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10.嘘つきなふたり 12.可哀想な蠅 |
【作家歴】、青い春を数えて、その日朱音は空を飛んだ、君と漕ぐ、君と漕ぐ2、どうぞ愛をお叫びください、君と漕ぐ3、愛されなくても別に、君と漕ぐ4、世界が青くなったら、君と漕ぐ5 |
「嘘つきなふたり」 ★★ | |
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主人公の朝日光・19歳は現在、実家を離れて女子寮住まい。 その光は、東大赤門前の交差点で小学校時に仲の良かった長谷川琴葉と偶然に再会する。 折しも、光も出席した小学校同窓会の後、当時の担任教師で人気のあった中山が川で溺死したというニュースを知ったばかり。 そのニュースに琴葉は、「中山を殺したのは私」「一緒に逃げてくれない」と言い、どうせならやりたいことをやってから逮捕されたいと、自分が行けなかった京都への修学旅行へ光を誘ってきます。 さっそく二人は、深夜バスで京都へ向かいます。 何故光が琴葉の誘いにすぐ応じたのかというと、琴葉が中山を殺したのではないことを光は知っているから。何故かといえばそれは・・・・。 友情の復活、二人旅、そして担任だった中山の死の真相は? そして、2人がついている嘘とは・・・・。 いやはや、何とも不思議で奇妙、そしてワクワクすると同時にスリリングな二人旅。 設定、趣向とも全く異なるますが、長く離れ離れになっていた友人2人の再会からストーリィが動き出していくという展開、ついつい一穂ミチ「光のとこにいてね」を思い出してしまいます。 読み終えてしまえばあぁそんなことだったのか、と思うものの、友人との再会がお互いに新たな道へ踏み出すきっかけになるという処、この2人の友情復活を祝福したい。 さて、2人がついた嘘とは何なのか。どうぞお楽しみに。 プロローグ/1.再会とか思い出とか/2.恋人とか親友とか/3.親とか子供とか/4.いつかとか今度とか/5.推しとか理想とか/6.嘘とか本当とか/7.終わりとか始まりとか/エピローグ |
「可哀想な蠅」 ★★ | |
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武田綾乃作品としては、初めてと言って良い、ブラックな短篇集ではないでしょうか。 その意味で、武田さんにおいて新境地を開こうと挑んだ意欲的な作品、と感じます。 収録されている4篇、いずれも女性2人の関係を描くもの。 「可哀想な蠅」は、共に女子大生、友人関係にある二人。 「まりこさん」は、小学生時代に親しくしていた30歳年上の友人と信じていたまりこさんと、社会人になった主人公が再会。 「重ね着」は、考え方が異なる31歳、28歳の姉妹。 「呪縛」は、父親の介護のため大学を休学、2年遅れで社会人となった麻希と、同期の男性から友人になってやってくれと紹介された詩乃。 ・「可哀想な蠅」と「まりこさん」は共に、最後で主人公の驕りを痛烈に感じさせられる篇。しかし、それは非難されるようなことだったのでしょうか。 そして友人を失うようなことだったのか。 それにしても、SNS上で他人を攻撃してばかりの人間を“可哀想な蠅”と呼ぶ主人公の考え方は、鮮烈です。 ・「重ね着」は、ほっとできる篇。 考え方や行動ぶりが対照的な姉妹ですが、対立するばかりではなく、共に並び立つこともできるのだと認め合う処が、佳い。 ・「呪縛」:ずっといい子で生きてきた麻希が、詩乃という女性と近付き過ぎて狂い始める、というストーリィ。 人間の本性を引きずり出されるような感覚。単なる読み手であっても、自分もまたそんな処があるのではないかと、恐ろしくなります。 決して楽しいストーリィ内容ではありませんが、凄みを感じさせる短篇集。 可哀想な蠅/まりこさん/重ね着/呪縛 |