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1.午前零時のサンドリヨン 2.ロートケブシェン、こっちにおいで 3.マツリカ・マジョルカ 4.雨の降る日は学校に行かない 5.小説の神様 6.マツリカ・マトリョシカ 7.小説の神様−あなたを読む物語− 8.medium メディウム−城塚翡翠No.1− 9.小説の神様−わたしたちの物語− アンソロジー 10.教室に並んだ背表紙 |
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●「午前零時のサンドリヨン Cendrillon of Midnight」● ★ 鮎川哲也賞 | |
2012年10月
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主人公であるポチこと須川が一目惚れした同級生=酉乃初は、学校ではいつも無口で憂鬱そうな表情を浮かべているのに、放課後はレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを披露している凄腕マジシャン。 普通こうした設定とすれば、謎めいた美少女=酉乃が、見事な推理力を披露して学校で起きた謎をバサバサと解明していく、という展開を予想するのですが、何故かそれは冒頭2篇まで。 「空回りトライアンフ」は、図書室の書棚に起きた謎を解く篇。 ※「サンドリヨン」とは、シンデレラ物語原話の題名のひとつ。魔法は午前零時を迎えて消えるのか、それとも続くのか。 空回りトライアンフ/胸中カード・スタップ/あてにならないプレディクタ/あなたのためのワイルド・カード |
●「ロートケプシェン、こっちにおいで Komm here Rotkapchen」● ★☆ | |
2015年01月
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高校生マジシャン=酉乃初と、彼女を恋する同級生の須川=主人公の2人をホームズとワトソン役に配した高校青春ミステリ。 前作「午前零時のサンドリヨン」ではもうひとつ本作になじめなかったのですが、2冊目となると酉乃初、須川のキャラクターもすっかり承知済とあって余裕をもって読むことが出来ます。 本書を一貫するストーリィは、今ではお馴染みのイジメ、ハブ、不登校を題材にしたもの。 プロローグ/アウトオブサイトじゃ伝わらない/ひとりよがりのデリュージョン/恋のおまじないのチンク・ア・チンク/スペルバウンドに気をつけて/ひびくリンキング・リング/帰り道のエピローグ |
3. | |
●「マツリカ・マジョルカ Matsulica Majorca」● ★ | |
2016年02月
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廃墟の如き雑居ビルに住む(?)謎の美少女=マツリカと、彼女にこき使われるパシリ男子高校生=柴山祐希が学校に伝わる怪奇伝説の謎に挑む、連作青春ミステリ。 高校を舞台にした青春ミステリという点では“須川&酉乃初”シリーズと共通しますが、主人公のキャラクターを、同じ美少女ながら女子を極端なまでに権高、男子を元ヒキコモリのこれまた極端なパシリ体質に設定したところがミソ。 新たな青春ミステリへの意欲的な挑戦と受け留めることもできますが、結局マツリカの正体ははっきりしないままですし、いくら安楽椅子探偵タイプといっても真相は推理のとおりなのかどうかはっきりしないまま。 マツリカから“柴犬”呼ばわりされる柴山祐希が、4篇の事件を通じて高校生活に多少希望を見い出す、という展開は評価したいですが、ミステリである以上やはり謎解き・その真否が鍵ですから。 原始人ランナウェイ/幽鬼的テレスコープ/いたずらディスガイズ/さよならメランコリア |
「雨の降る日は学校に行かない」 ★★☆ |
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2017年03月
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ミステリ作家というイメージが強かったので、相沢沙呼さんにこうした短篇集があるとは思いもしませんでした。 文庫化の際に題名に惹かれて読んでみようと思ったことは、幸運でした。 6篇の主人公はいずれも、クラスで疎外されたりイジメに遭ったりしている女子中学生たち。 地味で不器用で、クラスでそんな扱いをされても、自分にどんな悪いところがあったのだろうと考えてしまうような女の子たち。 本短篇集はそんな彼女たちを、そうじゃない、あなたたちは決して悪くないのだと励ますストーリィになっています。 本書の素晴らしさは、イジメ側をそっちが悪いと非難するような立場をとっていない処にあります。 そして、これから生きていく中で、そうしたことはこれから何度でもあるかもしれない、でもだからといって非難を躱すために自分を変えようとする必要はないんだ、そんなことに左右されず自分らしくしていればいいんだ、と語りかけている処。 最後の「雨の降る日は学校に行かない」では後半、あっと驚かされましたが、それは嬉しい驚きでした。 本作、とても愛おしく、私は大好きです。 ・「ねぇ、卵の殻が付いている」:ナツはサエとずっと保健室登校の仲間だった。そのサエが、ある日から教室へ戻る・・・ ・「好きな人のいない教室」:偶々隣席になっただけの冴えない男子と何故カップル扱いされなければならないの・・・ ・「死にたいノート」:死にたいと何度も書き連ねたノートを拾った同級生は真剣にノートの落とし主を探そうとする・・・ ・「プリーツ・カースト」:小学校の時友達だったあの子をつい笑い者にしてしまったら・・・ ・「放課後のピント合わせ」:クラスで霞んでいるしおりはネットにエロい写真をアップして自分の存在感を確保している。 ・「雨の降る日は学校に行かない」:牛乳の匂いがしみ込んだ雑巾を年中押し付けられて小町、こんなにまで汚物扱いされ、担任教師からもおまえが悪い扱いされてまで、何故学校に通わなくてはいけないのだろうか・・・ ねぇ、卵の殻が付いている/好きな人のいない教室/死にたいノート/プリーツ・カースト/放課後のピント合わせ/雨の降る日は学校に行かない |
5. | |
「小説の神様」 ★★☆ |
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主人公は中二で新人賞を受賞して作家デビューした、現在は高校生作家の千谷一也(筆名:千谷一夜)。 しかし、その後の作品は書くたびに売れ行きが低下し、ネット上では酷評。どうしてよいか分からなくなって、まさに自暴自棄といった状況。 すっかり小説を書く意味を見失っている一也に担当編集者である河埜さんが提案してきたのは、他作家との合作。ただ、その相手が何と同い年美少女作家、そのうえ転校してきて隣席となったばかりの小余綾詩凪(こゆるぎしいな)(筆名:不動詩凪)だったとは! 高校の文芸部を舞台にした学園ストーリィだろうと思っていたのですが、いやはやそんな単純なものではありませんでした。 本を読む人が減り、本の販売部数が減少している現在は小説家にとって酷な状況だと思いますが、そうした中での出版社、小説家の苦闘を、声を大にして訴えた小説家の物語。 そして同時に、青春期における将来への不安、自分の進むべき道への迷い、という青春物語。 高校生ながらにしてプロの作家、という2人を主役に据えているからこそ、複層的なストーリィが生まれ出た、という印象です。 売れない作家と自虐している一也、それに対し注目作家として順調な道を歩んでいる詩凪、と2人は対照的。 しかし、実は詩凪もまた大きな不安と苦悩を抱えていたことが、やがて明らかになります・・・。 一也と詩凪のやり取りが痛烈、2人の叫びとでも言った方がいい言葉には、2人の苦しみと願いがこもっていて実に読み処。 また、主役2人の脇に配した、一也の友人で文芸部長の九ノ里正樹、後輩女子の成瀬秋乃の存在感も読み応えあり。 面白いと思う小説を選んであれこれ評している読者側は気楽なものですが、それを生活の糧にしている小説家は本当に大変です。 でも、小説とは面白ければそれでいい、売れればそれでいい、というだけのものではない、と私も信じます。 1.星一つ/2.虎は震えている/3.物語への適正値/4.物語の断絶/5.小説の神様/エピローグ |
※映画化 → 「小説の神様−君としか描けない物語−」
「マツリカ・マトリョシカ Matsulica Matryoshka」 ★☆ |
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2020年03月
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廃墟の如き雑居ビルに住む美少女“マツリカ”と、彼女にこき使われるパシリ男子高校生=柴山祐希が学校に伝わる怪奇な事件の謎解きに挑む青春ミステリ、シリーズ第3弾。今回は長編です。 (※第2弾の「マツリカ・マハリタ」は未読。) 「顔の染み女」怪談の対象となる壁の写真を撮って来いとマツリカに命じられた柴山、その壁がテニス部女子更衣室の中、というのが難題。 そんな訳で女子更衣室付近をうろうろしていた柴山、たまたま知り合った美術部一年だという春日麻衣子に誘われ、深夜女子更衣室に忍び込もうとしますが、おかげで翌日起きた学園内密室事件に巻き込まれます。 「開かずの扉」と言われていた第一美術準備室、その鍵が開けられると、そこには女子の制服を着たトルソーが横倒しになっており、付近には青い蝶の標本が氾濫していた。しかも、そのトルソーが着ていた制服の持ち主は・・・。 しかも、その準備室では2年前にも、真相が解明されていないままの密室事件が起きていた。今回の事件はそれと絡むのか? 殺人事件でもないのに複雑、そして難解。 たかが(?)学園ミステリなのですが、真相解明ストーリィは本格ミステリ並みに重厚です。 青春ミステリがこんなに難解で良いものか?と思う処ですが、その一方、孤立男子だった筈の柴山の周りにいつしか仲間たちが集まり、皆で知恵を絞って真相究明に進むという展開に。 柴山は決して一人じゃなかった、彼を心配し応援する仲間たちがいるんだ、ということが明らかになったことが嬉しい。 皆がそれぞれ推理を巡らせますが、最後は、皆の前にマツリカが突如として登場。思いも寄らない真相を鮮やかに解明します。 このシリーズ、これから後も続きそうです。柴山の成長・再生ぶり、そしてマツリカとの絡みが見どころの様です。 1.開かずの扉の胡蝶さん/2.犯人はあなたなんですか?/3.謎はすべて解けた/4.解けないならばそれしかない/5.流しそうめん大作戦/6.疑心暗鬼が駆け巡る/7.僕にできる、ただ一つのこと/8.再び、柴山祐希の推理/9.廃墟の魔女による解明/10.呪詛と祝福 |
7. | |
「小説の神様−あなたを読む物語−」 ★★☆ |
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「小説の神様」の続編。 較べてみると、前作は結局始まりに過ぎず、本作で登場人物たちの胸の内をさらに深く掘り下げていく、というストーリィになっています。 思い悩む心をずっと胸の内に抱え続けてきて、本巻でついにそれを曝け出してしまうのが、次の3人。 売れない高校生作家の千谷一也、「帆舞こまに」という筆名で一也との合作本を出版した同級生でやはり作家の小余綾詩凪、そして文芸部の後輩で書店の娘である成瀬秋乃。 前者2人は、小説を書けなくなっていることの苦しみに加え、ライバルであり合作相手でもあるお互いへの感情が絡み、さらに複雑化。 もう一人の成瀬秋乃は、ラノベが好きなことを公言できないことから始まり、自分への否定感情で落ち込むばかり。 その3人を囲む周辺人物たちの配置も良い。 一也を正しく理解している文芸部の部長で親友の九ノ里正樹、一也と詩凪を支えようとする編集者の河埜さん、先輩作家ながら一也と同じ苦しみを味わっている春日井啓、一也の妹で出来過ぎ感のある雛子。 秋乃の友人で女子リーダー格である綱島利香、仲間のユイちゃん(高久結衣)、今も忘れられずにいる中学時の同級生=真中葉子、等々。 一也と詩凪は書く(作家)側の苦しみ、秋乃は読む側の悩み。 作家業は今、本当に大変だと思います。本が読まれなくなり、ネットやゲーム等簡単に手を出せる娯楽がそこら中にあり、そして作家が数多いのですから。 でも、稼ごうと思うなら作家業程、割に合わない仕事もないように思うのです。それなのに執筆するのは、書かずにいられないからなのではないでしょうか。 読む側にしても、昔は本を読むことに遠慮などなかったのになぁ、と思います(ラノベを含め)。 私の場合は、高一の9月にJ・オースティン「自負と偏見」を読んで、小説の面白さに嵌ってしまい、あとはまっしぐら。人がどう思うか、なんて考えたこともなかったですねぇ。 書く側、読む側の苦悩に共感し、作家・出版・書店事情も知ることができるうえに、友情、恋心といった青春要素も充分。 また、売れる小説の執筆方法論も展開され、興味津々。 本好きにとっては、読み処、読み応えともたっぷりの上下巻。 読めて、良かったです。 1.物語の価値はどこにあるのか?/2.書かない理由はなんなのか?/3.物語は人の心を動かすのか?/4.心が動いたそのあとで/5.読書に意義は存在するか?/6.物語は誰のために生まれるのか?/エピローグ |
8. | |
「medium メディウム−霊媒探偵 城塚翡翠−」 ★★ |
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2021年09月
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「medium」とは媒体、霊媒といった意味だそうです。 本作は、難事件の解決に幾度か協力してきた推理作家=香月史郎と、香月が後輩に同行して出会った“霊媒”=城塚翡翠という異色コンビによる連作風ミステリ。 殺害された人の最後の思い、見たものを、翡翠の霊媒の力で再現し犯人を特定できたとしても、それだけでは証拠にはならない。それを後付けの論理で補うのは香月の役割という次第。 中々興味惹かれるストーリィ設定です。 「このミステリーがすごい」2020年版国内篇:第一位等三冠を獲得したミステリということで読んでみたのですが、率直に言わせてもらうとミステリの第一位というのはこうしたものなのか、という印象。普段、ミステリは余り読まないため辛口の評価になってしまったのかもしれませんが。 第一話で殺害されるのは、香月の大学サークルの後輩女性。第二話では先輩推理作家。第三話では香月に相談を持ち掛けてきた女子高生。 そしてその合間に、「インタールード」と題された、正体不明の連続女性殺人鬼の犯行の様子が掌編として挿入されています。 最後は、連続殺人鬼の魔手がついに翡翠へ・・・・。 各話、趣向の面白さはありますが、それで第一位を獲得する程かなと思っていたら、最後の逆転で驚かされました。 そして真骨頂は、さらなる逆転が待ち受けていたこと。 本作の面白さは、すべてこの「最終話」に凝縮されているといって過言ではありません。 驚く以上に、トリックの種明かしに笑わされてしまう面白さ、と言って良いかと思います。 プロローグ/第一話.泣き女の殺人/インタールードT/第二話.水鏡荘の殺人/インタールードU/第三話.女子高生連続殺人事件/インタールードV/最終話.VSエリミネーター/エピローグ |
「小説の神様−わたしたちの物語− 小説の神様アンソロジー」 ★★ | |
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「小説の神様」をモチーフにしたアンソロジー。 上記作品の主人公であった千谷一也や小余綾詩凪らが必ずしも登場する訳ではありません。 2人の同世代である本好き高校生や、不動詩凪に憧れて小説家を目指す高校生たちが登場する作品があれば、2人が登場する作品もあります。 だからこそファンにとっては楽しいアンソロジー。 「小説の神様」ファンなら是非手を出してみてください。本書を読まないのは、食後のデザートを無視するようなもの。きっと楽しめることでしょう。 特に相沢沙呼さん自身による「神様の探索」は見逃せません。 ・「イカロス」:もうひとりの不動詩凪がここにいた、という印象です。 ・「掌のいとしい他人たち」:小説は全く読まない、というのに書店の正社員って、いったい何故? ・「モモちゃん」:旧校舎の図書室で一人小説を書き続ける女子高生の前に現れたのが幽霊って・・・。 ・「神様への扉」:成瀬秋乃と九ノ里部長の出会いを漫画で。 ・「僕と“文学少女”な訪問者と三つの伏線」:「文学少女」と自称する綺麗な大人の女性。謎めいた登場ぶりと、千谷一也、成瀬秋乃らを振り回す様が、素敵で実に愉快。 ・「神の両目は地べたで溶けてる」:マイナーなラノベ作家=水浦しずの大ファンだという女子同級生に翻弄される男子高校生という展開。コミカルな楽しさいっぱいです。 ・「神様の探索」:不動詩凪と千谷一夜の合作を提案した担当編集者=河埜絢子の側から描いた「小説の神様」。ファンならこれはもう是非読んでおきたい短篇です。 ・「『小説の神様』の作り方−あるいは、小説家Aと小説家Bについて」:本アンソロジーを締めくくる、あとがき的な篇。 降田 天 「イカロス」 櫻いいよ 「掌のいとしい他人たち」 芹沢政信 「モモちゃん」 手名町紗帆「神様への扉」 野村美月 「僕と"文学少女"な訪問者と三つの伏線」 斜線堂有紀「神の両目は地べたで溶けてる」 相沢沙呼 「神様の探索」 紅玉いづき「『小説の神様』の作り方−あるいは、小説家Aと小説家Bについて」 |
10. | |
「教室に並んだ背表紙」 ★★☆ |
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2023年06月
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イジメや無視等に遭い、悩み苦しむ女子中学生たちの孤立感等を繊細に描き出した連作6篇。 そんな彼女たちの心を、物語は救い、支えることができるのでしょうか。 舞台はとある中学校の図書室。その図書室の入り口近くには、司書の先生が選んだ文庫本が並べられていて、色とりどりの背表紙を見せています。 題名の「背表紙」、言い得て妙です。 学校、クラスにはいろいろな個性を持った生徒たちがいます。でもその見かけだけでは彼らの本当の姿を知ることはできません。知るためには、表紙を開けて彼らの物語を読んでみようと思わなければならない・・・・。 6篇に登場するどの女子中学生も、他の同級生たちの中に入り込めないでいることに苦しんでいます。 そんな彼女たちに寄り添おうとしてくれるのは、若い女性司書のしおり先生。 でも苦しむ彼女たちが求めているのは、庇護してくれる先生ではなく、同世代の友人なのでしょう。 そうした友人が現れるまで、読書、物語が支えになってくれる、しおり先生の言葉には、読書オタクである故に共感できるものがあります。 しかし、そのしおり先生の言葉には気になる部分もあります。 今回はミステリとは関係ない話かと思いましたが、いやいや相沢沙呼作品であるからにはちゃんとミステリはありました。 どうぞお楽しみに。 本作は、女子中学生たちの初々しさと読書の喜びを共感できるストーリィ。読書好きの方には是非お薦めです。 その背に指を伸ばして/しおりを滲ませて、めくる先/やさしいわたしの綴りかた/花布の咲くころ/煌めきのしずくをかぶせる/教室に並んだ背表紙 |