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「ふたり、この夜と息をして」 ★★☆ ポプラ社小説新人賞特別賞 |
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2022年12月
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隠し事があったって友達として繋がることはできるのだ、というメッセージを伝える、優しさに満ちた高校青春ストーリィ。 主人公の夕作(ゆさ)は、生まれつき左頬と額に赤い痣があり、それをネタにイジメを受け、さらに親からも見放され、今は母方の祖母の家で暮らしている高校2年生。 赤痣は、祖母から教わった化粧で隠している。 新聞朝刊配達のバイトをしているのは、遠くへ行くための資金を貯める為。早起きの影響で学校では午前中居眠り、同級生の誰とも話すことはない。 そんな夕作が、バイト帰りの未だ夜が明けきらぬ時間に公園で見かけたのは、一人煙草を吸っている同級生=槙野志帆の姿。 化粧を隠している夕作、喫煙を隠している槙野。隠し事を共有したところから、夕作の周りに波が生まれてきます。 教室で槙野が夕作に話しかけることが増え、その結果、野球部の遠藤が、また槙野と仲の良い2人=野中と竹田までもが、夕作に声を掛けて来ることも出てきます。 少しずつ、彼らに対して夕作の心が開かれていきますが、それでも隠し事を打ち明けることはできない・・・。 夕作が遠藤から感じるのは、その優しさです。 人が内緒にしておきたいという事柄に、友人だからと言って土足で踏み込むようなことを遠藤はしません。それを許してくれる優しさが遠藤にはある。そしてそれは遠藤だけでなく・・・。 後半、槙野が夕作たちに大きな隠し事をしていることが分かってきます。それは何か、友人だからと言ってそれを暴こうとするのはいけないことなのか、自分に一体何ができるのか・・・。 共感して友人に寄り添うというストーリィはこれまでもあったように思いますが、無理に知ろうとせずに寄り添うという優しさを示したストーリィは、覚えがありません。 少しずつ、足元を確かめるかのように足を進めていく再生ストーリィ。知らぬ間にじわじわと優しさ、温かさが胸の内に広がってくる快さがあります。 お薦め。 |