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Clare Kipps 1890年英国シュロップシャー州ウィッチチャーチ生。本名はルーシー・ヘレン・マグダレン・ガードルストン。父親はバプテスト派の牧師。30歳を過ぎてからロンドンの王立音楽院でピアノを学び、その後プロのピアニストとして活躍。34歳の時に王立音楽院で指導教授だったジョン・キップスと結婚。 |
2010年11月 2015年01月
2010/12/04
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本書に添えられた副題は「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」。 このクラレンスとは、著者が命を助け、その生涯を見守ることになったイエスズメの名前。 本書は、1953年英国で出版されるや、大ベストセラーになったノンフィクションとのこと。 1940年ロンドン郊外の家の玄関前で著者は、瀕死の状態にある、数時間前に生まれたばかりであろう小さなヒナ鳥を見つけます。しかも、片方の翼と片足に障害があるらしい。 ミルクをやり、温めてやったものの、とても生き延びるとは思えなかったイエスズメですが、彼は生き延びます。 そして次第に元気になった彼=クラレンスは、著者の身近な同居人となり、第二次大戦下ドイツの爆撃機による空襲に怯える人々に芸をみせたり元気に歌を歌ったりして慰めたのだという。 拾われた小鳥が救い主をすっかり信頼し、まるで家族のような関係になるというのは感動的な話だとは思いますが、それよりも私が感動したのは、彼が著者の元で12年と7週と4日間を生き抜き、極度の老衰で死んだという事実です。 しかも、一度卒中で身体に麻痺も生じ、目が見えなくなるということもありながら、著者らの治療により再び元気な姿を取り戻したというのですから、すごい。 野生の生きものが老衰による死まで生を全うする、それは奇跡的な出来事であるに違いありません。 著者はこの小鳥に対し、常に人格を認めて遇しています。 「誇り高きクラレンス」とは、著者の彼に対する深い愛情を示す表現であることに他なりません。 本書は、著者とスズメの物語ではなく、あくまでクラレンスの物語。そこに本物語の愛おしさがあります。 なお、原書解説は、英国の有名な生物学者ジュリアン・ハクスレー。それだけでも本書の価値が感じられるというものです。 |