高台院(秀吉正妻)の元で養育された、その甥の嫡子である木下右近俊基という若者を主人公とした時代活劇。
高台院の死後、その右近が“豊国神宝”を奪わんと暗躍する幾つもの集団との暗闘に巻き込まれて・・・というストーリィ。
一応は期待をもって読み始めたのですが、遠慮なしに言わせてもらうと、面白くなかった。
第一の理由は、主人公に魅力が感じられないこと。
高台院の元で育てられた故に御曹司育ち・温室育ちのため、思慮がなく、一時の思いだけで突っ走るタイプ。しかも、失敗から学ぶこと少なく、若者としての成長も余り感じられない。救いといえば、それなりに剣の腕が立つ、というだけ。その剣の腕で何となく危地を乗り越えていく訳ですが、その危地も思慮のなさ故に自分から呼び寄せているという観あり。胆力もないのです。
また、ヒロインとなる右近が恋する女性=豪には、気品もなく、魅力感じられず。要は、肝心の2人とも小人物なのです。
当人たちだけでなく、悪役の天海大僧正初め、宮本武蔵、伊達政宗らもやけに小人物に描かれています。
興味を引くのは、武蔵の義父=新免無二斎が、武蔵に対抗する人物として登場することでしょうか。
なお、本作品で驚くのは、次から次へと人がよく殺されていくこと。腕の立つ人物が、味方と敵の区別なく、次々と打ち倒されていくのですから、最後は「そして誰もいなくなった」となるのではないかと、ちと心配になるほど。
一見、隆慶一郎「吉原御免状」に似たところが幾つかあることに気付きます。神君御免状に対して神君呪詛状とはなぁ。
ただし、隆作品では主要登場人物にスケールの大きさが感じられましたが、本作品ではどの人物も小人物に感じられてしまうというのが大きな違い。
おまけに、争い自体、何かどうでもいいことで争っている、という風に感じられてしまうのです。
途中で豊国神宝の正体に気付きましたが、だからどうした、っていう感じ。驚き、興奮がない。最初から最後まで、盛り上がらなかったなぁ。
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