3月25日

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★☆★ 現地取材レポート ★☆★
サッカー

日本代表ポーランド遠征
(ポーランド・ワルシャワ)
天候:曇り、気温:3度

 試合を2日後に控えた日本代表は、この日午前、各選手が取材に応じ、欧州でプレーし前日に合流した中田英寿(パルマ)、稲本潤一(アーセナル)、川口能活(ポーツマス)らも質疑応答を行った。また、小野伸二(フェイエノールト)もこの日午後、ワルシャワに入り、午後の非公開練習では、日本でプレーをする選手、欧州在籍選手全員が、今年初めて揃って練習を行うことになった。


「90分が欲しい」

 会見に出席した稲本は、言葉を選びながら試合に臨む心境を話した。ふと漏らしたコメントだったが、思いの染み込んだ言葉だったように思う。
「確かにアーセナルでの練習は、それが練習であってもレベルは高いわけですから非常に充実したものではあります。ただし試合となると、また違うモチベーションが必要になりますし、今回はそれがとても高まっていることを感じています」
 リザーブリーグでの出場はあるが、移籍以後、まだプレミアでの出場はない。
「練習でさまざまな変化やこれまでとの違いは得ることはできる、けれども……」
 稲本は続けた。
「とにかく欲しいものは、90分です。90分という時間が欲しい。ですから、まだ何もわかりませんが、もし今回の試合に出ることができて、もしそれが頭から(先発)だったら、100%全力で行けるところまで行くようなサッカーをしたい。もし途中でダメになったとしても、それはそれで仕方がないんだと思いますから」
 海外でのプレーで得たもの、とよく質問はする。しかし本当の意味で「得た」ものがあるとすれば、それは彼らが日本で育って、サッカー選手として感じることは極めて少なかったはずの「時間の重み」ではないか。
 日本にいた稲本は「90分が一番欲しい」などと言うことも、思うこともなかったはずだ。

「今は力が有り余っている状態なんで」
 川口はそう言って報道陣を笑わせた。空港では取材に来ていた報道陣一人一人に握手をしたそうだ。
「代表で久しぶりにみんなに会い、言葉が通じる楽しみがある。今は久しぶりの試合を楽しみにしていますし、アピールもそうですが、1分1秒を大事にしたプレーをしたいと思う」
 日本の記者の質問を受けた後には、英語での会見も、ゆっくり、ゆっくり、言葉を選んで、ときには「これで間違ってませんか」と聞き返しながらこなしていた。難しい問題も山積みであるし、手の及ばないことも、サッカーの移籍ビジネスは多様に絡んでいるはずだ。本人がポジティブにがんばる、と言ったところでもちろん限界はある。
 英語の質問に答え、川口は「ネバーギブアップ」と言った。
 稲本にしても、川口にしても、90分、あるいは、1分1秒といった時間の単位を口にした共通点は興味深かった。

 さて、試合に出ていないはずの選手が、しかもはるかにプレッシャーとストレスを過大に負わねばならないリーグ戦での対戦に、いきなりフル出場を果たし、活躍する。
 中田を見ていると、そんな難しいことさえ「何でもない」と思われてしまう。ユベントス戦ではフル出場を果たしたが、このしばらく、彼の出場時間は、合計しても1試合分になっていなかったのではないか。
 長いが、会見のコメントを抜粋する。

「(代表は)いい雰囲気なんじゃないでしょうか。監督とは普通に世間話はしますよ。昨日の別メニューはクールダウンです。ポーランドのイメージ?(ブレシアにいた選手が2人いますが、と聞かれ)それはボクは対戦していますか?(そこまで調べていませんと質問者が答え)ならばわかりませんね。試合数が少なくても、それはボクが連携性を持っていくよう努力することですし、昨日今日の問題ではない。コンディションも問題はないし、久しぶりの試合なので、多く(時間的に)出れば出るほど、調子は上がっていく。まだシーズン中でもあるし、W杯への目標なども今は言えないでしょう。(三都主とも話したか、と聞かれ)もちろん世間話はします」

 中田は、1分1秒を決して無駄にはしてこなかった。サブだろうがベンチ外だろうが、1分でも90分を、1秒でも90分を常に想定し、それだけの練習を重ねていたことが改めてわかる。テクニックや試合でのパフォーマンスはすでに言うまでもないのであって、試合に出ていなかった選手が最大の相手と90分を戦い抜いた、その水面下を思うことに、深い感動があるように思う。
 さまざまな融合や不均衡と同時に、時間に対する研ぎ澄まされた感覚を、試合のエッセンスとして楽しみにしたい。

 代表はこの日午後4時から空港傍で非公開の練習を行い、明日午前、試合の行われる、ワルシャワから120キロ南のウッジにバスで移動。夕方はトルシエ監督の会見とともに、15分、練習が公開されることになっている。



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