●「石鹸オペラ」● ★☆ 小説新潮長篇新人賞 |
|
2006/09/09 |
歌舞伎町のソープ嬢、リカ(利夏)を主人公とする長篇小説。 店でナンバーツーの美人であり性格もそう悪くないと思えるこの主人公が、何故ソープランドで働くのか。しかも、歌舞伎町近くのトイレも共同という安アパートで暮らして。 お金を貯めたいというのでもない、ホストに入れ揚げている訳でもない、まして借金を返すため、というのでもない。 本人は「セックスが好きだからやってんのよ」と答えるが、文字通りには受け止められない、荒涼としたものが利夏の内側から感じられます。 恋人でもなく単なるセックスフレンドとも言い切れない、混血の青年リチャード(慎二)との関係からも、それは感じられます。ただ風に吹かれるまま生きている、今の利夏の生活にはそんな雰囲気を感じます。 それが一転して変わるのは、自分がHIV感染していることが判ってから。つい先日、初めての経験をするためソープに来たという少年の客に移しているかもしれない。慎二の協力を得て必死で利夏はその少年を捜し求め始めます。 誰とも深く繋がろうとしなかった利夏そして慎二が、真剣に他人を追い求め、お互いを気遣うようになったきっかけがHIV感染だったとは何と皮肉なことか。 |
●「テッキーヤ!」● ★☆ |
|
2006/09/10 |
縁日やお祭で屋台を出す“テキヤ”の世界を舞台にした長篇小説です。 高校3年の光(ピカル)は友人の和弥から誘われ、その叔父“柿澤組”でテキヤのバイトを始めます。 学校に行かず柿澤組に住み込んでバイトを、今の女子高生がやっているということが愉快。 テキヤの仕事もそれなりに力仕事がありますし、暑い最中に鉄板でお好み焼きを一日中焼いているのも決して楽じゃない。それでもきちんと自分の担当の商売を勤めやり応えを感じている光の姿を見ていると、学校へ行くだけが大事ではないようなぁという気分になります。 その光が、柿澤組と敵対するテキヤ“遠藤組”若い衆の一人に恋してしまいます。さしづめテキヤ版ロミオとジュリエット。 本作品はてっきりこの反目し合うテキヤ同士の中での恋愛騒動というストーリィと思っていたのですが、どうも違ったようです。 柿澤組の面々は、組長であるおやっさんに、鷹兄ちゃん、ノブ兄ちゃん、パン姉ちゃん。それにおやっさんの母親で元お嬢様のハル婆、家で留守を守っている現在妊娠中の百合姐さん。そこに加わったのが、仕事場でピカルにまとわりついてきたヤセ犬のイチロー。 本作品は、青春+ラブストーリィという要素もありますが、根底においては「石鹸オペラ」と同じく人と人が繋がり合う大切さを描いた作品と思います。 |