その間、一九六四年から、ミシェル・コルボとローザンヌ声楽アンサンブルでソリストとして活躍をはじめ、スイスをはじめ多くのヨーロッパの音楽祭等に招聘されるようになっていったのです。
フリップ・フッテンロッハーはその後、アーノンクール指揮ポネルの演出によるモンテヴェルディの「オルフェオ」や「ボッペアの戴冠」でチューリッヒ歌劇場に登場。その姿はLDで見ることができます。
CDはコルボとのモンテヴェルディのシリーズやメンデルスゾーンの宗教音楽集(ERATO/WPC5677〜8)バッハの宗教音楽などで、その歌声を聞くことができます。特にイエス役をやった受難曲などはやはり聞き物ですね。これは最近エラートからまとめて再発されたので、聞かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
あとスイス・クラヴェースからパーセルの歌曲を歌ったCDが出ています。共演は同じスイスのベルン出身の名チェンバロ奏者、イェルク・エーヴァルト・デーラーで、これは素晴らしい出来であります。ストイックな表情付けで、普段バリトンでは滅多に聞けないレパートリーを、渋い声で聞くことができるのですから、これまたよく聞く一枚ということであげて置きます。どこかで触れたことがあると思いますが、バーゼルの大変状態の良いマルティン・ショルツのチェンバロで録音されているのも魅力の一つとなっています。
(瑞西Claves/CD 50-705)
フッテンロッハーは、バリトンとしては響きがやや重く、渋めの響きを持っているバリトンです。フィッシャー・ディスカウのような何でも歌えるといった天賦の声というより、オラトリオやバロック期以前の音楽にこそ適性を表すタイプですね。
CDのライナー・ノートにはモンセラート・カバリエとグノーの「ファウスト」で共演したレコードがあるそうですから、実際には幅広いレパートリーを持っているようですがねぇ。
中でもやはりコルボとのフォーレのレクイエムの旧盤における絶唱は、おそらく永遠のものと言えましょう。あの「リベラメ」の緊張感は、張りつめているものの響きが決して硬直することなく、豊かに広がる音色によって見事に強さと優しさを獲得しています。
華々しいオペラの世界や、人気の歌曲の演奏とは無縁であるが故に、決して日本では知られることの少ない歌手の一人ではありますが、素晴らしい歌手であることは間違いありません。
もっと多くの方に知っていただきたい、スイスの名歌手のひとりであります。 |
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