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1.たまさか人形堂物語 2.ブラバン 4.エスカルゴ兄弟(文庫改題:歌うエスカルゴ) 5.夢分けの船 |
●「たまさか人形堂物語」● ★ |
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2011年08月 2022年03月 2009/01/25 |
広告会社をいきなりリストラされ、世田谷で祖父が経営していたしょぼい人形店=玉阪屋を引き受けることになった元OL店主の澪。 人形というモチーフも魅力ありますし、アットホームなメンバーが持ち込まれる様々な問題を解決するというシュチュエーションは、本来私の好きなもの。 なお、玉阪屋に持ち込まれる人形は、持ち主そっくりの人形、テディ・ベア、お雛さま、マリオネット、ラブドールまでと多彩。 毀す理由/恋は恋/村上迷想/最終公演/ガヴ/スリーピング・ビューティ |
●「ブラバン」● ★☆ |
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2009年11月
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高校の吹奏楽部に在籍した頃の思い出と現在を、同時並行して語っていく青春ラプソディー。 高校を卒業して25年、主人公=他片(たひら)等は同じ街で流行らない洋酒バーを営んでいる。 題名は「ブラバン」で一応音楽小説ではあるのですが、中沢けい「楽隊のうさぎ」のように、完成されたブラスバンド演奏は見られません。そこは、高校のクラブ活動のひとつ止まり。 各人の高校時代のエピソード、そして現在の状況というピースを貼り合せて作り上げたいった観ある長篇小説。 |
「11 eleven」 ★☆ |
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2014年04月
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出版社の紹介文には「究極の作品集」、「「11」の異界の扉が開かれる」とあるのですが、・・・う〜む。 どのストーリィも通常世界のこととは思えない内容。 とくに“著者ベスト”短篇と紹介されている「五色の舟」。登場人物たちそもそもが想像を超えたキャラクターである上に、そもそも今いる世界自体が異界としか思えない。そのうえ更に異界へと展開していくストーリィ。ただ、一度読んだら忘れ難いストーリィではあります。 異界への扉が今開かれる・・・。 五色の舟/延長コード/追ってくる少年/微笑面・改/琥珀みがき/キリノ/手/クラーケン/YYとその身幹/テルミン嬢/土の枕 |
4. | |
「エスカルゴ兄弟 Les Freres Escargot」 ★★ (文庫改題:歌うエスカルゴ) |
2017年11月
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零細出版社の編集者である柳楽(なぎら)尚登、27歳。社長の高嶋にら命じられて螺旋写真家の雨野秋彦の元を訪ねたら、何とリストラに伴う、雨野が新たに開店しようとしているエスカルゴ料理店の調理人への斡旋だったとは! 尚登、香川県にある讃岐うどん屋の次男。飲食店でバイトする内ついでにと調理師免許を取っていたという次第。 一方、雨野の父親は元々吉祥寺で立ち飲み屋“アマノ”を営んでいたもの。腰を痛めて店を続けることが困難になったことを契機に、螺旋に拘る雨野がエスカルゴをメインとしたビストロ風の店“スパイラル”に店替えしようという計画。 そんな尚登、伊勢の松阪でエスカルゴ・ブルギニョンの料理修業中に運命的な出会いをします。しかし、その相手は<讃岐うどん>とは仇敵の関係にある<伊勢うどん>屋の娘=榊桜。 自分本位な秋彦とロシア人的風貌のその妹=高校生の梓に振り回されながら、店を軌道に乗せるため調理人としてメニューの工夫の余念のない尚登と、尚登の作りだす料理が楽しく、また桜との恋模様もじれったくもあり、微笑ましくもあり。 その中でも一番の魅力は、身近な食材をちょっとした工夫で個性的、かつ美味しい料理を生み出すところでしょう。 ちょっと風変わりな味わいの、料理人青春ストーリィ。 実は、エスカルゴ・ブルギニョン、私の好きな料理です。でもフランスでエスカルゴの生息数が減っていると聞いて以来、ずっと食べていず。それだけに本ストーリィ、楽しき哉。 ※なお、ファミレス等でサービスされている「エスカルゴ」、実はアフリカ・マイマイをエスカルゴの殻に入れているだけの代物だとか。知らなかったーっ。 プロローグ/ 【壱】1.フレンチトーストの夜/2.モツ煮込みの匂い/3.シビレに痺れ/4.冷蔵庫の名はグレー/5.油雑巾とは/6.ヘリックス・ポマティア/7.伊勢うどんに転ぶ 【弐】1.エスコフィエのレシピ/2.八角とキツネ/3.おつまみ三種盛り/4.なにかグラタンのような/5.エスカルゴうどん/6.ウドネスカルゴへ/7.チーズに蜂蜜 【参】1.美しきアーモンド形の/2.酒豪に捧げる天津飯/3.葱ねたと日本酒/4.チキンラーメン三昧/5.稲庭の威力/6.磊磊なる料理たち/7.エスカルゴ尽くし/ エピローグ |
5. | |
「夢分けの船」 ★★ |
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舞台は現代、ストーリィもこれぞ現代という内容、それでいて文章は明治風。 具体的に言うと、漱石作品を連想し、「三四郎」を思い出させられる、という処。 似合わない、変では?と思われるかもしれませんが、だからこそ面白い、といって過言でありません。 だからこその、これぞまさしく青春小説。 主人公の秋野修文(よしふみ)は、映画音楽の創り手になりたいと、愛媛県新居浜から東京に出てきて樅ノ木学園という専門学校に入学。 最寄り駅を降りて早々、やたらと修文を引っ張りまわす嘉山克夫(岡山県人だからと修文は「岡山」と呼ぶ)と出会い、さらに学園から斡旋された賃貸マンションのその部屋には、3代前の住人である久世花音の幽霊が出る、と脅されます。 それ以降のストーリィ範囲は狭い。 岡山が作ったバンドにキーボード奏者として引っ張り込まれ、そのバンド仲間である小河内大介、沢瑞絵、といった面々。 そして、同じマンションの階下に住む風俗嬢の霞がやたら修文にまとわりつき、花音の姉=久世夕子が営む飲食店でバイトすることになる、等々。 それでいて、東京で会おうと約束した故郷の女性=薫とは再会できずにいる。 幽霊騒ぎを除けば、特にどうということもないストーリィ。 結局、修文が東京にいたのは僅かな期間に過ぎないのですが、そこには迷える青年の青春物語が間違いなくあった、と言えます。 本作を評価するかどうかは好み次第と思いますが、津原泰水さんの遺作と思えば、なおさら感慨深いものがあります。 |