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1.名もなき子 2.彼女たちのいる風景 |
「名もなき子 Capernaum Children」 ★★ | |
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高齢者介護、無戸籍児童の社会問題を扱った、社会派ミステリ。 何者かによる高齢者の自殺幇助か。 そうした「序」に始まり、高齢者介護施設で入居老人たちの不審死が連続して起きているという事実が語られます。 そして何者かによる犯行声明。何の生産性もない老人たちの延命に多額の医療費をつぎ込むのは無駄、正義のもとに行動すると。 主人公は、夫の事故死後、深夜の報道番組「アングル」の放送記者として働きながら4歳の息子を育てている榊美貴・37歳。 その美貴、終電間際の駅ホームに高熱を発して倒れていた青年=小林悟を助けて家に連れて帰りますが、その悟は病院行きを拒みます。その理由は無戸籍で健康保険に入れていないから。 高齢者介護、無戸籍児童、それぞれ現代日本が抱える重大な社会問題ではあるものの、関連性があるとは言えないもの。 しかし、本ストーリィはその2つの問題を同時に取り扱って展開していきます。 そのところはやや強引ですが、美貴の前に明らかになっていく事実は、小林悟とその姉妹の悲惨な生い立ちです。 親に振り回された挙げ句に辿った悟たちのこれまでは、余りに悲痛なもの。 連続不審死の真相を追及していく一方で、悟たちの経緯も明らかにされていくのですが、次々と明かされる事実は驚くべきことばかりで、衝撃的です。 親が子どもたちを救えないのであれば、それに代わる何者かが子どもたちを救う仕組みが今の社会には不可欠である、と強く感じさせられます。 一人でも多くの子どもたちが、社会によって救われることを願ってやみません。 ※なお、安楽死問題。登場人物の一人が語ることですが、生きる権利と同様に(厳格な条件の下で)死ぬ権利も尊重したもらいたい、という意見には私も同感します。 序章/1.元凶/2.怒号/3.動機/4.検挙/5.失踪/6.選択/7.審判/8.邂逅/9.喪失/10.正義/11.追憶/12.錦繍/終章.誕生 |
「彼女たちのいる風景 Landscape with Them」 ★★ | |
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大学時代からの親友3人は、今も毎月ランチ女子会をする仲。 そんな彼女たちの、卒業から15年後、三者三様の38歳になった今を描く長編。 ・凛、生まれたばかりの息子、頼りないが優しく育児サポートもしてくれる夫に囲まれて順調だったが、MRとして職場復帰を打診したところ“マミートラック”に遭い、ショック。 ・響子、広告代理店に就職したものの既婚の上司に体よく騙され妊娠、転職してシングルマザー。生活は切り詰めてもギリギリ、そのうえ小一になった息子に発達障害の疑いが・・・。 ・美華、現在週刊誌の編集部。カメラマンの夫との間に子どもが欲しいと妊活中だが、何故か夫は消極的・・・。 それぞれ、思いどおりにならない現実に不満を抱いていますが、その一方で他の2人に対して羨ましいという思いを抱いているというのが、この三者関係の妙。 結局、三人が三人とも、叶えられなかったものばかりを求めていて、各自が手に入れたものの価値を見失っている風。 幸せとは何でしょうか。 確かに女性の場合、仕事、妻、母と役割は多いのかもしれませんが、すべて完璧な幸せなど、そう簡単に手に入るものではないと思います。 結局は考え方の問題ではないか、と考える次第です。 それぞれのドラマの中で、幸せとは何か、に気づいていくストーリィと言って良いでしょう。 ただし、それに気づくきっかけとなるのは、深刻な事実ですが。 本ストーリィ、かなりドラマチックですが、そこにある真実は万人共通のものと思います。 幸せとは、まず満足してみることではないでしょうか。 序章/1.マミートラック/2.レッテル/3.キャンセルカルチャー/4.ソウルメイト/5.モンスター/6.サクリファイス/7.スティグマ/8.エンジェルロード/9.ブルームーン/10.バースデイ/終章 |