“宇宙消失”
グレッグ・イーガン
(創元SF)
2034年、何の前触れもなく太陽系は正体不明の暗黒の球体に包まれ、
夜空から星が消えた。
事象の地平に似た非物質の球体はいかなる手段を持ってしても突破できそうにない。
人類は太陽系以外の宇宙から完全に隔離されてしまったのだ。
この球体の正体についてさまざまな憶測が乱れ飛びながら、
既に33年が過ぎていた。
その世界で、探偵稼業を営む元警察官のニックは行方不明者の捜索依頼を受けた。
病室から一歩も出られるはずのない女性患者が、病院から消えたというのだ。
一見、暗黒の球体とは何ら関係なさそうなこの事件が、
実は恐るべき真実を秘めていた…。
量子力学の観測問題とナノテクを元にした、壮大な空想理論 (真実の可能性もある?
^^;) が繰り広げられる物語です。
物語の中心となる謎を初めとして、
ストーリーよりもアイデアでぐいぐいと引っ張る感じの話で、楽しめます。
読み終わって、
A.C.クラークの“遙かなる地球の歌”に出てくる一節、
「どちらが幸せだと、誰に言えよう?」
というのを思い出しました。
(6/21)
“ファウンデーションの危機”
グレゴリイ・ベンフォード
(早川書房)
アシモフの遺族の公認による、
ファウンデーション・シリーズ
([1, 2, 3,
4, 5,
6,
7])
の続編、“新・銀河帝国興亡史”三部作の第一弾です。
第二弾“ファウンデーションと混沌”
はグレッグ・ベアが、
第三弾“ファウンデーションの勝利”
はデイビッド・ブリンが書いています。
今回の舞台は、まだクレオン1世が皇帝をやっているころのトランター。
クレオンはセルダンを首相にしようとしているが、
議会を牛耳る勢力の邪魔にあい、思うようには進まない。
セルダンとしても、
首相なぞをやらされるよりは心理歴史学の研究を進めたいところ。
なのに、議会の政敵からいろいろと魔の手が伸びてくる始末。
一方で、惑星サークの遺跡から、太古の模造人格 (実在した人物を元にした、
人格を備えた人工知能) が二体発掘され、
心理歴史学の構築に役立つのでは、と再生が進められていた。
それがやがて、誰も知らない、未曾有の人類の危機の発覚に繋がっていく…。
セルダン(とドース)が冒険(?)するあたりはけっこうアシモフっぽい感じもあります。
パニュコピアでのエピソードなど、
わざとらしいまでにベタなピンチへの陥り方ですし
(アシモフってけっこうそういうのもありますよね^^;)。
もう一つの筋、というかどちらかというとこちらが今回の主眼の、
模造人格がらみの話は完全に独自路線です。
それなりにおもしろいのですが、
この二つの筋の繋がりはちょっと弱い感じがします。
分厚いせいもあって (文庫になるときには三冊になるに違いない)、
人によっては途中で飽きるかもしれません。
あと、「そんな取引に何で応じるのか?」が納得行かないのですが…。
“〜混沌”や“〜勝利”で判明するのかな。
それ以外にも伏線をいくつか残したまま終わっているので、
これが残りの二冊できれいに解決してくれることを期待します。
(6/9)
“アンドリューNDR114”
アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ
(創元SF)
アシモフの中編“バイセンテニアル・マン”を、
ロバート・シルヴァーバーグが長編化した作品です。
原題は“The Positronic Man”で、映画の邦題が“アンドリューNDR114”
(そう、何とアシモフ作品初のメジャー映画化! (けっこう意外))、
それに合わせたタイトルです。
シルヴァーバーグによる長編化というと、
“夜来たる [長編版]”
の、「『余計な』第三部」というトラウマ^^;があるので心配でしたが、
こちらは、原作にかなり忠実です。
良くも悪くも、ほぼ原作どおりです。
良く言うと、雰囲気を損なっていない、
悪く言うと、単に話を薄めただけ、という感じです。
追加されて良くなっている点の第一は、
リトル・ミスを回想するシーンが結構あることでしょうか。
後は、家の周囲について書かれているのが、些細なことかもしれませんが、
よい感じです。
というわけで、全体として感じは悪くないのですが、
一点だけ、ラストは「あのセリフ」でぴたっと終ってほしかったなぁ。
さ、映画版はどうなっているのやら。
(5/14)
“仮装巡洋艦バシリスク”
谷 甲州
(ハヤカワJA)
「航空宇宙軍史」シリーズの短篇集。
もともとは弱小な組織であったはずの航空宇宙軍が力をつけ、
強大な軍備を元に外宇宙への尖兵となっている、という設定の世界です。
四つの短篇が収録されています。
一つめの“星空のフロンティア”
には
例によって、
計算機科学的な意味や物理的な意味での「情報」と、
日常的な、「知識」というような意味でのいわゆる「情報」
とをごっちゃにしてしまっていると思われる設定が登場します。
この話の場合は「情報」というより「霊魂」
とでも言ったほうがぴったりくるような。
それは置いとくとしても、最後の展開があまりにも唐突過ぎ。
二つめ、三つめのヴァルキリーがらみの話は、
変に思えるところもなくはないですが、なかなか楽しめます。
最後の表題作は、バシリスクのクルーの行方が安直ですね。
そういう話にしてしまうと「驚くべき」も何もないような…。
もっと「特異領域」の性質を考察した上でストーリーを練ってほしいところ。
(他の収録作品にも言えますが) タイトルももうちょっと適切に付けてほしいなぁ。
いろいろ書いてますが、
このコーナーに登場する日本人作家の作品の中では良いほうだと思います^^;。
(5/9)
“時に架ける橋”
ロバート・C・ウィルスン
(創元SF)
妻と別れ、仕事も失った主人公が手に入れた、
ワシントン州のとある町外れの一軒家は、
奇妙な家だった。
十年近く放置されていたはずなのに、中はぴかぴかである。
その上、朝起きると洗いものも片付いている。
謎を探るうちに、彼は30年近く昔のニューヨークへと繋がるトンネルを発見した…。
帯には「心に染み入る時間旅行SF」となっているけど…、そうかなあ。
あまり共感できる人物は登場しないし…。
うーむ。
「甲冑」とか「サイバネティクス」とかの道具は面白いのですが、
それらの能力が話の都合で変に決められているような感じもあります。
タイムゴーストも結局、何が何だか判らないまま、
話の都合のためだけにちょこっと仕事するだけだし…。
というわけで、いまいち。
あ、「タイムトラベラー」という呼称やタイムゴースト、
第一部の名称「壁についたドア」
というのは H.G.ウェルズへのオマージュですね
(でも、これもそれだけに終っているような^^;)。
(5/2)
“ミクロ・パーク”
ジェームズ・P・ホーガン
(創元SF)
工作用の超小型ロボットが開発されていた。
この超小型ロボットはヴァーチャル・
リアリティと同じようなシステムを使って人間が操作可能で、
ミクロな視点に立ち、さらに小型のロボットを作成したりすることが可能である。
このようなスケールに入り込むと、
見慣れた物理の法則も違う作用をするように見えてくる。
例えば、身長が 1/100 になると体重は 1/1000000 になるので、
重力はあまり重大ではなくなる。
高いところ (もちろん、身長と比較して) から落下しても、
ロボットを壊す恐れはないのだ。
超小型ロボットの開発者の息子とその友人は、
このシステムを使って庭で戦闘ゲームを行っていた。
このスケールなら、庭も広大なジャングルと化すのだ。
そのアイディアを元に箱庭式テーマパークをビジネスとする計画が立てられていたが、
他方ではライバル会社からと思しき妨害の魔の手がちらつくようになっていた…。
超小型ロボットとヴァーチャル・リアリティ技術を組み合わせて
“ミクロの決死圏”的な世界を実現するというところが面白い作品です。
現在でもラジコンカーにカメラを搭載したレースゲームなどはありますが、
それがとことん発展した感じです。
ミクロのスケールでは物理特性も違ってくる、
というあたりをちゃんと (変な点もあるでしょうけど)
考えているのが楽しいところです。
超小型ロボットを使った「お約束」のドンパチも楽しめます。
(4/20)
“ポストマン”
デイヴィッド・ブリン
(ハヤカワSF)
最終戦争が原因でほとんど未開の状態にまで崩壊してしまったアメリカ。
ゴードン・クランツは、生き延びた人々の作った村から村へと、
芝居を見せながら放浪していた。
そしてある日、盗賊にほとんど全ての持ちものを盗られてしまったゴードンは、
山中で戦前の郵便配達のジープを発見した。
彼はその中に残っていた郵便物を利用し、生き延びるための芝居をうったが、
引くに引けなくなり、やがて本当に、希望とともに郵便配達網が広がっていく…。
1997年にケビン・コスナー監督・主演で映画化された小説です。
映画はこの物語の第一部“カスケード山脈”を中心とした話になっているそうです。
映画はまだ見たことないのですが、読んでいてきっとそんなことに違いない、
と思いました^^;。
何故なら、第一部が上述の粗筋が色濃く出ていて、
「心温まるお話」にしやすそうですから (*)。
第一部だけだとあまり SFっぽくもありません。
続きの 7割にはちょっとした SF的設定が登場します。
作者は、
郵便配達網だけでは復興のためのきっかけには不十分だと考えていたのでしょう。
なかなか面白くできていると思います。
(3/27)
(*)…と思っていたら甘かったです。
テレビで放映されたのを見たのですが、
初っ端からホルニスト
(映画では、何故かよく組織化されている単なる山賊団)
の襲撃があった時点で十分に嫌な予感。
結局「山賊たちを蹴散らして、行け! 我らのポストマン」
ってな話になっていました。
はぁ。
最後にはさらに追い討ちを掛けるような絶句もののシーンが…。
SFマガジン2001/10月号でちょうどデイヴィッド・ブリン特集をやっていて、
その中でこの映画は「愚作」と表現されていました。
そう、「駄作」ではなく「愚作」。
原作を知らなくても十分にそうでしょうけれども、
知っているとその評価はさらに強まります。
(2001/9/16追記)
“サイエンス・アドベンチャー (上・下)”
カール・セーガン
(新潮選書)
“コスモス”や、映画にもなった SF小説“コンタクト”
でも有名な天体物理学者、カール・セーガンのエッセイ集です。
科学とはどういうものかというような話から、惑星探査の話、宇宙論の話、
宗教の話、そして疑似科学の話まで、全般に宇宙よりではありますが、
科学周辺のいろいろな話が取り上げられます。
文章はちょっと読みづらい気もするのですが (原文がそうなのか、
訳のせいなのかは不明)、まずまずおもしろく読めます。
さて、いろいろある話のうちで特筆すべきは、もちろん、
上巻の最後の章“SFが私を科学者にした”でしょう (^_^)。
SF小説を書いているくらいですから SF好きなのは驚くまでもないのですが、
こうはっきりと言ってくれるとうれしいものです。
意外とこだわる人のようで、こういう設定はどうしても納得いかん、
というようなこともたくさん言っているのですが^^;、
「批判的な態度をとるひまもないうちにぐいぐいひきずられていってしまう
SFもあるのだ」と、
“夏への扉”
などの名前が挙げられています。
SFファンはこの章だけのために読んでもよいでしょう :-)。
(2/7)
ワンポイント
“沈黙の走行”はともかく、
いくらなんでも“星移住”はないでしょ^^;。> 訳者様
“タンジェント”
グレッグ・ベア
(ハヤカワSF)
日本版オリジナルの短篇集です。
グレッグ・ベアは SF よりもどちらかというとファンタジーのほうが好きなようで、
収録されている 8篇の短篇のうち SF的要素が濃いのは半分くらいです (含・
SFファンタジー)。
表題作は、四次元が「見える」少年の話です。
彼には四次元の空間が感じられ、
あちらの世界にも生き物がいることが認識できます。
少年はあちらの世界の生き物に音楽で自分の存在を知らせようとしますが…。
ヒューゴー・ネビュラ両賞授賞、ということですが、まあ、悪くはないけど、
ありきたりな話っぽいかなぁ、という感じです。
収録作品中最もSFよりの“炎のプシケ”は、結末にもうひとひねり欲しいかな、
というところ。
“姉妹たち”がこの短篇集の中では一番気に入ったかな。
“スリープサイド・ストーリー”は、
どういう結末を迎えることやらと思っていたら、
意外とさわやかに終ってほっとした^^;、という感じでした。
(1/22)
“大潮の道”
マイクル・スワンウィック
(ハヤカワSF)
惑星ミランダには二つの季節変化がある。
そのうちの大きいほうの季節変化の冬 (大冬) には極地の氷が解け、
陸地の大半が水没する。
この惑星土着の生物は、この変化に対応していて、
季節によって大きな変身を遂げる。
この不思議な惑星の、大冬を間近に迎えたある日、
星間政府の役人が捜査のために派遣されてきた。
グレゴリアンという男が禁制のテクノロジーをこの星に持ち込んだらしいのだ。
役人はグレゴリアンの所在を追うが、
逆に「魔法使い」グレゴリアンの術中にはめられてゆく?!
多くのテクノロジーが禁じられていて「魔術」が幅を利かせる世界ですが、
かといっていわゆるファンタジー的な魔術でもなく…
というSF的なものと魔術的なものが混交した世界です。
妖しい雰囲気の物語ではありますが、
「代体」などの SFガジェットもあってまずまずのおもしろさでしょうか。
最終的にグレゴリアンが何をやりたかったのかがよく解らなかったのですが…。
終り方が短篇小説っぽい、という気もしました。
登場人物、道具などの中では、「書類鞄」が一番ナイスです。
こういう鞄は一つ欲しいですね^^。高そうだけど…。
(1/15)
“スタータイド・ライジング (上・下)”
デイヴィッド・ブリン
(ハヤカワSF)
好戦的な種族のひしめく銀河系で、
人類は“主族”のいない奇異な種族とみなされていた。
数十億年昔に存在したと言う伝説の<始祖>の種族から始まって、
他の種族を<知性化>し、
その知性化された種族がまた他の種族を知性化して…
という道を辿るのが銀河社会の「常識」なのだ。
今、人類と知性化されたイルカが乗り込んだ探検船<ストリーカー>
は銀河の列強諸族に追われ、
海洋の惑星キスラップに逃げ込んでいた。
<ストリーカー>がある星団で見つけた太古の大船団の秘密を独占しようと、
小さな船を巡って激しい宇宙戦が繰り広げられていく。
<ストリーカー>は圧倒的な武力をかいくぐり、逃げ延びることができるのか?
登場人物は人類よりもイルカのほうが多く、イルカのネイティブランゲージ(?)
は詩のような言葉なので、最初のうちはちょっと読みづらい感じもしましたが、
途中で慣れました^^。
比較的短い期間の一連の出来事ではあるのですが、
壮大な設定が詰め込まれています。
この大きな舞台と、
アクション的な要素を両立させているのはなかなかなものだと思います。
この世界を舞台とした作品は他に“サンダイバー”“知性化戦争”
が出ています。
“サンダイバー”のほうがこの作品よりも年代的にも執筆順的にも先のようです。
ハヤカワ文庫の番号だとこっちが先だから、まずこっちを読んだのにぃ。
(1/8)