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1.給食のおにいさん 2.キッチン・ブルー 3.千のグラスを満たすには 4.みんなで一人旅 5.二人がいた食卓 6.左右田に悪役は似合わない |
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「給食のおにいさん」 ★☆ | |
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主人公の佐々目宗は、何度もコンクール等で賞を獲得している腕利きの調理師。しかし、とかく人とぶつかってしまう性格のためどこの職場も長続きせず、何とか自分の店を開店したと思ったらすぐに火事を出してしまい閉店。 |
「キッチン・ブルー」 ★☆ | |
2018年07月
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“食”あるいは料理をモチーフにした短篇集はこれまでも数多くありましたが、本書は味覚障害等々、特に“食”にまつわ悩みを主体に様々なドラマを描いた短篇集。 食事となればあって当たり前、でもそこに悩みが生まれれば冗談事ではなくなります。たかが食事、されど食事、だからこそ悩みは深くなるというものです。 それ故に、切実で、他人事とは思えないドラマがいろいろ楽しめるという訳です。 本書中、特に面白かったのは「食えない女」と「さじかげん」の2篇。 「食えない女」の主人公は、人と一緒に食事をすることができないという“会食不全症候群”に苦しむ古谷灯、独身36歳。やっと楽に付き合える男性と知り合ったものの・・・。 結末にはちょっと驚かされましたが、覚悟を決めたらしい灯にはエールを送りたい気持ちです。 「さじかげん」の主人公=青山沙代、人気ブランドショップの店長ですが、料理は苦手。料理上手の母親に育てられた夫=周平に悪気はないようなのですが、毎度料理にダメ出しされ・・・。 私自身の経験からしても、これはある意味、不可避のドラマではないでしょうか。今にして両者の気持ちが判るというものですが、最後のオチ、それこそ賢明な解決策ではないかと思う次第。 最後の「ままごと」、ブラックユーモア的な悲喜劇のように感じます。 主人公の水戸健一は、売れ始めた俳優ながら極貧生活。金持ちの令嬢が自分の作った料理を食べてくれる相手が欲しいという訳で、その相手を務めますが・・・・。 まぁ最後に主人公が立ち直れたなら、それで良しとしますか。 食えない女/さじかげん/味気ない人生/七味さん/キャバクラの台所/ままごと |
「千のグラスを満たすには How to Fill a Thousand glasses」 ★★ | |
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「千のグラス」とは、シャンペンタワー作るのに必要な数多くのグラスのことを指すようです。 そして、豪華な“シャンペンタワー”と言えば、キャバ嬢たちがナンバーワンの象徴として目指すもの。 という訳で、本作の舞台はキャバクラ。 といってもキャバ嬢たちの人生や一時のキャバ嬢生活を描くドラマではなく、キャバクラを舞台にしたお仕事小説なのです。 キャバクラといっても、そこで働いているのはキャバ嬢だけでなく、いろいろな人が関わっています。 老舗の高級キャバクラ“ジュビリー”で8年間に亘りナンバーワンの座を手中にしてきたキャバ嬢=リコをプロローグで華やかに登場させた後は、「ツアコン」と呼ばれるランク低位のキャバ嬢、キャバ嬢の送迎を行うトライバー、キャバ嬢向け美容室で働くヘアメイク、フロアでキャバ嬢の付け回しを行う指名係を描く。そして最後を締めるのは、キャバ嬢のナンバーワン争い。 いやー、華やかな表側に対して裏側の何とシビアなことか。 でもそれは当たり前でしょう。キャバ嬢といえば個人営業みたいなものでしょうから。そしてその商売を支える裏方の人たちも無関係ではいられない。 一般社会とはかけ離れた観のあるキャバクラ世界。各章ストーリィはそれぞれの主人公にとって死活問題がかかっているだけに、リアルで読み応え十分、あー面白かった、です。 (私自身は一度も行ったことがないのでまるで別世界です) 最後はリコの颯爽とした姿が格好良かったです。歯切れも良し。 ※キャバ嬢の仕事を選んだ若い主人公の奮闘を描いた作品に、桂望実「Lady, GO」があり。 プロローグ/ツアコン/ドライバー/ヘアセット/指名係/ナンバーワン |
「みんなで一人旅」 ★☆ | |
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旅行、誰かと行くより一人で行く方が余っ程楽しいと思いますが、楽しい一方で、何かトラブルにぶつかれば一人で対応するしかありません。それも良き思い出になったりしますが。 様々な旅、7篇。 ・「男二人は聖地を目指す」:高校同級生との恒例旅かと思いきや、実は篤い友情がそこには・・・。 ・「みんなで一人旅」:イタリア5日間、お一人様限定ツアーに参加。ところが最初から揉め事が発生。人が集まればやはりトラブルが・・・。 ・「癒しのホテル」:韓国への出張旅。いつものように行きずりで出会う美女との関係を目論んでいた主人公、その前に整形手術したばかりか額と鼻を包帯で覆った女が・・・。 ・「空飛ぶ修業」:航空会社の特別会員資格を得る為、恋人と2人で苦行と言うべき飛行機旅。しかし、その途中・・・。 ・「氷上のカウントダウン」:一人旅でウラジオストクへやってきた50路の露子。困っている様子の若い娘に声を掛けるのですがこれたとんでもないタマ。さて、どう切り抜けるやら。 ・「誰も行きたがらない旅」:節税のため初めて社員旅行を計画し実行。ただ、社長自身は元々、人との交流が苦手。 ・「幸せへのフライトマップ」:高齢の母親を連れて、新宿国際空港からヴァーチャル・ハワイ旅行へ。 「みんなで一人旅」はリアル感あるなァ。「癒しのホテル」と「氷上のカウントダウン」は痛快。 「幸せのフライトマップ」は将来像かと思いつつ、結構楽しめます。 男二人は聖地を目指す/みんなで一人旅/癒やしのホテル/空飛ぶ修業/氷上のカウントダウン/誰も行きたがらない旅/幸せへのフライトマップ |
「二人がいた食卓」 ★★ | |
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社内恋愛の末に結婚した泉(イズ)と旺介。 幸せな結婚生活が続く筈だったのに・・・溝がはっきりしたのは食事の好みの違い、とは。 夫の旺介は脂っこく味の濃いもの、そしてフードチェーンの味も好き、野菜は余り食べず。 主人公である泉は、コレストール高めの旺介の健康を思い、美味しそうな料理を作るために頑張りますが、野菜を多目にして味は薄めに。 次第に旺介は、朝食を食べずに出かけ、帰りも外食してくるようになる・・・・。 コレ、分かるんですよねぇ。泉の一生懸命さも分かるのですが、一方の旺介の気持ちも、分かり過ぎるくらいに分かる。何故って私も新婚当時そうでしたから。 実家では肉料理が多かったのですが、それが減り野菜が増え、しかも味が薄くなり、と。 そのため、時々無性に肉が食べたくなり、機会を捉えてファミレス等で肉料理を食べたりしていましたから。 しかし、元々そう脂ぎったものが大好きという程でもなかったので、次第に慣れ、我慢することも覚え、慣らされていった、というところでしょうか。 相手の為と思うことが、実は押しつけになり、所詮は頑張っているという自己肯定、自己満足であることに気付かないまま、亀裂が深まっていく。 結婚して僅かな期間で離婚に至るというのは、まさにこうしたパターンなのかなと思わせられるストーリィ。 結局はどちらが悪い、ということではないのでしょう。 始まりからずっと、ハラハラし通しの展開でしたが、最後にはホッとし、気持ちが安らかになった気がします。 さて、二人が最後に選んだ道とは・・・どうぞお楽しみに。 |
「左右田に悪役は似合わない」 ★★ | |
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俳優たちが集まっている場で起きた、日常ミステリ。 その謎を、そのキャラクターの如く目立たないままに解き明かしてみせるのは、端役専門の無名俳優、左右田始(はじめ)。 俳優たち、無名俳優という要素が珍しいものの、要は日常ミステリの類と思っていたのですが、それは私の思い違いでした。 最初こそ、そうした感じだったのですが、それが何度も繰り返されていくと、無名俳優ならではの真価、というものが明らかになっていきます。 単に謎を明らかにするだけではありません。 その後に残るものは何なのか? そう、左右田に皆、励まされたり、勇気づけられたりして、更なる高みへ向かって新たな一歩を踏み出して行くのです。 そんな左右田の真価を誰かが気づいてくれるのか。 安心してください、最後にそうした人物が登場するのです。 探偵役が物珍しい日常ミステリ。そして、その+αが本連作短篇集の魅力です。この味わい深さが堪えられません。 ・「2019年10月 消えもの」:TVドラマ撮影中、重要な登場物であったエクレアが消えた。 誰が、いったい何故? ・「2019年12月 ライト」:人気俳優が主演したドラマの打ち上げパーティ。しかし、シャンデリアの灯が消える。何故? ・「2020年 5月 ステージママ」:子役オーディション。しかし、子に連れ添う母親の行為は、むしろ足を引っ張る? ・「2021年 8月 きっかけ」:舞台稽古中の衣装パレード。その開始が遅れる原因を制作者の目黒は、何とか共演者たちに誤魔化そうとして・・・。 ・「2022年10月 雲がくれ」:映画の完成披露試写会。しかし、主役の主演女優が姿を消してしまう。どうしたらいい? 共演者を始めスタップら皆が大慌て。 すべての場に、無名俳優である左右田が居合わせて・・・。 2019年10月 消えもの/2019年12月 ライト/2020年5月 ステージママ/2021年8月 きっかけ/2022年10月 雲がくれ/エピローグ |