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1.はぐれ鴉 2.火山に馳す 3.佐渡絢爛 |
1. | |
「はぐれ鴉」 ★★ 大藪春彦賞 |
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序章は14年前、次郎丸の目の前で、竹田藩城代であった父=山田嗣之助ら一族郎党が、親しんでいた叔父=玉田功左衛門によって惨殺されるという悲劇が起こります。一体何故? たった一人江戸に逃れた次郎丸は、山川才次郎と名前を変えて堀内剣術道場で育ち、ひとかどの剣術家に成長します。 竹田藩からの招聘で剣術指南役として竹田藩に仕えることになった才次郎は、復讐を誓い、故郷である豊後・竹田藩に再び足を踏み入れるのですが・・・・。 陰惨な事件から始まる復讐譚ですから、表紙絵の印象もあり、てっきり陰鬱な雰囲気の作品と思って読み始めたのですが、これが大違い。 才次郎の復讐心をそらすような出来事ばかりが続くのです。 案内役となった小津主水が、やたらおしゃべりでユーモラスな人柄。おまけに仇である城代の功左衛門といえば城でふんぞり返っているところか粗末な家に住み暮らし、年中領民たちの間を歩き回って普請工事等に明け暮れているという、訳の分からぬ城代ぶりで“はぐれ鴉”と呼ばれている次第。 さらに、功左衛門の一人娘で“三代目竹田小町”という異名をとる英里に一目惚れしてしまう、という展開なのですから、何をかいわんやというより、面白くて頁を繰る手が止まらず、とにかく楽しい。 才次郎と組んで先に竹田藩へ商人として乗り込んでいた公儀隠密の篤丸は、一見のんびりとしたこの竹田藩は、大きな秘密を隠していると才次郎に告げるのですが・・・。 竹田藩が抱える秘密が何なのかは、勘の良い読者ならそれなりに推測がつくと思うのですが、それより最後まで関心を惹かれるのは、冒頭事件の理由、真相でしょう。 復讐譚の筈なのに、最後は明るい気分になって読了。 登場人物一人一人にどこか愛嬌があって、すこぶる面白く、楽しい作品。お薦めです。 序章.二十四人斬り/1.一ツ眼鳥、呪いの唄とのっぺらぼう/2.竹田小町/3.湯乃原にて/4.荒平の池/5.大崩れ/6.鐘/終章.旅立ちの海 |
2. | |
「火山に馳す-浅間大変秘抄-」 ★★☆ |
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江戸時代中期の天明3年(1783年)、浅間山大噴火。 それにより多くの村、農民が多大な被害を受けたが、中でも酷かったのが上州、鎌原村。 村人の8割が死に、生き残ったのは僅か93人のみ。 再建のための支出や再度の災害を考えれば廃村にするのが妥当な選択だが、幕府から派遣された勘定吟味役、検分使の根岸九郎左衛門は、生き残った村人たちの心を奮い立たせ、鎌原村の再建をめざして奮闘の限りを尽くす、というストーリィ。 もちろん根岸一人が頑張っても再建ができよう筈がありません。 大切な家族を失った一人一人がやる気にならないとどうしようもないのですが、根岸は何も自分の考えに固執している訳ではありません。 生き残った村人たちが、再び明日に向かって進めるようにと、あくまで村人たちのためという思いが貫かれています。 大切な女房であり母親であったかなを喪った音五郎、とかなの連れ子だった仙太、水呑み百姓の末っ娘で家族を全員失ったすゑ、愛する夫と愛娘を喪い呆然自失したままの玉菜等々、一人一人のドラマも読み応えがあります。 しかし、それ以上に面白いのが、そして見惚れてしまうのが、農民たちの中に入り込んで陣頭指揮を執る、根岸九郎左衛門という人物。 なにしろ生き残った村人たちをそれぞれにくっつけて、新たな家族を作らせようとまでするのですから。 田沼意次のお気に入りで、廃村を主張する代官=原田清衛門の度々の反対にもめげず、窮地に陥れば田沼意次への直談判も辞さずという、その気力、行動力、粉骨砕身ぶりは、唖然とするくらい見事、としか言いようがありません。 能登半島地震の後、思い直して読んだ本作ですが、災害は常にある、でもそこから再び立ち上がっていけるかどうかは当事者たち次第、という思いを強く感じさせられます。 ※なお、根岸九郎左衛門鎮衛は実在の人物で、小禄の御家人から頭角を現し、本復興事業の功績から佐渡奉行、さらに南町奉行となり、18年の長きにわたってその職にあったそうです。 また、聞き集めた奇談をとりまとめた「耳嚢」という随筆集を刊行したことでも有名なのだとか。 序.木曽の暴れ川/1.なんかもん/2.咒原(のろいばら)/3.デーラン坊の涙/4.家族ごっこ/5.江戸のダイダラボッチ/6.形見/7.祈り/8.花畑 |
3. | |
「佐渡絢爛」 ★★ |
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江戸時代の佐渡といえば、ずばり金銀山ですが、綱吉時代には金銀の産出量が減り、佐渡の先行きが不安視されたらしい。 そうした佐渡で次々と怪事件が起こり、その事件現場には大癋見(おおべしみ)の能面が残されていた。 その意味はいったい何なのか? 折しも佐渡奉行が、勘定方の切れ者として知られる荻原彦次郎重豪に交替。その荻原から事件探索のため先に佐渡へ送り込まれたのが、佐渡奉行所の広間役となった間瀬吉大夫。 しかし、主人公である見習い振矩師(測量技師)の静野与右衛門の見る処、吉大夫はとんだグウタラ侍。 その与右衛門は、否応なく吉大夫と共に、事件の謎を追うことになるのですが、果たして・・・。 時代物ミステリと言うべき作品ですが、ミステリというよりむしろ、当時の佐渡金銀山の様子を描くところに主眼があるのではと感じた次第です。 しかし終盤、事件の真相を追っていた吉大夫の状況が一変。 いったい何故? 荻原奉行自身がそれを認めたのか、と驚きを禁じ得ません。 そこからの大逆転劇は、もう息もつかせぬという感じの急展開。 すべての真相が明らかになった時は、あぁそうだったのかと得心するばかりですが、ミステリ劇でこうした結末は珍しいのではないか。 でもそれが、すっきりした、心が晴れるような読後感をもたらしてくれるのですから、何も言うことはありません。 ただ、作者の赤神さん、かなりの曲者と感嘆せざるを得ません。 最後の場面は、かなり爽快です。 ミステリより、作者の仕掛けがすこぶる面白い。好みの問題はありますけど、稀に見る時代ミステリ、お薦めです。 序.三十六人の地下舞/1.グウタラ侍/2.果つることなき/3.その男、佐渡奉行/4.南沢惣水貫/5.大癋見(おおべしみ)見参/6.裏金山/7.金の花、栄きたる所/結び.近江守様時代 |