横浜赤レンガ倉庫 GROUND ANGEL 開催記念

石井竜也スペシャルトーク

PART 4


【想像力の話】

石井:これからのニュース、広河さんはどこに注意してほしいと思いますか?
広河:想像力ですね。爆弾が飛んでいく映像があると、その爆弾がその瞬間なにををしたのかを考えることですね。ところがそれがわかんないんですね。
 僕がバグダッドに行ったとき見たんですけど、目の前で次々に爆弾が爆発して、その音でものすごい恐怖を味わったんですけど。その下で実はいろんな叫び声とかがしてる。音でわからない聞こえない、でもその想像力があるんですね。ところがそのトマホークのスイッチを押した人間にはその叫び声は聞こえないわけですよね。
 その下のうめき声や叫び声がわからないと、自分たちは全く現実感のない殺人者になってしまいますよね。そしてこの戦争は正しいと思ってしまいます。そういうことを自分たちが持っておくべきだと思います。
石井:スイッチを押す方がどんなにきれい事を言っても、その下でうめいてる声とか殺された人たちとかにはかなわないと思いますね。どんなにきれいごとを言ってもそれは正しくないと思います。
 (客席に)今GROUND ANGELがこの外でやっています。ここにも赤ちゃんのいる人、これから結婚する人、今いっしょうけんめい育っている人、たくさんいると思います。今、外では天使を追っかけている子供たちが走り回ったりしている絵が繰り広げられていると思います。
 僕はあそこに天使を映したかったんじゃなくて、ほんとはあそこに遊んでる子供たち、絵を追っかけてる子供たちがいて初めて絵になる構成にしたんです。これはその子供たちが殺されるような時代にしちゃいけないということなんですよ。
 人は壊すために生まれてきたんじゃないんですよ。ここにいる人たちは神様からなにかの才能をもらって何かを表現するために生まれてきたんですよ、何億分の一の確率で。
 経済大国つって言ってるけど、これまでの歴史で大国がどんなに簡単に壊れてきたか、広河さんもおっしゃっていたとおり街が壊れるのなんて簡単だってことですよ。だから気持ちの中で反対して欲しいですね。これは…誓っていただきたいという気がします。
 あの、今日はいつもの石井じゃなくてなんだよふざけねぇのかよと思われたかもしれませんけど、ステージに立たせてもらってる人間として、これはほんとに皆さんのおかげだと思ってます。石井また聞いてやろうか、って思ってくださる皆さんのおかげだと思ってますよ。そういう人たちに対して、やばいよって思ってるのに、一言も言わないままでただふざけるだけで消えていってしまったら、おれはなんのためにステージ立たせてもらってるのかって思っちゃったんですね。今日ここで話したことはカールスモーキー石井でもなければ石井竜也でもない、皆さんと同じ一市民としてこわいなって思う気持ちを皆さんと共有したいです。だからみんな気をつけましょう。
 で、もらったこの命たいせつにしましょうよ。そして生まれてくる子供や今いっしょうけんめい育っている子供たちをたいせつにしましょうよ。これはおとなたちの責任ですよ。二度と爆弾が落ちるような国にしちゃダメですよ。
 俺は説教できる立場じゃないしそんな経験もしてないけど、罪のない人が殺されるという状況はいい訳ないですよ。そんなことを思いながら去年今年とGROUND ANGELを作りました。それだけ感じてやってください。広河さんどうもありがとうございました。

(広河氏、退場)

【結び】

イ:広河さんとはいつも深いお話をされるのですか。
石井:僕はショウマンで、ショウを作ってみんなが現実を忘れて帰ってくれればいいという商売なんですね。でも広河さんは現実を伝える人なんですね。でも2人に共通してるのは素晴らしい未来を作りたいということだと思うんですよ。血が流れたり子供が死んでいくような時代は作りたくないっていう。それは毎日そういう話をしなくても広河さんを見ていればわかる、広河さんも僕を見ていればたぶんわかる、そういうことだと思うんですね。だから夢と作る現実を伝えるという全然違う仕事だけれども、ここにある根は同じだと思います。
:まもなくクリスマスを迎えるわけですが。
石井:クリスマスまでコンサートなんでコンサートがクリスマスになりますね。来年楽しいコンサートやってみたいなと準備してるんですけど。
 「ばっかでぇす」ってやるのはいつもやってることだからいいけど、ほんとになんか起こっちゃうとできなくなっちゃうんですよ。もし自衛隊が300人死んでごらんなさい、そんなことできないですよ。だからこそ平和であることが大切なんですよ。
 ものを作っている人間がなにが一番たいせつかというと、作れる時間と、それを穏やかな目で見てくれる人たちがいるということなんですよ。それがなければつくれないんですよ。そのために一番大切なのは平和ってことですよね。だから俺は自分のためにやってるんですよ。そう思うんですよね。ひどいこと起こらないで欲しいですよね。
一番最初に、穏やかな気分になれる時間たいせつですよね。戦時中にアートヌードですっていったって、誰も見てくれないですよね。
 僕はね、今日石井竜也が話をしているということじゃなくて、みんなの代弁をしているんだと思いますよ、きっとみんなと思ってるのと同じだと思う。同じこと考えていると思う。
ちゃんと生活している人だから、みんな同じ不安を感じているんだと思うんです。だからみんなのことをいったに過ぎないと思いますよ。
:平和に対して鈍くなっている私たちにメッセージを。
石井:エンジェルじゃなくて、ここにいる人たちみんながお父さんとお母さんにとってのエンジェルだったんですよ。…(間)…たいせつにしてください。


"DREAM OF LOVE"が流れるなか、石井氏は退場。90分にもわたる濃密な時間が幕を下ろした。


つけたし

 9日に赤レンガ倉庫で見た石井さんは、格好こそグレーのスーツにいつものチョーカー、サングラスと、ふだん拝見するとおりの姿でしたけど、態度は全く違っていました。終始伏し目がち、とまでは言いませんが、客席にむかって語りかけるとき以外はステージ上の相手を見ながら、真剣な表情で話されていました。
 声のトーンもかなり低く、聞き取りづらいときさえありました。ときどき言葉に詰まったり、考え考え話す姿は、悪く言えば『ステージにあるまじきテンション』の低さで、それだけに、その一言一言をつり込まれるように聞いていました。
 対談をなさった広河隆一さんは、カーキのキャップに緑のブルゾンコートと、至ってラフな格好でした。石井さんの質問にも関西なまりの淡々とした口調で答えていらっしゃいました。しかしその口から語られることは、見てきた者(それも殺される側から)だけが発することができる重みと切迫感に満ちていました。
 メモを書き起こしながら思ったのは、9日から今日まで、状況はますます良くない方向に動いているなということです。イラクでは市民のデモ隊に対してアメリカ軍が発砲し死者も出ています。自衛隊は派遣日程・人員がより具体的になり、いよいよ日本も戦争をする国の仲間入りをすることになりそうな勢いです。「考えることからはじめよう」という石井さんからのメッセージをかみしめて、こういうときだからこそひとりひとりができることを考えてゆかなければ、と思います。
 今回、参加者の中に加わることができて幸いでした。あれだけのまっすぐな、深いトークはなかなか聴けないと思います。21日(日)19:00〜20:00にはFM YOKOHAMAで”リスト presents TATUYA ISHII [GROUND ANGEL]として今回のトークが放送されます。聞くことのできる方々はぜひ聞いていただきたいと思います。
 また、対談の中で「ジャーナリズムが爆弾を落とす側からの報道ばかりになり、我々は戦争というものの現実を知ることができない」とおっしゃっていた広河さんは、現在フォトマガジン『DAYS JAPAN』創刊に向けて奔走されています。大きなスポンサーもなく新雑誌を創刊されることはとてもたいへんなことでしょう。それでも踏み切った広河さんの決意はなみなみならぬものがあったろうと思います。興味のおありの方はHIROPRESS.netに行ってみてください。DAYS JAPANの創刊準備室便りもあります。

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