と、ペリクレス亡き後の時代(没落)という大きく分けての二部構成。 本書全体を通じて感じることは、民主政だろうが専制君主政を問わず、要は優れたリーダーに恵まれたかどうかがポイント。 ペリクレス時代には、スパルタにはアルキダモス、ペルシアにはアルタ・クセルクセスという慧眼の持ち主が共存していたからこそ、互いの安定と繁栄が得られた、ということですから。 しかし、ギリシアの民主政というのは、優れたリーダーを失うと簡単にその土台が揺らいでしまう。民主政という体制の故に、いとも安易にデマゴーグの暴言にのって民衆の愚かさを露呈してしまうのですから。 ペレクレスの元でのアテネと、以後のアテネでこんなにも違うのかと呆れるくらいです。特に“シラクサ遠征”以降は愚の骨頂というばかり。 そこが合理的な考え方で一貫していたローマ人との違いだなァと思うところです。 ペリクレスという優れたリーダーの元での繁栄ぶりを描いた第一部より、民主政の愚かさを露呈した第二部の方が、現在の国際政治情勢に照らして学ぶところは多いと感じます。お薦め。 第1部 ペリクレス時代(紀元前461年〜429年までの33年間) −現代からは、「民主政」(デモクラツィア)が、最も良く機能していたとされている時代− :前期(461〜451年、11年間)/後期(450〜429年、22年間) 第2部 ペリクレス以後(紀元前429年〜404年までの26年間) −「衆愚政」(デマゴジア)と呼ばれ、現代からは「民主政」が機能していなかったとされている時代− :前期(429〜413年、17年間)/後期(412〜404年、09年間) |
「ギリシア人の物語V−新しき力−」 ★★★ |
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2023年10月
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“ギリシア人の物語”の最終巻。 第一部は、ギリシアの都市国家の衰退が描かれます。 国家あるいは地域の興隆は何によってもたらされるのか。それは軍事力でも政治力でもなく、経済力に他ならない、つくづくそう感じさせられます。 アテネに代わって都市国家の盟主となったスパルタに経済感覚はなく、といってアテネを再興隆させるような人物は現れず、スパルタを軍で破ったテーベにしろ、その力量には限界があった。 という訳で都市国家は衰退し、それに代わるように専制国家であるマケドニア王国が勢力を伸ばしていく、それが前半。 かねてから、マケドニアのフィリッポスとアレクサンドロス(アレキサンダー大王)父子は、織田信秀と信長父子によく似た関係と思っていたのですが、信秀と同様フィリッポスを書いた部分はあっという間に過ぎ、本巻の核心であるアレクサンドロスの東征へと舞台は移っていきます。 このアレクサンドロスの部分が実に面白い! ずっとワクワクしっ放し、夢中になって読んでいると、あれ?この巻にギリシアの都市国家を書いた部分などあったっけ?と思う程です。 アレクサンドロスのどこがこんなにも魅力なのか。 それは尽きることのない情熱を持ち、まだ見ぬ世界へとどんどん足を進めた点にあるのではないかと思います。 塩野さんはそんなアレクサンドロスの性格について「向こう見ず」と評していますが、確かにその通り。 アレクサンドロスの東征地図を眺めると、東ヨーロッパから小アジアを抜け、当時のペルシア帝国を縦横に進軍するだけでなく、インドとの境まで到達してしまうのですから、驚愕するのみ。 全ては、まだ見ぬ世界を見てみたい、狭い世界に留まっていたくないという、若者の好奇心、若者ならではの突進力のなせる業、としか言いようがありません。 何しろ、徒歩の時代ですよ、他地域の情報など少なかった時代ですよ、10年間にも亘って故国に帰ることがなかったんですよ。 アレクサンドロスに従う将兵も、よくもまあ彼に従い続けたものだと感嘆します。それだけアレクサンドロスが部下の将兵たちに愛され、信頼されていたという証しでしょう。 歴史の授業の副読本としてこんな歴史物語を読んでいたとしたら、どんなに歴史が好きになったことでしょうか、と思います。 なお、塩野さんは元々、カエサルを書きたいが為に「ローマ人の物語を」書くに至り、そして今度はアレクサドロスを書きたいが為に「ギリシア人の物語」を書くに至った、とのことです。 そして、塩野七生“歴史エッセイ”も本巻が最後との由。 本巻の最後で塩野さんは、読者の支持があったからこそここまで歴史エッセイを書き続けることができたと感謝の辞を告げられていますが、むしろ読者の方こそ、塩野さんの歴史エッセイのおかげで歴史世界の中にタイムスリップしたかのようにリアルな物語をどれだけ楽しめたことかと、感謝したい思いでいっぱいです。 心から、有難うございましたと申し上げます。 第1部 都市国家ギリシアの終焉 1.アテネの凋落/2.脱皮できないスパルタ/3.テーベの限界 第2部 新しき力 1.父・フィリッポス/2.息子・アレクサンドロス/3.ヘレニズム世界 17歳の夏−読者に |
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