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1.でりばりぃAge 2.スリースターズ 3.恋する熱気球 4.キズナキス |
「でりばりぃAge」 ★★ 講談社児童文学新人賞 |
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2006年04月 2012年07月
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もう子供とは言えず、といって大人でもない、中学2年・14歳のひと夏、家族や自分自身の不安定さについての揺れる思いを描いた児童向け作品。 夏休み、真名子は仲間と一緒に私立G高校の夏期講習に通っているが、息苦しい思いを感じている。 そんな時ふと校舎の窓から目に留まったのは、古い家とその庭。その庭に干されていたシーツは、まるで真名子を救い出してくれる白い帆のように見えます。 突然雷鳴と共に降り出した雨、その瞬間、真名子は教室を飛び出し、その庭に飛び込んで洗濯物を家に中に投げ入れようとし始めます。 その家で真名子が出会ったのが、それ以降「ローニンセイ」と呼ぶことになる青年=奥窪。かつては奥窪医院だったそこはジジイの家、奥窪は遊びに来ているのだという。 それから毎日、真名子は夏期講習をさぼって、居心地の良いその庭に通うことになります。 何故真名子はそんな行動をとることになったのか、何故その庭に惹きつけられたのか。家族に対する屈託、真名子が胸の奥に抱えるやりきれない思いが、徐々に語られていきます。 ローニンセイの奥窪がそんな真名子の良き相談相手になるのかというと、そうはなりません。彼もまた心の内に屈託を抱え込んでいることがやがてわかるのですから。 真名子と奥窪が共に過ごす古い家の庭、そこはまるで忙しない外界から仕切られた退避場所のように感じられます。 2人の姿を見ていると、そんな逃げ場所のあることがどれ程大切なことか。また、ひとりぼっちではなく、時間を共有できる相手のいることも互いにとって幸運だったと思います。 人は急ぐばかりではなく、時にはその場所に留まって思い悩むことも、人が成長していく上で大切なことですよ、と語りかけてくれたような気がするストーリィ。 結果的にそれを経て真名子は、家族の大切さ、友達の有難さを発見することになったのですから。 1.チューガクセイ/2.今夜はピザだよ/3.負けちゃダメ/4.洗濯物がゆれる/5.敷かれたレール/6.わたしは帆船にいる/7.世界をぶち壊してしまいたい/8.キスをしてわかったこと/9.雨は景色を変える/10.やさしい弟/11.洗濯物くぐり/12.自分の口紅/13.オニゴッコ/14.人間は不完全だから/15.ぶちキレる/16.出ていきたい/17.完全無欠/18.ひさしぶりの制服/19.悪い見本/20.八月の最後の日/21.大人だったら |
「スリースターズ」 ★★☆ | |
2012年10月
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一応ヤングアダルト小説に分類される作品らしいのですが、YA小説の枠を遥かに超えた作品。 宮入弥生の家は金持ちだが、両親は事業を拡大することに熱中していて弥生のことにはまるで無関心。浜田愛弓の両親はバイト暮しのためひどく貧乏、そのうえ母親は愛弓の面倒をみる気など全くなく、自分の体で金を稼げと平然と言ってのける。委員長こと鈴木水晶(きらら)は体外受精により生まれた子で、大学教授の母親は自分の考える“いい子”像を娘に強制するばかり。3人とも友人はおらず、あるいは友人に裏切られ、孤独感を深めていたという次第。 まさに三者三様、こんなことがなければ知り合うことも無かったであろう対照的な3人なのですが、逆にこの3人が問題ある家族関係をひととおり代表していると言えます。つまり、無関心、放棄、過剰干渉と。 1.三咲季と弥生/2.鈴と愛弓/3.ユカと水晶(きらら)/4.あゆと841/5.marchiとMi+A/6.ウザサンズ/7.スリースターズ |
「恋する熱気球」 ★★ |
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恋を知る以前、その入り口にさしかかった年頃の中学生たちを主人公に、異性や恋、性への関心と戸惑いをコミカルに描いた短篇集。 ・「オルゴール・ガール」:主人公の平出得はちょっとしたことで女の子が好きになったかと思えばすぐ醒めてしまう繰り返し。そんな得の近くには、オルゴールを聞きたいと勝手にやってくる同級生の箱森萌花がいる。得にとって萌花とはどんな存在? ・「放課後ビブラート」:自分に才能はないとブチ切れてバイオリンを川に投げ込んだ星野美樹。川から現れた神は、バイオリンを少女戦士のコスプレ装身具に変えてしまい、それ以来美樹は毎日のように変身ポーズを強いられ・・・。 ・「二兆千九百億」:塾での同級生女子に告られて付き合いを承知した斉木大也でしたが・・・。題名は友人の小川作治と語り合った、生涯で精子は何匹作り出せるのか、という答えから。 ・「わたしを見ないで」:美容院でカットを失敗して以来、同級女子からすっかり仲間外れにされている主人公、世界をひっくり返せる訳がないと思うのですが・・・。 ・「恋する熱気球」:これって恋の炎? かっと気持ちが熱くなった柚乃子、気球のバーナーに火が入ったように身体が熱気球になったように浮かび始めてしまう・・・。 どれもコミカルなストーリィですが、そうだよなぁ、恋心を覚え始めた年頃の思いや行動って、後から思い出すと結構コミカルなものだったなぁと思います。 主人公の最後の一言から好きだなぁと感じるのは「オルゴール・ガール」、主人公の生真面目さが可笑しい「放課後ビブラート」は中でも楽しい。「恋する熱気球」には作者の発想に唖然。 あの頃への懐かしさと、愛おしさを感じる5篇からなる短篇集。 中学生の皆さんに是非お薦めしたい一冊です。 オルゴール・ガール/放課後ビブラート/二兆千九百億/わたしを見ないで/恋する熱気球 |
「キズナキス KIZUNA+KISS」 ★★ | |
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どうしたら心を繋ぎ合うことができるのでしょうか。 本作は、中学生女子たちの姿を描いた長編ストーリィ。 近未来でしょうか。舞台はICT(情報通信技術)絆プロジェクト特別推進校に指定された区立夕賀中学校。 主人公の蘇芳(すおう)日々希は、その2年生で吹奏楽部。同じ吹奏楽部の同学年4人と、仲の良い5人組。 しかし、相手の心を認識して言葉に翻訳するという機械=マインドスコープ(マイスコ)が生徒たちに配られてから、状況に変化が生じます。 5人の中でのリーダー格、つまりは自己チューで身勝手な森佳奈は、始終友人たちにマイスコを向けます。 自分の心を覗かれたくない日々希は、常に注意を怠らず、マイスコを向けられたら咄嗟にどうでもいいことを思い浮かべる、という対応を繰り返します。 一方、不登校生だった天狼朱華(てんろう・はねず)の、孤立を何ら気に留めない姿に日々希は関心を惹かれ、放課後の情報処理室で彼女と度々言葉を交わすようになります。 大人から見れば、佳奈の行動の理由が察せられます。我が儘だからこそ、他人にどう思われているのか気になるのでしょう。 マイスコ、予め他人がどう考えているのか分かるようになれば、人間関係は円滑に進むようになる筈と、そのための道具。 しかし、相手がどう思うのか判らないからこそ、お互いを気遣い合うことによって繋がりが生まれ、その結果として人間関係を築くことができるのではないか、と思います。 次第に5人の仲が、吹奏楽部が壊れていく。一方、何故か天狼朱華は日々希に固執するようになっていく、という展開。 人の心を機械に任せてしまえば、そこにあるのは数字と予想された結果だけなのではないでしょうか。 でも、人間の心には復元力があります、だからこそ人間には成長と発展があるのではないか。 本作は、作漠としつつある現代〜近未来社会の少年少女たちに向けた、警告のメッセージとなるストーリィと感じます。 1.ピチパチソーダ/2.ドウチョウリレキ/3.タンジュンギソウ/4.ヨマツリサバク/5.ユウジョウエラー/6.ジコチュウピッコロ/7.キイロイザクロ/8.フラワースプラッシュ/9.ユウジョウソクテイ/10.オレンジヘドロ/11.ダサイウワバキ/12.スカスカキヅカイ/13.トビウオハナビ/14.キラキラシブキ/15.イバショユラユラ/16.カーテンクレープ/17.ヒミツトモダチ/18.ムジャキナヒトミ/19.ウソツキユウギ/20.ツヨキショウモウ/21.フツウノハンタイ/22.ソラヲウシナウ/23.エイエンケツボウ/24.ヒビキツヅケ |