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●「前夜の航跡」● ★★☆ 日本ファンタジーノベル大賞大賞 |
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2011/01/04
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霊に絡むストーリィから成る連作短篇集なのですが、昭和初期の海軍を舞台に設定したところが秀逸、本短篇集の魅力です。 著者の紫野貴李さん、司馬遼太郎「坂の上の雲」に感銘を受けたことが、旧海軍に関心をもったきっかけだったとのこと。 演習中の事故で死んだものの、成仏できないまま彷徨う海軍大佐の霊(「左手の霊示」)。演習中の海難事故で絶体絶命の窮地に追い込まれた主人公を救ってくれたのは、像に宿った三毛猫の霊だったり(「霊猫」)、弁財天だったり(「海の女天」)。 病気療養中の海軍大尉の元に同期生が届けてくれた像とは・・・(「冬薔薇」)。 そして、記念碑として岸壁に繋留されたままとなった戦艦三笠内で聞こえる音は何を訴えようとしているのか(「哭く戦艦」)。 各篇とも場所、主人公は各々異なりますが、唯一共通して登場するのが、名の知られた仏像彫刻師の息子で未だ修行中という笠置亮佑。 亮佑の彫る像が、どの篇においても解決のための鍵となります。 そもそも日本海軍というところは論理的な場所。それにもかかわらず、霊が蠢く怪奇綺譚の主要な舞台になっているというアンバランスさ、怪奇現象であるのにどこか鋭利で理知的な雰囲気を漂わせているところが、何と言っても魅力。読んでいて、理屈を超えた面白さあり。 ストーリィの面白さといい、舞台設定の見事さといい、キャラクターの良さといい、お薦め! なお、「左手の霊示」「哭く戦艦」に共通して登場する、海軍諜報部丁種特務班の独眼竜こと支倉竜之介大佐、事故で左手を失った芹川達人中尉のコンビが中でも魅力。霊に遭遇すると、義手が発熱し光を発するという想定がお見事。薬師如来を彫った木の端切れで亮佑が義手を彫ったということですが、それ以来芹川中尉は不思議な出来事をいろいろと感じるようになったという設定。 左手の霊示/霊猫/冬薔薇/海の女天/哭く戦艦 |