ニフティー判決を考える
(東京地裁H6(ワ)7784号事件)

---------事業者の責任の観点から-------

判決の骨子・特徴

1、契約上の監視義務(安全配慮義務)否定

2、不法行為についても、一般的監視義務否定

3、事業者(シスオペ)に削除権限などがある場合で、
a,当該不法行為の存在を具体的に知り、
b,かつ、回復可能な適切な手段が容易に取れた場合
c,かつ敢えて何らの措置・対策も取らず放置した場合
には、条理上の「作為義務」が生じることがある。

判決文は、以下の各ホームページにて掲載されています。

NIFTY-Serve 現代思想フォーラム名誉毀損事件裁判資料
(PIE Netにようそこ!内)

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ニフティ名誉毀損事件第一審判決

掲載していただきましたみなさん、本当にご苦労様です。心より感謝致します。

判決の検討


1 本件判決の構造



本件判決は、ニフティーのあるフォーラムでおこなわれた発言をめぐって、その発言が
名誉毀損に該当するかどうか、そして名誉毀損(民法上の不法行為)になるときは、
シスオペや、事業者であるニフティーが責任を負うか、と言った点が問題になりました。


まず判決は名誉毀損に関しては、問題となった一定の発言は激烈、必要以上の揶揄、
きわめて侮辱的とも言うべき発言が繰り返されているなど、個人攻撃が強く、原告の社
会的信用を低下させていると判断して、 不法行為(民法709条)の成立を認めました。


次に、シスオペと事業者の責任ですが、おおむね次のような構造の判断をしました。

まず、シスオペに条理上の作為義務(適切な対処をなすべき地位)を認め、その違反の
有無を詳細に検討しました。

次に、ニフティーには、右シスオペとの間の管理委託契約に従い、指揮監督関係を判断
して、 不法行為における使用者責任(民法第715条)の成立を検討しました。


2 本件判決の重要性

本件判決は、パソコン事業者の責任に関するもので、検討範囲は限定されてはいるも
のの、今後のパソコン通信事業の運営に大きな影響を与えないとも限らないので、注
目を集めていました。

この判決は、いまだ公刊されておらず、かつ、法律家の評釈はほとんどなく、解釈が固ま
っていません。そんな中で、新聞の見出し、「ニフティー敗訴」と言う部分だけが一人歩き
して、責任ある立場の法律学者からして、いいかげんな悲観論を展開するなど、大きな
誤解が広がっています。

この判決は、事業者の責任に関して、現時点での初めての司法判断であり、できる限り
正確に理解するとともに、多くの法律家によって、議論されなければなりません。ここで
は、できるだけ客観的に分析しつつ、私見を展開し議論の対象としたいと思い、何の評
釈も見ずに展開しましたので、間違えもあろうかと思います。皆さんのご批判をお待ちし
ます。

この判決は「誤解し易い判決」であり、「一人歩きし易い判決」です。

なぜかと言えば、この判決を政治的に利用しようとする勢力が多いからです。自分の主
張に引き付けようと、恣意的に強引な解釈をしようと言うわけです。

また一部には、不安のあまり、おおかみ恐いと言う感性だけで、読まずに、解説をする
自称「専門家」もいると言った具合です。

判決自体としては大変重要なもので、その内容は、今後大きな影響を持ちます。その
分、正確に理解する必要があるわけです。

判決の一般法理と事例分析を、峻別しましょう。

この判決では、個別の事例についての判断部分と、一般法理としての判断部分とがあ
ります。個別の事例に関しては、個別事例の理解、個々の証拠の判断、事例に関する
評価と言った、その事実に関してのみの判断ですから、それを普遍化してはなりません。

普遍化できる部分は、一般的な法理論の部分だけです。



3 判決の分析


第1 契約責任を否定した点について


まず、事業者と会員は、入会契約・サービス利用契約と言った契約関係にあります。
この契約が、事業者による会員保護の法的義務を持つものであれば、「安全配慮義
務」と言うものがあることになりますが、判決はこれを否定しました。
こうして、事業者との契約は、ネットワークの利用と言う範囲のサービスの利用であり、
事業者は客観的なサービス体制を確保するという法律的な義務はあるものの、サー
ビスの利用に際して、その中での会員相互のやり取りの内容にまでは責任を持
たないことを明言
したわけです。

次に、ローカルルールと言ったものから直接に法的義務を導くこともしませんでした。
ローカルルールには、さまざまなルールが定められるようですが、それらは法的には、
シスオペの裁量や、裁量権行使のルールとして、判断の材料とはなるものの、その
ルールが直ちに法的な意味を持つものではないことを示したわけです。

こうして、判決は、事業者が会員との契約があるとしてもその契約から直接には、会
員保護の義務や何なかの削除義務や、処分義務などが出てこないことを示したので
す。


第2 一般的監視義務の否定


本件判決は、事業者に対して、会員のフォーラムや会議室などでの発言に関して、
それらを監視したり、問題発言がないかを探知したり、すべての発言の問題性
を検討すると言った重い作為義務は認められないと判断。

この部分は、大変重要な部分です。パソコン事業者は、一定の固定的な会員が対象
であることから、原則的には非公開で、閉鎖された広場であって、インターネットのよう
な完全な公開性を持つものではないと言われてきました。その観点から、固定的な会
員の発言の場の提供はシステムオペレーターによる管理された中での権利であって、
事業者の管理責任を導かれると言う意見が多くなされてきました。


判決はこうした、事業者の一般的な管理責任と言ったものは認めず、一般的な監視義
務を否定しました。同時に、すべての発言の問題性を検討すると言う義務もないことを
明言しました。

判決は事業者が「検閲官」になることを否定したのです。この点は、テレコム協会の
「ガイドライン」との関係を、よくご検討ください。大変興味深いものです。


第3 事業者が責任を取る場合とは


本判決は、事業者の責任を論ずる前に、個別の行為者の発言事実を検討して、個別
の不法行為の成立を検討しました。これは、不作為による不法行為と言う、困難な問
題に関する判断です。

こうして、個別の不法行為の存在をまず検討するのです。そのことが肯定された後に、
シスオペの対処の適切さを検討しました。シスオペが、問題発言について、

a 問題発言の存在を知っていること
b その侵害の回避手段が簡易であり、容易に何らかの行為が採れたこと
c にもかかわらず、敢えてこれを放置した、

と言う場合には、条理上の作為義務が発生することがあるとしたのです。
これは、シスオペの責任の問題ですが、この場合のシスオペに関しては、引用された
最高裁判決(共謀はないが事実に関する共通認識があるものの間の作為義務の発
生)を基礎にして検討する限り、その成立範囲はかなり厳格で、上記の三番目cの敢
えてこれを放置したと言う要件が重要なものと考えられます。

結局、シスオペの放置行為が前記最高裁判例のようなレベルに達することが、必要
と言うように読むことができます。

さて、事業者の責任はどうなるのかと言えば、不法行為者に対する使用者責任と言
うことで、シスオペの地位が、事業者の使用者であることを念頭に置いての判断と言
えます。
事業者が、シスオペに対して、適切な管理を行ってこなかったと言うことが、その責任
の基礎になります。


最後に


こうした判決の分析に依れば、

パソコン事業者において、責任が問われるのは、フォーラムなどで不法行為が
行われており、そのことが被害者などから明確に通告され、その違法性が明ら
かであるときに、これに対して、何も対処しないと言う場合にかぎられると言うこ
とになります。


いわば公共の場であるフォーラムや、会議室において、事業者が関与することは言論
の自由の観点から問題がある上、このように、判決は不法行為の放置と言ったレアー
ケースに限定してのみ責任を肯定した立場を採用したので、事業者の責任、義務は、
こしたレアーケースに限定されると言う結論になります。

事業者に過度の義務(過度の介入義務)を認める最近の議論に、しっかりと歯止めを
かけたものとなりました。きわめて高く評価されるべきものと考えます。


以上 1997.6.21 弁護士 牧 野 二 郎
1997.7.1改定