オーケストラの実体は不明です。チューリッヒのフリー・ランスの演奏家を集めた臨時編成のオーケストラなのでしょうか?それともトーンハレ管の別名?可能性の最も高いのは、ベロミュンスター管弦楽団の別名なのかも知れません。
名指揮者のボードが振っているのですから、いい加減なオケという訳にはいかなかったでしょう。ボードは1927年にフランス、マルセイユに生まれた指揮者で、この録音が行われた1965年には、パリ・オペラ座の指揮者を勤め、更に1967年からは、ミュンシュの後を受けてパリ管弦楽団の指揮者として活躍した名指揮者です。
事実、この演奏のオケの出来は、多少音程の悪さはありますが、まずまずの出来であります。それに、マガロフのピアノがとても良いのです。
妥当なテンポ、表現は、マガロフの特徴でもあります。彼の素晴らしいショパン全集ともども忘れてはいけない一枚です。
ところで、「巡礼の年」でスイスを旅したリストの作品群を思い出すまでもなく、リストとスイスは深い縁で結ばれています。
ジュネーヴのバス・路線をよく見ていると、フランツ・リストというバス停があるのをご存知ですか?
ジュネーヴでもダグー夫人との逃避行の際にしばらく住んでいたこともあるのですが、その時の記念なのでしょうか?
で、ジュネーヴのスイスを代表するオーケストラ、スイス・ロマンド管弦楽団の共演でのリストを次に紹介しておきましょう。
こちらも共演は国際的で、ジェフリー・トーザーというオーストラリアのピアニストと、旧ソ連から独立を果たしたバルト三国の一つ、エストニアの名指揮者ネーメ・ヤルヴィの指揮という豪華さです。
トーザー(Pf )リスト:ピアノ協奏曲他(英CHANDOS/CHAN 9360)
このコンビでは、同じくスイスに随分ご縁のあったストラヴィンスキーの録音もあり、ヤルヴィとOSR(スイス・ロマンド管弦楽団)のコンビで、ストラヴィンスキーの管弦楽選集も作られていて、これらがまずまずの上出来なのであります。
まぁ、最近、OSRに対するジュネーヴの助成金が大幅に削減されたりして、楽員に対する給料の満足に支払われていないと聴くオーケストラですから、大いに応援してあげたいと思う私ですが、この演奏は、そんな暗い話題とは縁がないようで、素晴らしいアンサンブルで、先のチューリッヒのオケの出来と比べると格の違いを見せつけられます。
1994年の録音ですから、アルミン・ジョルダンの治世のOSRの音ということになりますが、エーテボリのオーケストラとのあのシベリウスの鮮烈な演奏の数々を成し遂げたヤルヴィの指揮は、まだまだ鈍ってはいません。
最近のいくつかの演奏で、やや角が取れすぎて少々物足りない演奏に感じることもありますが(OSRとのストラヴィンスキーの選集など)、ツボを抑えたベテランの味をしっかりと味わうことができます。
トーザーの演奏は、マガロフのような落ち着きや、リヒテルのような切れ味、ツィンマーマンのようなファンタジーは感じませんが、堅実な出来であると思います。
二番のファンタジーは、その意味であまり表出しておらず、やや不満を残し、どちらかと言えばより外面的な効果の多い一番の方が出来がいいようです。
ヤルヴィの指揮は、コンドラシン以来の名演で応えているのに実に惜しいことです。
さて、このOSRはこれらの録音を聴いていると、アンセルメの時代の音とは随分違った傾向を持つようになったと思います。
実際、この前のOSRの来日時にも、ファビオ・ルイジとOSRの希望する(というか普段からとりあげている)レパートリーではなく、アンセルメ時代のレパートリーをやるように、強引にプログラムを作った結果、彼らの持ち味が充分出せなかったというのが、多くの聴いた人の感想であるようです。
つい、アンセルメ時代の栄光をこちらが求め、そのレパートリーをアンセルメのようにやってくれることを望んでしまう私たちにも問題があるのかも知れません。
ファピオ・ルイジという、大変な才能を迎えて、OSRは随分と変わってきているそうです。
あっ、ちょっと脱線ですね。
このCDには交響詩「レ・ブレリュード」や「マゼッパ」も併録されていて、特に「レ・ブレリュード」はなかなかの名演です。アリコのCMで、山頂に旗を立てる時に流れるあの曲ですが、力強い、スケールの大きい演奏となっています。
というわけで、スイスとご縁の深いリストのスイスのオーケストラの演奏を二枚、紹介しました。 |