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1.珈琲店タレーランの事件簿 2.春待ち雑貨店ぷらんたん 3.夏を取り戻す 4.貴方のために綴る18の物語 |
1. | |
「珈琲店タレーランの事件簿−また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を−」 ★☆ | |
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新刊「春待ち雑貨店ぷらんたん」を読む前に、まず作者のベストセラー・シリーズだという本書を読んでおこうと思った次第。 舞台は京都。主人公「アオヤマ」が恋人から街中でいきなり投げ飛ばされ、別れをの意思を固めた後、ふと見つけて立ち寄った店が<喫茶タレーラン>。 こよなく珈琲を愛する青年である主人公は、この店の珈琲の美味と女性バリスタの切間美星(きりま・みほし)の魅力に惹かれ、足繁くこの店を訪れることになります。 主人公が自分の身に起きた不思議な出来事をバリスタに語ると、鮮やかに彼女が謎解きをして見せるという、安楽椅子探偵型連作日常ミステリ。 いかにも人気を呼びそうな主役設定かつ舞台設定であり、実際に5巻まで既に刊行されているのですから、ベストセラー・シリーズというのも、むべなるかな。 しかし、私としてはちょっと不満もあり。という訳で、あえてその不満点を記載しておきます。 まず、主人公であるアオヤマ(本名:青野大和)の人物像が曖昧で不確かであること。そして、そんなアオヤマに何故か惹かれているらしいという点で切間美星にも減点、という思いです。 アオヤマの人物像が曖昧だった理由は最終章「また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」で明らかになるのですが、それでも主人公像に対する印象が基本的に変わらず。 もう一つは、仕掛けが過剰だという印象。ひとつの章で何重にも仕掛けを施すのは余り良いとは思いませんし、ストーリィ上だけでなく、読者に対しても何重もの仕掛けを施していたりする、という点。 まぁ、シリーズの続刊でこれらの点は修正されているのかもしれませんし、そうあって欲しいと思います。 ※続刊以降を読み続けるかどうかは、現時点では未定です。 1.事件は二度目の来店で/2.ビタースウィート・ブラック/3.乳白色にハートを秘める/4.盤上チェイス/5.past,present,f*****?/6.Animals in the closed room/7.また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を |
2. | |
「春待ち雑貨店ぷらんたん」 ★★ |
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2021年03月
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ハンドメイド雑貨作りの趣味が高じ、小さなハンドメイドアクセサリー店“ぷらんたん”を開いて4年になる北川巴瑠(はる)が主人公。 京都の街を舞台に、巴瑠と彼女の店を中心軸としたミステリ仕立ての連作ストーリィ。 「珈琲タレーランの事件簿」第1作と比べると、出来栄えに格段の進歩、そして格調の高さを感じます。 その理由のひとつは、登場人物たちの人物像が実体を伴うかのようにはっきりと目に浮かぶ処にあります。 そしてもうひとつは、どの章でもミステリは道具立てに過ぎず、肝心なのはそれぞれに何らかの悩み、鬱積を抱えている登場人物たちが、巴瑠がそっと寄り添うことに勇気づけられて、新たな道へと扉を開くストーリィになっている処。 なお、その巴瑠は決して導き役といった高みにいる訳ではなく、悩みや鬱積をやはり抱えていて、新たな一歩を踏み出す勇気を試されていることは他の登場人物たちと全く同じ、という処に共感と親しみが持てます。 ・ストーリィは、付き合って半年になる恋人=桜田一誠からいきなり結婚を申し込まれた巴瑠が、「考えさせて」とその答えを保留するところから始まります。巴瑠には他人に余り言えないある秘密を抱えていた、というのがその事情。その経緯を描いたのが冒頭の「ひとつ、ふたつ」。 ・「クローバー」の主役は、地元福岡に残った恋人との遠距離恋愛に奮闘している女子大生の小高未久。 ・「レジンの空」の主役は、一誠と大学以来の友人で巴瑠も親しい仲となった名倉友則。現在付き合っている恋人との仲が今一歩進展しない悩みを2人に打ち明けます。 ・「手作りの春」の主役は再び巴瑠。“ぷらんたん”を今後も続けていくかどうか、その覚悟が試されるような出来事が相次いで巴瑠の身に降って湧きます。 最後は、巴瑠が力強い一歩を前に向かって踏み出すところで、本連作ストーリィは締めくくられます。 春の訪れ、そんな読後感は本書題名に如何にも相応しい。 是非、シリーズ化を望みたいところです。 ひとつ、ふたつ/クローバー/レジンの空/手作りの春 |
3. | |
「夏を取り戻す」 ★★ |
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2021年06月
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城野原団地に住む、小学4年生の男女5人(隼人・健・智子・美咲・慎司)が仕掛けた連続失踪事件。 「夏を取り戻すため」という彼らの目的は何なのか? 失踪事件を繰り返す小4の子どもたちと、その謎を解明しようとする雑誌編集者&フリーライターとの間で繰り広げられる、ひと夏のミステリ対決。 しかし、子供たちの目的は、私立中学受験のための塾通いで夏休みが潰れてしまったから、夏休みの楽しさを取り戻したい、という単純なことだけだったのか・・・。 月刊「ウラガワ」編集部に届いた一通のFAX。そこには、城野原団地で小学生たちが次々に失踪する事件のことが情報提供されていた。 新米編集者の猿渡守は、フリー記者の佐々木大悟と共に現地取材に赴き、成り行きで子どもたちが企んだ失踪事件のからくりの謎解きに挑戦することになります。 子どもたちが仕掛けたトリックを、大人2人が謎解きしようと挑戦する、前半はその掛け合いが面白い。 ただ、それだけでは・・・と思っていた処、子どもたちの計画にはもっと深い目的が隠されていた、と気づかされます。 それから後の展開がお見事。 彼らのこれからの成長に期待を掛けたくなる、彼らが築く未来に希望を託したくなる、そんな読後感です。 夏休みに読むには格好のミステリ、です。 プロローグ/1.失踪する子供たち/2.光の密室/3.春は戻らない/4.秋分の決戦/5.夏を取り戻す/6.冬が終わるまで/エピローグ |
4. | |
「貴方のために綴る18の物語 18 stories written for you」 ★☆ |
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主人公の赤塚美織、駅のホームで見知らぬ老紳士から仕事を頼みたい、と声を掛けられます。 当然ながら詐欺ではないかと警戒するのですが、老紳士からの申し出は、月曜日から土曜日まで日々郵送する短い物語を読んで感想を書き留めてほしい、3週間で計18話、謝礼は 143万円。 依頼を引き受けた美織は、その日から毎日、短い小説を読むことになります。 言ってみれば、ショートストーリィ集。 さて内容はと言えば、初恋もあれば失恋もあり、恋人間の話もあれば夫婦間の話もあり、さらには性欲丸出しの嫌悪感を抱かされる話もありと、内容は様々。SF近未来ものさえもあり。 それを上記のような構成にて長編要素を加えたという趣向。 本作における謎は2つあります。 一つは、何故老紳士は、美織にこうした依頼をしてきたのか。 もう一つは、何故美織は、恋人と思われる颯太に会いに行くことを決行できないでいるのか。 それらの答えは、最後でようやく明らかになります。 各ストーリィ、それなりに楽しめましたが、総じてインパクト不足。 また、最後の謎解きにしても、あぁそんなところだろうなァ、と驚きを感じるまでには至らなかったところが、残念。 プロローグ 【1st week】1.ひきこもり/2.インタビュー/3.遺伝子検査/4.無記名のラブレター/5.催眠/6.縁/Sunday 【2nd week】7.12月の出来事/8.闇の中/9.名優/10.依存症/11.友達の輪/12.マリッジブルー/Sunday 【3rd week】13.いじめロボット/14.外出自粛の恋人/15.ぼくの夏休み/16.金婚式の夜/17.愛を買う人/Saturday/18.拝啓 貴方様 エピローグ |