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1.顔に降りかかる雨 3.OUT 4.柔らかな頬 5.ローズガーデン 6.玉蘭 7.ダーク 8.グロテスク 9.残虐記 10.魂萌え! |
東京島、女神記、IN、発火点、ナニカアル、優しいおとな、ポリティコン、緑の毒、だから荒野、夜また夜の深い夜 |
奴隷小説、抱く女、路上のX |
●「顔に降りかかる雨」● ★★ 江戸川乱歩賞 |
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1996年07月 2017年06月
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これまで読んだ桐野作品は「OUT」「グロテスク」と重厚な作品でしたので、それに比べると初期の本作品はかなり軽やかな印象を受けます。 本作品は、村野ミロという女性探偵を主人公としたハードボイルド、と認識していたのですが、実際に読んでみれば違うじゃないかというひと言。やはり、小説は読んでみないと判らないものです。 ストーリィは、友人のフリーライター・耀子が恋人である成瀬から預かった1億円を持って失踪。その金の出所が暴力団関係であったために、疑いをかけられたミロも事件に巻き込まれ、成瀬とともに耀子の行方を追う羽目になります。 ミロは会社勤めを経て結婚という平凡な道を歩んだものの、夫・博夫が自殺し、現在は無職、新宿で一人暮らし。しかし、父親である村野善三はかつて名の知られた調査探偵であり、探偵仕事とミロは無縁でもないという設定です。 とは言ってもそこは素人。行方を追うといっても手探りですし、暴力団の脅しに脅えもし、弱気にもなります。また、夫の自殺という傷心を未だに抱えたままという主人公像。 サスペンス・ストーリィ自体はそれ程のものと思いませんが、ミロにしろ耀子にしろ、一人都会で生きる女性の哀切感があって、そこに惹かれます。また、村野ミロという探偵役の造形、小気味良い展開、逆転劇の鮮やかさに、本書の魅力があります。 |
●「天使に見捨てられた夜」● ★☆ |
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1997年06月 2017年07月
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「顔に降りかかる雨」にて登場した村野ミロもの第2作。 前作では、やむを得ぬいきがかりから探偵仕事をする羽目になったミロですが、本作では本業の探偵として登場します。しかし、どこか探偵に徹しきれないでいる中途半端さも感じられます。そこが、村野ミロのミロたるところなのでしょう。 フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江が、失踪したAV女優・一色リナの捜索をミロに依頼してきます。リナの主演したレイプビデオは人権侵害にあたると告発するため。 ※同じ女探偵として、若竹七海「悪いうさぎ」等に登場するフリーター探偵・葉村晶を思い出しますが、境遇が似ているようで印象はミロと対照的。読み比べるのも一興かもしれません。 |
●「OUT」● ★★ 日本推理作家協会賞 |
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2002年06月
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弁当工場の夜勤パート仲間である主婦4人。その一人である雅子43歳は、パート仲間が殺したその夫の死体を他の二人に手伝わせてバラバラにして捨てる。 4人の主婦それぞれの置かれた境遇と生活は本当に荒涼としたもので、読み始めるとともに気が滅入ってしまい、そんな自分の気持ちをどうすることもできませんでした。
一度手を染めた犯罪から、4人は抜け出ることのできない暗澹たる繰り返しの罠に嵌まり込んでいきます。まるで自分たちの破滅を急ぎ、かつ極め尽くすかのように。 はぐらかされて終わってしまったという思いもあるのですが、雅子という主人公に感情移入もできなかったし、釈然としないまま結末に至ったというのが私の読後感です。 |
●「柔らかな頬」● ★★ 直木賞 |
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2004年12月
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主人公のカスミは北海道の僻地である故郷、両親を捨てて東京へ出た。そして結婚、2人の娘をもうけたが仕事先の石山と不倫。 桐野さんの代表作のひとつですから、読んでおきたいと思っていた一冊。図書館に文庫本が寄贈されたのを機に借出して読みました。
本ストーリィでは、解決も救いも決して与えられません。最後の最後まで突き放していく、その徹底さが凄い。 |
●「ローズガーデン」● ★ |
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2003年06月 2017年08月 2004/06/10 |
村野ミロもの初の短篇集、と簡単に言えばそれで終わってしまうことですが、表題作の「ローズガーデン」と他の3篇とでは趣をはっきり異にしています。 他の3篇は「天使に見捨てられた夜」後の探偵ミロとしてのストーリィ。 ローズガーデン/漂う魂/独りにしないで/愛のトンネル |
●「玉 蘭」● ★ |
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2004年02月 2006年06月 2001/06/21 |
恋人と別れ、上海に留学して孤独を囲う有子の前に、若き日の大伯父・質(ただし)が幽霊となって現れます。そこから、東京での有子と松村行生との恋愛経緯、並行して戦争直前の上海における質と宮崎浪子の恋愛ドラマが、交互に書き綴られていきます。
本書は、評判が高かったものの、なんとなく私には合わないような雰囲気を感じていましたが、読んだ感想は印象の通り。 世界の果て/東京戦争/青い壁/鮮紅/シャングハイ、ヴェレ、トラブル/幽霊/遺書 |
●「ダーク」● ★☆ |
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2006年04月
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ここには「顔に降りかかる雨」と「天使に見捨てられた夜」とは全く違った村野ミロがいる。 怒りに端を発して義父の善三を死に至らしめ、壊れ、関わる人々を道連れにして壊れ続けるミロ。ちょっと歯車が狂っただけで、こうも人間は壊れてしまうものか。その驚きがあります。 これまでの追いかける側から、追われる側へ。前2作の村野ミロとは、“ジキルとハイド”のような違いを感じます。 500頁余りという大長編ですが、小樽から博多を経て韓国へ、最後は再び日本へと、目まぐるしく展開する故にこの厚さは少しも苦になりません。私の好まないストーリィだというのに、頁を繰る手を少しも止めることができない。 頁を進むたび、常に予想もしない展開が待ち受けています。 これは村野ミロの魅力なのか、それともストーリィの上手さなのか。 |
●「グロテスク」● ★★ 泉鏡花文学賞 |
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2006年09月
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一流企業に勤めるOLが街に立って売春、という衝撃的な事実が明らかになった“東電OL殺人事件”。本書は、その事件にヒントを得たと思われる重厚な意欲作です。 本書の主要な登場人物は3人の女性。ハーフの姉妹、そして姉と高校時代に同級生だった佐藤和恵。 子供想像図/裸子植物群/生まれついての娼婦<ユリコの手記>/愛なき世界/私のやった悪いこと<張の上申書>/発酵と腐敗/肉体地蔵<和恵の日記>/彼方の滝音 |
●「残虐記」● ★★☆ 柴田錬三郎賞 |
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2007年08月
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作家・小海鳴海が自宅から突然失踪。残された原稿には、彼女自身が25年前小学生だった時の、誘拐され1年間監禁されたという事件の真相が記されていた、というストーリィ。
前回の「グロテスク」も東電OL事件を題材にして衝撃的な作品でしたけれど、その点は本作品も同様。それ以上に、「残虐記」という恐ろしげな題名、町工場の汚いアパートの一室に1年間も監禁されたというおぞましいイメージから、手に取るのを躊躇わせる印象が本書にはあります。 誘拐される前ごく普通の小学生だった女の子は、1年間にわたる監禁生活を通じて、人間の醜い性的欲望を知ってしまった少女に変わっていた、という。 |
●「魂萌え!(たまもえ)」● ★★☆ 婦人公論文芸賞 |
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2006年12月
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夫が心臓麻痺で急死してしまい、一人残されて呆然とする60歳の専業主婦、敏子を描く力作長篇。 今まで夫がいる前提での暮らし知らなかっただけに、敏子はこれからどう生きていけば良いのか判らない。その困惑に突き込むようにして米国に行ったきり音沙汰のなかった長男が突然家族とともに帰国して同居を強要してくる。 夫の亡き後所詮長男に頼る他ないのか。そのうえ、夫は蕎麦打ち教室だと言いつくろって愛人の元へ足繁く通っていた事実が判明し、敏子に追い討ちをかける。 高校時代の同級生3人が支えになってくれるかと思ってみたものの、夫が生存していたり各々の生活があったりして、敏子の揺れ動く胸の内は思うように伝わらない、というストーリィ。 まさにこれから誰にでも訪れる出来事! 主人公がサラリーマン家庭の平凡な専業主婦であるだけに、なおのこと身近に感じられる物語、つい真剣になって読まずにはいられない物語です。 なお、自分自身のことを考えると、本書に登場する一人身の老人たちより前に、まず敏子の長男と同じ立場が来るわけです。長男の自分勝手な考え方には敏子以上に腹立ちますが、判らないでもないんですよねぇ、これが。 誰にでもやがて訪れる物語、心しておかなくてはならない問題を描いた作品として、40代以上の方には是非お薦めしたい力作長篇です(お薦めするのが遅すぎたかも ^^;)。 |
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