富士山アイヌ語語源説について



富士山の語源はアイヌ語の「火」?

佐藤和美 (1999/09/07 08:26)

 あいかわらず、いいかげんなアイヌ語が横行してるという話です。

新刊で、
「目からウロコの漢字問題」(宝島社文庫)
という本があります。
漢字のいろいろな話が載っていて、誤読の話など結構笑えます。

この本の中にアイヌ語に関して以下の記述があります。(P202)
「先ほど例に挙げた「古事記」に出てくる地名が本当のオリジナルかというと、そうとも言い切れない。
 じつは日本の地名の多くはアイヌ語起源である可能性が高いからである。
 先住民族なのだから当然だが、昔は日本の大部分の地域にアイヌ民族がいた。その後北方へ追いやられたが、(現代日本人の八割の人はアイヌ民族の血を引いているという)、このようなわけで、とりわけ北海道や東北の地名には、アイヌ語に漢字を当てたものがごろごろある。
 たとえば、栃木県「日光(にっこう)」は「二荒(ふたら)」が「にこう」と読み違えられ、さらにそれに当て字をして出来上がったという。この「ふたら」はアイヌ語「プタアラ」が語源になっており、これは「美しい高原」のことである。「富士」もアイヌ語の「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ。つまり「火の山」だったわけである。」

「昔は日本の大部分の地域にアイヌ民族がいた」
「現代日本人の八割の人はアイヌ民族の血を引いているという」
これはマユツバものです。なにを根拠にこんなこと書いてるんだか。

アイヌ語に「プタアラ」なんて単語はありません。

アイヌ語の「フチ」は「おばあさん」という意味で、「火」という意味はありません。
「アペフチカムイ」(火のおばあさんの神)の「フチ」を「火」と勘違いした? むりやりこじつけた?

「「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ」
全然、有力じゃありません。(笑)

「フチ」の発音に関して、金田一京助は次のように書いています。
(「北奥地名考」1932年)
「若し語原が、説者のいう如くアイヌ語のhuchiであったならば、国語にクヂ(またはクジ)となっていた筈で、国語にハ行音でフジとなる為には、その語頭音は必ずやpかfでなけれだならない。それは上代の国語の音には[h]音がなく、外国の[h]音はこれが為にみな[k]音に取り込まれる例であったからである。現今のフジであるからとて、huchiをその語原に見立てたのは、国語の音韻史を無視した失考だった。」

金田一京助がこれを書いてから67年もたっているのに、いまだに「「富士」もアイヌ語の「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ。」と書く人がいるんですねぇ。



地名の世界地図

佐藤和美 (2000/12/24 08:51)

文春新書の新刊です。
21世紀研究会編「地名の世界地図」

ちょっとめくってみたんですが、まちがいが目立つ本です。
文藝春秋みたいな大出版社でも、こんな本出すんですね。
買わないほうがよさそうな本です。
アイヌ語を重点的に、疑問点をあげてみました。
(幽霊(ゴースト)アイヌ語バスターズ!)

P75
「白ロシア」が「ロシア語でビエロロシア、そして独立した現在は、スラブ語でベラルーシ「白ロシア」である、」
(この文章を書いた人ってロシア語とスラブ語の関係がわかってるのかな? ここでは「スラブ語」ではなく「ベラルーシ語(白ロシア語)」を使うべきでしょうね。仮名表記だけど「ビエロ」でいいの? ロシア語わかる方フォローお願いします。)

P76
「樺太」の語源は「江戸時代、ここに中国人が多く住んでいたので唐人(からと)とよばれていた」から
(おい、おい。(^^);)

P108
アイヌ語「ワッカ」の意味は「飲み水」
(正しくは「水」)

P108
アイヌ語「フルー」の意味は「赤い」
(正しくは「赤い」は「フレ」)

P108
江別の語源はアイヌ語「エ・ペツ(胆汁のような色の川)」
(「エ」にそんな意味ない!)

P109
斑鳩の語源はアイヌ語「イカルカ(山の頂、物見をするところ)」
(「イカルカ」なんて単語はない! 単語に区切ってない! 幽霊アイヌ語のいつものパターン。「インカルシinkar-us-i」(「札幌地名行」参考のこと)のことを言いたいのかな?)

P110
富士山の語源はアイヌ語起源だといわれることがある。
(「富士山の語源はアイヌ語の「火」?」(1999/09/07)参考のこと)

P110
「クリル島は、千島アイヌ語のクル(人)がロシア語化したものだ。」
(なにを根拠にこう言いきるの?)

P110
千島の語源はアイヌ語「チカップ(日の出る所)」
(「チカプ」は「鳥」。「太陽」は「チュプ」。「チシマ」と「チカップ」じゃ「チ」しか同じじゃないぞ。古くは蝦夷ケ千島という言葉があったので、「千島」は「多くの島」くらいの意味だと思いますけど。)

P110
アイヌ語「エトゥロ(鼻、先端)」
(「エトゥ」が「鼻、先端」)

P110
アイヌ語「フ(所)」
(「フ」にそんな意味ない! 「プ(者)」の間違い?)

P110
ロシア語「スク(川辺の渡場集落)」
(ロシア語「スク」にそんな意味あるの?)

P110
「樺太の場合は、北緯五〇度線がアイヌ語地名の北限であるとの興味深い報告もある。」
(北緯五〇度線は昔の日露の国境(ポーツマス条約できまった国境)だけど、ほんとにそんな報告あるの?)



(無題)

Nupkes (2000/12/24 22:07)

  佐藤和美さん
>富士山の語源はアイヌ語起源だといわれることがある。
 初出は、ジョン・バチェラーですよね。岩波が今でも発売している『アイヌ・英・和辞典第4版』にもHujiはHuchiで、火を意味し等とかいてありますから、今でも信じる人がいるのでしょうね。
ジョン・バチェラー『アイヌ地名考』にもFuji no yamaは、Hunch Unchi-nupriと記載していますから、影響は大きいですね。
 今でも、バチェラーの影響を受けたアイヌ語地名解が、あちらこちらで発表されています。
 どうしたら良いのでしょうね。
 以前、やはりバチェラーの影響を受け、地名「落合」は、アイヌ語由来と記載したものを読んだことがあります。その方は、札幌の某大学で、北海道庁の補助金を受けある調査をしている方ですから、だれも疑いません。当然、わたくしが間違いを指摘しても聞く人はいません。
 21世紀も、バチェラーの亡霊が徘徊するのでしょうか。あきらめるしかないようですね。



「富士山」の語源

松茸 (2001/06/03 19:00)

 『大英百科事典』
http://www.britannica.com/eb/article?eu=36245&tocid=0
によると:

| The mountain's name[ie. "Fuji"], of Ainu origin, means “everlasting life.”

だそうです。
# こういうのも「幽霊アイヌ語」になるんでしょうか?

 なお、"Ainu"の項目:
http://www.britannica.com/eb/article?eu=5244&tocid=0
にも、鳥肌の立つようなことが書いてあります。度胸のある方はどうぞ。



RE: 「富士山」の語源

朝倉勇一 (2001/06/04 05:07)

私はアイヌ語にはまったく通じない者ですが、平凡社の『世界大百科事典』の「富士山」の項を見ると「・・・富士という山名はアイヌ語で火を意味する〈フチ〉に由来するといわれる。」とあります。この部分の執筆者は小泉武栄という方で、略歴などは明示されておりません。
#門外漢ですが、ご参考までにと思い報告します。



RE:「富士山」の語源

佐藤和美 (2001/06/04 12:49)

「everlasting life」って「不死」っていう意味なんでしょうけど、
たしか『竹取物語』の最後のところで、「富士」の語源が「不死」だというエピソードがあったような。(うろ覚え)
どう考えても「不死」はアイヌ語じゃないですね。
日本人でこの説を信じる人は一人もいないと思いますが。
文章書いた本人がアイヌ語だと思ってるんだから、「幽霊アイヌ語」になる?



RE: 「富士山」の語源

佐藤和美 (2001/06/04 22:20)

富士山が「アイヌ語で火を意味する〈フチ〉に由来する」というのは以下の書き込みを読んでください。
「富士山の語源はアイヌ語の「火」?」(1999/09/07 08:26)



似非アイヌ語(富士山)

朝倉勇一 (2001/06/06 05:32)

佐藤さんどうもありがとうございます。
平凡社の世界大百科事典がトンデモネタの卸元であったとは呆れた話ですね。私は以前このCD-ROM版を数万円で購入したのですが、最近パソコンを買い換える機会にメーカーに問い合わせたところ「Windows98SEまでしか動作保証はしていません」という回答がありました。それでME全盛の時代にわざわざ98SE搭載の機種を買ったという馬鹿な話、紙媒体なら数十年は楽にもつのに・・・と複雑な気持ちです。
そういえば司馬遼太郎もこの事典をよく引用していました。実は佐藤さんと同様私も司馬ファンで、かの博識にはいつも感心させられっぱなしですが、時に「弘法も筆の誤り」に出会うとなんだかホッとするような。(笑)
「愛蘭土(アイルランド)紀行」の中に"dead pan joke"という話が出てきます。真面目な顔をしてカマすジョークのことで、これを「死んだ鍋ジョーク」と表現したのには笑いました。「死んだ鍋」などという無意味な言葉を詮索もしないで使うのは凡そ司馬さんらしくない。この場合の"pan"は演劇界で使われる用語で「顔」という意味です。プログレッシブ英和辞書にも最後のほうに小さく「(米俗語)顔」とありますが、しかしこれは一般的な用法とはとてもいえない。が、敢えてこれを使い"dead pan"と成語したのは「英雄伝」で有名なプルタルコス(英語でプルターク)の著作「イシスとオシリス」にある有名な文章「パン(牧羊神)は死んだ!"The great god Pan is dead"(英訳)」に掛けたためだそうです。

#ま、ご愛嬌ですが(^^)



『地名の世界地図』のアイヌ語

佐藤和美 (2001/06/20 12:42)

『地名の世界地図』1刷のアイヌ語地名のことは以前書きましたけど、その後のことを書いてなかったですね。

P108
「岩内(イワウ・ナイ「硫黄の多い川」)」

「イワウ(硫黄)」+「ナイ(川)」であり、「多い」という言葉は出てこない。

P109
「古代、アイヌは北日本にも広く分布していたので、アイヌ語の地名は本州にも多くみられる。やはり東北に多いが、関東、関西にもあるとする研究者も多い。」

1刷にあった「斑鳩」、「富士」を削除したのだから、あきらめて「関東、関西にもあるとする研究者も多い。」も削除すればいいのに。それがやだったら、「斑鳩」、「富士」のかわりを出さないとね。

P109
「柳田国男によれば、東日本に分布する堂満や当間(当麻)という地名もアイヌ語起源(トマム、トマン「沼、沼地」)であるという。」

アイヌ語に「トマムtomam」(湿地、泥炭地、沼地)という単語はありますが、当然のことながら「東日本に分布する堂満や当間(当麻)という地名」が全てアイヌ語「tomam」に由来するとはかぎりません。それぞれの堂満や当間(当麻)は沼地だったのかくらいは調べてもらわないとね。
なお「トマン」というアイヌ語はありません。

P109 「彼のこの説によって、アイヌ語の地名が白川以南にも残っている可能性が認められるようになってきた。」

日本全国にアイヌ語地名があるとしたのはバチェラーのほうが古いですね。(幽霊アイヌ語での語呂合わせですけど。)1刷での「富士」のことはバチェラーの説でした。バチェラーを信じてる人はいまだにいます。

P110
「千島列島のクリル島は、千島アイヌ語のクル「人」がロシア語化したものだ。」

なにを根拠にこう言いきるんでしょうか。根拠があるなら見てみたいものです。
「千島アイヌ語のクル「人」」って、北海道アイヌ語でもクル「人」なんだから、「千島」は不要。
「Kuril」の「kur」がアイヌ語なら「il」はなんだっていうのかな?
千島列島にクリル島ってあった? クリル列島の間違い?
(P109の地図は「千島(クリル)列島」ってなってるけど)

P110
「色丹(シコタン)はシ・コタン「大いなる村」(シ「大きな」コタン「村」)」

「大きな村」と「大いなる村」では意味が違いますね。

P110
「国後(クナシリ)はクンネ・(アン・)シリ「黒い島」(クンネ「黒いところ」アン「ある」シリ「島」)である。」

「クンネ」は「黒い」で、「黒いところ」じゃない。
「アン」(ある)は(文法上)不要。

P110
「択捉(エトロフ)はエト・オロ・プ「盛り上がる先のある場所=岬の(多く)あるところ」、つまりエト「鼻、先端」オロ「その所」プ「盛り上がる」が有力のようである。

「エト」は「エトゥ」の間違い。
「プ」に「盛り上がる」の意味はない。
「盛り上がる先のある場所」でなんで「岬の(多く)あるところ」になるのか。
こんな説が「有力」なのか。

P110
「歯舞(ハボマイ)はアプ・オマ・イ「氷のあるところ」(アプ「流氷」オマ「ある」イ「所」)」

「氷」と「流氷」で矛盾している。

P110
「ハポ・マ・イ「母の泳ぐところ(=母なるところ)」(ハポ「母」マ「泳ぐ」イ「ところ」)」

「母の泳ぐところ」がなんで「母なるところ」になるのか?
「母の泳ぐところ」で地名になるのか。ま、たんなる語呂合わせですね。

P110
「ポロナイスク(敷香)は、ポロ「大きい」、ナイ「川」、ロシア語のスク「渡場集落」の合成語で、「大きな渡し場のある村」」

ロシア語「スク」にそんな意味があるのか。
「大きい川の渡場集落」がなんで「大きな渡し場のある村」になるのか。



富士山<フンチ・ヌプリ?

松茸 (2003/12/26 03:32)

 某「一行知識掲示板」に幽霊アイヌ語が出没してます。(^^;

 「フチ」はよく聞くが「フンチ」は初耳なので、検索してみたところ、省庁や自治体の公式ページに堂々と載ってました:

http://www.cbr.mlit.go.jp/fujisabo/fujiazami/fujiazami36/fujiazami_02.html
http://fujisan.pref.yamanashi.jp/denmou1/kankiyo/kan3_4_08/main.htm
http://www.pref.shizuoka.jp/madein/fuji/020.htm

……やっぱりというか、哀しいです。



Re:富士山<フンチ・ヌプリ?

佐藤和美 (2003/12/26 13:05)

富士山アイヌ語語源説、私もちょっと検索してみました。


市川小学校
http://www.ichikawa-sho.ed.jp/fujisan/naritati.htm
富士の語源として、マライ語説・アイヌ語説・その他があるが、河口湖畔にアイヌが、定住していたあとがあることからアイヌ語のカムイ・フチ(火の神)というのが有力である。

この小学校では授業中に「河口湖畔にアイヌが、定住していたあとがある」なんて教えてるんですかね?


沼津工業高専
http://www2.denshi.numazu-ct.ac.jp/funada/prof-fujieda/edition/document/doc3/doc3c.html
富士の語源として、マライ語説,アイヌ語説その他があるが、河口湖畔にアイヌが定住していた遺跡があることからアイヌ語のカムイ・フチ(火の神)というのが有力である。

ここも授業中に「河口湖畔にアイヌが定住していた遺跡がある」って教えてる?


麗澤中学・高校
http://www.hs.reitaku-u.ac.jp/print/tokosibe052.html
そもそも富士という山名はアイヌ語で火を意味する「フチ」に由来するといわれている。

これは高校のほうの文章のようですね。


学校でヘンなこと教えないで欲しいですね。



Re:富士山<フンチ・ヌプリ?

佐藤和美 (2003/12/27 10:00)

金田一京助『北奥地名考』からです。

「尤バチラー博士は、フチに樺太アイヌ語の「火」unchi を授引する。併しこれは又フチとは全然別語で、この授引にも無理強いの嫌いがある。樺太にはアペ「火」という語は廃語になっていて、老人にはわかるが、古語だと答える。そして日常の間、一般の人々は火を unchi (または unji と発音するものもある)とのみ云う。此の方は本来は「火の神」という語で、北海道の北部方言地方のウチ uchi 「火の神」という語と同一語である。だから、ウンチを以って、富士の語源とするなら「火神の山」「火の山」の義に解いてよいのであるが、そうすると、語頭がハ行音ではなくって、一寸富士と似つかわしくなるものだから、形を合せんが為に、huchi を持ち来り、意味を合せんが為に unji を持って来る。そのトリックをアイヌ語を少し学んだ目は決して見落さないであろう。」
「要するに、富士はアイヌ語の火だという解釈は、眉唾物であって、アイヌ語を知らない人にだけは本当にされるかも知れないが、真理はそうたやすく手品のように、うまく手捌きで言いくるめられはしないのである。」


この文章が最初に収録されたのが昭和7年だそうですが、「アイヌ語を知らない人にだけは本当にされるかも知れないが」って、現在と全く同じですね。



Re:富士山<フンチ・ヌプリ?

佐藤和美 (2003/12/29 16:57)

>市川小学校
>http://www.ichikawa-sho.ed.jp/fujisan/naritati.htm
>富士の語源として、マライ語説・アイヌ語説・その他があるが、河口湖畔にアイヌが、定住していたあとがあることからアイヌ語のカムイ・フチ(火の神)というのが有力である。

足和田村
http://www.fujigoko.or.jp/area/t-asiwa.htm
村内には「桑留尾(くわるび)」「満留尾(まるび)」などるび≠ニ名の付く地名があり、このるび≠ェ、アイヌの言葉であることから、「大昔にアイヌ民族が住んでいた」という言い伝えが残っている。江戸時代の富士山大噴火で歴史的な資料が一つも残っていないため、真実は分からない。しかし、この言い伝えが本当だとしたら、北海道の「蝦夷富士(えぞふじ)」はその名残で名付けられたのではないか、と村民の間にロマンが広がる。

まさか「「大昔にアイヌ民族が住んでいた」という言い伝えが残っている」が伝言ゲームで「河口湖畔にアイヌが、定住していたあとがある」に?

「ルピ」って『アイヌ語沙流方言辞典』には「(魚)の列群」って出てます。確かにアイヌ語に存在する単語だ(笑)。



Re:富士山<フンチ・ヌプリ?

佐藤和美 (2003/12/30 09:07)

さて、それではバチェラーはどのように書いてるのでしょうか。
(当然のことながら、内容はマユにツバつけて読んでください)

バチェラー『アイヌ地名考』中川裕訳(『アイヌ語地名資料集成』草風館収録)
「次に FUJI NO YAMA(富士山)の Fuji を見てみよう。FUJI NO YAMA の FUJI という単語は、疑いもなくアイヌ語起源である。炉床の上にあっても、火山の中にあっても、火の女神は常に FUJI または HUCHI という名で崇拝されている。樺太ではこれを UNCHI という。北海道内のどの活火山においても、その中の火は Fuji kamui すなわち「火の神」と呼ばれて崇拝されており、火はアイヌ民族の祖先のひとつであると考えられている。ABE が日常一般に使われる普通の火を指すのに対し、FUJI という単語中の U は、火がより崇高な役目を果たす場合の基本的な名称である。「神なる Fuji」の坐る座というのは、その火のまん真中−−最も白く輝いている熱い部分だといわれている。FUJI または HUCHI は「祖母」を表わす単語でもあるから、私はこの種の火の崇拝が、火という形を借りた祖先崇拝を意味しているのだと考える。FUJI NO YAMA が休火山だということを思い出していただきたい。右のように漢字で書かれた場合、その意味は「富の山」とか「宝の山」ということになるが、意味に関するかぎり、この山にはあてはまらない。」



Re:富士山<フンチ・ヌプリ?

佐藤和美 (2003/12/31 11:44)

肝心の「フンチ」ですが、以下の辞典に記載はありませんでした。
田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館
中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』草風館
萱野茂『萱野茂のアイヌ語辞典』三省堂

予想としては、

フチ + ウンチ = フンチ

ってことで、
「フンチ」という言葉をデッチアゲたのではないでしょか。



富士山の語源

Shusan (2004/01/06 17:08)

朝倉勇一さんの過去の記事へ
検索で小生の前に現れた小泉武栄(たけえい)さんは理学博士、東京学芸大学地理学研究室の教授で、研究の内容など見ても言語とは関係無い方のようです。百科事典の記事を頼まれ、つい他人の説を載せてしまったのではないかと思います。
山の自然科学に関する著書が多く出版されているので、山に関することの影響力は大きい方と思いますので、何等かの形でこの話を訂正に協力頂けるように持ってゆきば逆に幽霊アイヌ語の退治ができるのではないかと考えるのはどうでしょうか。
傍目で勝手を申し失礼しました。



富士山(日本国語大辞典)

佐藤和美 (2004/01/10 13:04)

『日本国語大辞典』
富士
語源説
(1)ホデ(火出)の転[萍の跡・百草露]。
(2)ケフリ(煙)シゲシの略[仙覚抄]。
(3)フジナ(吹息穴)の略[松屋棟梁集]。
(4)アイヌ語で「火の神」の意の Huchi から[アイヌ語より見たる日本地名研究=バチェラー]。


ここにもバチェラー説が顔を出してますね。
『日本国語大辞典』は語源説があればどんなものでも紹介する方針のようですから、出てきてもふしぎじゃないか。アノ安田徳太郎『万葉集の謎』も出てくるくらいだから。



富士山(日本地名語源辞典)

佐藤和美 (2004/01/10 13:47)

吉田茂樹『日本地名語源辞典』(新人物往来社)には「富士」は何って載ってるかな?

フジ(富士)
「「万(第三一七)」に「不尽・布士」でみえる日本最高峰の富士山については、アイヌ語説「プシ(火)」から「フヂ(藤)」説などがあるが、「フシ」であって「フチ」ではない。最も妥当なのが『記伝』の「クシ(霊異)」であって、筆者も霊山として「クシ(奇)き山」の「クシ」説をとる。「フ」と「ク」は上代から音韻の変化する語であって、日向の高千穂の「クシフル峯」の「クシ」も「クシ(奇・霊)」で、富士山と同じく神霊の宿る奇しき山の意とみられよう。」



富士・フチ

佐藤和美 (2004/01/11 10:20)

バチェラーの文章に関しては中川裕さんの訳注が興味深いです。

「もうひとつ、バチェラー自身がここで述べていることではないが、日本の地名および日本語をアイヌ語と結び付けようとする人間が往々にしてやりがちなことなので、注意しておきたいのは、日本語のh音がf音からさらにp音にさかのぼるからといって、アイヌ語のh音も同様な経過をたどったと考えることはできないということである。特に huchi に関しては、同じく「祖母」という意味を表す語として sut(suchi) という語があり、語頭のhはfやpよりも、むしろsとの関係を考えなければならない。」

「sut」は概念形で、「suchi」は所属形です。

知里真志保『分類アイヌ語辞典・人間編』で調べてみると、「huchi」は日常語で、「sut(suchi) 」は雅語だとあります。アイヌ語の雅語は古語ですから、「huchi」よりも「sut(suchi) 」のほうが古い言葉のようです。そうすると、「富士」の語源が「フチ」だという説は全くのナンセンスになります。




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